不思議な宿
冒険者ギルドを後にした俺たちはリサルムに紹介された宿へと来ている。もちろん夜の道案内に任せっぱなしだった。そして宿に着いたは良いんだが…。
「ここ…だよな?」
「そうだと思うけど…」
「地図ではここになっていますが」
「外観は幽霊屋敷のようですね」
そう、まさに幽霊屋敷のようだ。今俺たちがいる場所は街の中心地、先程いたところからはだいぶ離れた、街の外れだ。そのため周りに人はいない…妙な静けさが漂っている。街が広いだけに防護壁に囲まれていても街の外れは人が少ないんだな。
「とりあえず中に入ってみるか」
「そうですね、それではフェレサよろしくお願いします」
「うん、え!?いやなんで私が…」
「フェレサにぴったりの役目じゃないですか」
「何がぴったりな役目だい!やだよなんか怖いじゃないか!」
夜がフェレサを無理やり行かせようとしている、フェレサも珍しくかなり抵抗してるな。
「仕方ない、ここはクジで決めよう」
夜とフェレサが言い合っている間に割って入り提案する。
「そ、それなら公平でいいけど」
「じゃあ決まりだな」
そう言って俺は簡易クジを手早く作る。
「さあ引いてくれ」
3人が順番に引いていく、そして自分が引いたクジを一斉に確認する。
さあ、誰だ。
「ぎゃ、ぎゃあーーー、なんで私が!」
「それではフェレサ、観念して中に入ってきてください」
「よろしくなフェレサ」
「そ、そんなー!ノ、ノーメンさん!一緒について来てくれないかな」
「いえ、くじで決まった事なので…」
「そんなノーメンさんまで!」
「早く行きなさいフェレサ、みっともないですよ」
「わ、わかったよ、もう!」
そう言って恐る恐る宿へと入っていくフェレサ。
「アキハ様、あのクジ仕組んでありましたか?」
「あれ、ばれてた」
「いえ、どうやったかはわかりませんでしたが、フェレサが行った方が面白いかと思いまして」
「あ、そういうこと。それならノーメンもわかってたんじゃないか、普段ならああ言われたらフェレサについて行くだろう」
「はい、主様のお考えならばこっちの方が良いかと」
まあその通りだ。どのクジを引いてもフェレサが行くことになるよう仕組んでいた。フェレサって反応が面白いんだよな、からかい甲斐があって面白い。
「しかしまあ、俺の考えをくんでくれるのは助かるが自分の意思もしっかり持てよ。お前達は独立した生命なんだから。まあそれで俺と考えが分かたれたなら俺は容赦しないがその方が面白い、従順な奴なんて面白くないからな」
「はい、分かっております」
「はい」
3人で話しているうちにフェレサはいつの間にか宿に入ったようだ。
暫しの間沈黙が訪れる…。
「なかなか出てこないんだが」
「どうしたのでしょうね」
「私が見てきましょうか?」
ノーメンも先程のことに少なからず罪悪感を感じたのかフェレサの様子を見に行こうとする。
ガチャ、ギィィ
宿の扉からフェレサが出てきた。
「お、でてきたな。どうしたフェレサ?随分遅かったじゃないか」
「ア、アキハさ〜ん!」
フェレサが俺に抱きついてきた、どうしたんだ一体。
「どうしたフェレサ、中に何があったんだ?」
半泣きだなフェレサ…。
「ちょっ⁉︎フェレサ!アキハ様から離れなさい!」
そう言って夜が俺からフェレサを引き剥がす。
「で、どうだったんだ中は?」
「一体どうしたのです。そんなに取り乱して」
「じ、実は…」
ん?
「誰だお前、フェレサじゃないだろ」
「え?アキハ様一体何を」
「主様、どうやらその様ですね」
ノーメンも気づいたな。俺もここまで近づかなければ気づかなかった、まあそういうのが面白いから俺は普段あえて感知能力の低い第七のステータスにしてるんだが、
先程まで俯いて半泣きだったフェレサが立ち上がり口を開く。
「はは!いやあ、まさか気づかれるとは思わなかったよ、ごめんね驚かせてしまって」
そう言うフェレサの姿はだんだんと変化し緑の髪の少年の姿へと変わっていく。
ん?エルフかこいつ。
「姿を変えていたのか、それでフェレサはどこだ。中にいるのか?」
「そうだね、とりあえず中に入ってよ。事情は中で説明するからさ」
「わかった」
そうして俺たちは少年の後ろについて宿の中へ入った
、警戒は必要ないだろうな。あの様子からして。
「おお、これは凄いな」
「これは…」
「普通の宿ではなかったのですね」
宿の中は外の外観からは想像がつかないほどしっかりとした綺麗な宿だった。造りは木造で年代物ながらもしっかり管理された綺麗な宿だ。
「それじゃあこの部屋に入ってくれるかな、中にさっきの女性もいるから」
ドアを開け中に入ると応接室のような場所だった。その部屋のソファにフェレサが座っている。
「や、やあアキハさん…」
「やあフェレサ、それじゃあ説明してもらおうかな」
「そうですね、アキハ様」
「………」
「あ、あれなんか二人とも顔が怖いんですけど…私別に何もしてないですよ、本当ですよ。だからその振り上げた手を下ろしてくださいヨルハさん、お願いしますだから!」
なんで敬語なんだよ、最後変だったし。
「それじゃあ説明するからソファに座ってね」
夜がフェレサを殴ろうとした時にちょうど部屋に少年が戻ってきた。どうやら飲み物を持ってきてくれたようだ。
「そうだなとれあえず席につくか」
「後でお仕置きです」
「な、なんで〜!」
俺たちがソファに座った後、少年がコップを配り飲み物を入れてくれた。これはなんていう飲み物だ?
「それじゃあ話すけど、まず君達はギルド長にこの宿を紹介された人たちだよね」
「ああ、そうだ」
「ついさっきギルド長から連絡があってね、この宿を紹介した人が向かってるからよろしくお願いしますってさ」
そうだったのか。
「それでさっきのは何だ?」
「いやーあれはちょっとした悪ふざけだよ、ごめんね、その女性がどうしても君達に一泡吹かせたいと言ってきたからちょっと手伝ってあげたんだよ」
「フェレサ、あなた…」
夜が呆れてしまっている。
「す、すいませんでしたー。だって怖かったんだもん。それにいつもなんか余裕があるしさ3人とも!それは一度でも一泡吹かせてみたいじゃん」
土下座してやがる。そういえば初めて会った死者の森でも土下座しようとしていたな、何、土下座好きなの君。
「もういいですよフェレサ」
「ヨ、ヨルハさん!許してくれるのーー」
「愚か者が」
「ショック!!」
フェレサがショックに土下座から顔をあげられないでいる。
「それで、俺たちはこの宿に泊めてくれるのか」
「その女性は放置でいいのかな」
「ああ、放置でいい。あれはもう手遅れだ」
「何が手遅れなんだい!」
「えっと、うん、ギルド長からの紹介だしね。是非とも泊まっていってよ。しかし君…僕の容姿を見てもあんまり舐めた態度は取らないんだね。大体の奴は僕の容姿に力を見誤り痛い目に合うんだけどね」
「それはまあ、強さに見た目は関係ないしな」
それに俺にとってはどんな相手でも大した相手じゃないんだ、警戒は身体に染み付いた反射反応に任せておけばいい。
「はは、そうかいそうかい、君たち面白いね。それじゃあ名乗っておこうかな、僕の名はディル・クレイン。君達の先輩のSSSランク冒険者だよ」
ほう、そうなのか。
「え!?そうなのかい!」
フェレサが土下座状態から顔だけあげて驚いている。
「その見た目といい、何か能力を使ってるのか?」
「それは秘密さ。まあ取り敢えずこれからよろしくね、フェレサさん、ノーメンさん、ヨルハさん、アキハさん」
俺たちの名前…ギルド長に聞いていたのか。
「それじゃあ早速宿の料金なんかの話をしようかな」
こうして俺たちは無事宿を確保することができた。
しかし、SSSランク冒険者か。限りなく情報が少ないSSSランク冒険者にこんなところで会えるとは、…それにしてもなんでこんなところで宿なんかを経営してんだ?




