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ルイーナの王女

だいぶ遅いですね、すみません…




「主様、あと少しでルイーナの街につきます」


御者席からノーメンが言う。


今は森の中の道を通っているところだ。先ほど昼食の時にノーメンから聞いた限りではこの森を抜けてすぐの所にルイーナの街があるはずだ。


馬車は薄暗い森を抜けていき、だんだんと馬車外が明るくなってくる。次の瞬間にはもうすでに光に包まれ森を抜けたことがわかった。


「お〜、アキハさん街が見えたよ。すごく大きい!」


馬車の窓から身を乗り出し外を伺っていたフェレサがなにやら叫んでいる。


「ノーメン、検問所はあるか?」


「はい、ここからまっすぐのところに大きな門が見えるのでそこが検問所かと」


「じゃあ早速そこへ向かってくれ」


「かしこまりました」


検問所へ言ってくれとノーメンに伝えたあとしばらく動いていた馬車はだんだんとスピードを落として止まった。

俺ももう1つの窓から外の様子を伺う。

…どうやら人が並んでいるようで少し時間がかかりそうだな。


スピードは遅いながらもだんだんと前に進んでいた馬車が検問所までもう少しというところで急に止まってしまった。理由はというと、


「おい!なんでこの品を街に入れんのにこんなに金を払わなくちゃいけねえんだよ!」


「規則ですので…」


「街の代表者を呼んでこい!俺が直接話をつけてやる。俺はエルノイド大陸でも国の王族お抱えの商人なんだぞ。その俺に逆らったらどんな目に合うかわかってんだろうなあ」



「フェレサ、どうしたんだ」

先ほどからずっと窓から身を乗り出して外を見ているフェレサに聞く。


「うーん、どうやら検問所の兵士さんと商人らしき男の人が揉めてるみたいだね。商品を街に入れる時にかかるお金が高すぎるって怒鳴ってるんだよ。今は街の代表者を連れて来いって言ってるね。兵士さんもオロオロしちゃって大変そう、商人の方がエルノイド大陸の王族と繋がりを持っていると言っていて対応に困ってしまってるみたいなんだよ」




それはまたおもしろ面倒くさそうなことになっているじゃないか。

しかし商人の方は馬鹿だろ、エルノイドのどの国の繋がりを持っているかは知らんが助けてくれるはずがないだろうに。この街に暮らす代表はこの大陸の王の子供、王女だぞ。規模からしたらその王女はエルノイドの国と大差ない領地を治めていることになるんだ。つまりはエルノイドノの国王達となんら変わらないほどの権力は持っているということだ。


それを考えられずに自分の意見を押し通そうとする。よほどの馬鹿らしいな。


「少し行ってくる、多分この後面白いことになりそうだから」


「本当かい!じゃあ私も行こうっと」


「私は待っています。この馬車にも二人ぐらい残っていた方がいいと思いますから」


「ああ、じゃあ行ってくるな」


「はい」


「行ってきまーす」

ギリッ

「うわ、ヨルハさんが睨んだ〜」

とりあえず俺とフェレサの二人で検問所まで様子を見に行くことになった。気分は野次馬だな。


検問所までいく間にも数名が並んでいた。前の商人同様、馬車の荷台に大量の商品らしき物品を積んでいる馬車もいた。しかしその誰もが兵士と揉めている商人にうんざりしている様子だ。気持ちはわかる、俺も列に並んで何かを待つとか嫌いだし、それが進まない原因が人ならばその人に苛つくのも仕方ない。



列の一番前、つまり今商人が揉めているところまで俺たちはやってきた。

商人はいかにもな感じの容姿をしている。眩しいくらいの豪華さ溢れる衣服を身に纏い、指には宝石が光り輝いているたくさんの指輪をはめている。体型は豚と見間違えるほどにデブだ、いや、今の発現は豚に失礼だな。

しかしなんでこうやって威張っている奴ってだいたいデプなんだろうか、やはり食生活も自ずと似てきてしまうのだろうか。


そんなことを考えている間も豚さんは兵士に向かって怒鳴り続けている。だが兵士はどうやら代表を呼ぼうとはしていないみたいだな。


「アキハさんどうするんだい、これから面白いことが起きるって言っていたけど何がーー」


「待ってろもう少しでタイミングが合う」



…「いい加減にしろよ、私が誰だか理解出来ないのか!もういいゴルドル、少し痛めつけてやれ」


「了解」


豚さんが後ろに控えていた護衛らしき男に命令を下した。どうやら暴力沙汰に発展するみたいだ。入るなら今か…。


兵士の方はただただ慌てている。どうやらこの検問所にはこの兵士一人しかいないようで助けを求められる人が周りにいないようだ。しかし検問所に兵士一人って少し無用心すぎないか、こういう揉め事が普段からないわけではないだろうに。


豚さんの護衛は兵士に一歩一歩威圧をかけるように近づき、自分の拳が届く範囲に到達した瞬間結構な速さで兵士の後ろに回りこみ、蹴りを入れようとする。フェレサは余裕で見えているようだが兵士の方は反応しきれてないな。


護衛の男の蹴りが兵士に当たる瞬間、俺は護衛の男と兵士の間に入り込み護衛の脚を掴む


バンッ


辺りは静まり返っている、どうやら状況を理解できないでいるようだ。


「な、なんだお前!」


護衛はとっさに掴まれている脚を振りほどこうとするが離すわけがない、掴んでいる手に力を入れ護衛の脚を握りつぶす。


グシャ


「ガッ、グァアッアアァアアア!」


俺が手を離すとその痛みに地面に崩れ落ち悲鳴にもならない声を漏らし痛みに震えている。



「な、なんだ貴様は!」


護衛をやられて焦っているのか取り乱しながらも豚さんがこちらに叫んでくる。


…しかし、そろそろ来てもいい頃なんだがな。




「どうしたんだ、これは…」


お、やっと来たか。


「ルサルファ様!ど、どうしてここに!?」

兵士の後ろには褐色肌に黄色の髪、身長は俺より少し低いぐらいの獣人族の女性が立っていた。


…そう、俺が待っていたのは王女だ。先程馬車にある時点で結構な魔力を保有する個体が検問所へ猛スピードで近づいて来ているのを感知していた。魔力感知精度の低い通常状態でも気づけるほどに魔力量が多かった。恐らくだがノーメンと同程度の魔力量を有しているだろう。魔力が漏れているのは威嚇のつもりでわざとやっているんだろうな。


しかしだ、これでやっと俺の予想通りにことが運んでくれそうだ。

兵士は王女に今起こった事を説明しているようだし。


護衛は痛みに気絶してしまった。かなり鍛え慣らされているようだったが今の痛みで気絶してしまうのか…。あまり痛みには慣れていなかったのだろうな、攻撃特化ぽいし攻撃を喰らう前に相手を倒しちゃう感じか。


「アキハさん、これが面白いことなのかい?」

隣にきたフェレサが聞いてきた。


「違うぞ、これから面白いことになるかもしれないことだ。これ自体はたいして面白くはない」


フェレサと話しているうちに兵士も王女に説明し終わったようだな。


王女は護衛を失い先程から黙りこくっている豚さんの方へ歩いていく。


「な、なんだ貴様!」


「あなたが呼んでほしいと言っていたこの街の代表者だ」


「そ、そうか。なら話は早ーーーー」


「この街、いや…私が治めるこの土地の全ての街はあなたの立ち入りを拒否する。即刻この領地を出て行くんだな」


王女のいきなりの発言に呆気に取られている豚さん、まあ当たり前の処置だ。


「そんなこと許すと思うかぁ!!私は王家とも繋がりがあーー」


「戦争なら引き受けよう、その時は容赦をしない。ただあなた一人の為に国家が動くとは思えないがな。さあ、さっさと行け!この領地にあなたの居場所はない!」


「ち、ちくしょうが!絶対に後悔させてやるからな!!」


豚さんは馬車に乗りこの街と反対の方向へ向かっていった。

しかし、あの宿のお母さんが言っていたことは本当らしいな。歳のわりに肝が据わったしっかりした人のようだ。


「話は聞いている、君が兵士を助けてくれたそうだね。ありがとう」


「いや、礼を言われるほどのことじゃないさ。それでその置いて行かれた護衛はどうするだ?」

豚さんは気絶している護衛を置いて一人で行ってしまったからな。


「相応の処罰を下す。もう少しで休憩に入っていた兵士達が戻ってくるはずだ」


なるほど、だから検問所にはこの兵士一人だけしか居なかったのか。


「それじゃあ俺たちは馬車に戻るな」

そう言って帰ろうとすると、


「ちょっと待ってくれ、今回の件についてお礼がしたい。できればわたしの館に来てくれないか」


「いや、別に大したことじゃ…」


「私の気持ちだ、お礼はさせてくれ」


「…まあ、そうだなわかった。ありがたくお礼は受けるよ」


「そうか、じゃあ門を入ったところで待っているから検問所を通ったら来てくれ」


「わかった」

こうして俺たちは街に来て早々にこの領地を治める王女に会うことができた。


…ていうかそのつもりで兵士を助けたんだがな!まさかこうも上手くいくとは…。






街に着けました、良かった!

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