繁盛予定の宿
秋達が次に目指すは…
今朝も親子二人を含む6人で朝食を食べている。その後は準備を整えてすぐにこの宿を出発するつもりだ。とりあえず大通りに出て、地図を買わなければいけない。今俺が持っている地図はユルグリッドの世界地図、それぞれの大陸の詳細地図、エルノイド大陸の各国の詳細地図だけだ。今この場所がキャッタナ大陸のどの国に属しているのかも全くわからない。これから行くところなども決めて行かなきゃならないからな地図は絶対に必要だろう。あ、それと食料も必要だな。王都から掻っ払ってきた食材ももう残り少ないし…それ以外には特にないだろうか?まあ大通りに行ってから
考えればいいか。
とりあえず今は情報収集に努めよう。
「それでこの大陸について教えてもらいたいんだけど」
「ああ、いいよ。確か旅をしてるんだったよね。まだ若いのに凄いねぇ。えっとこの大陸についてだったね、何も知らないと思って話していいのかい?」
「ああ、そのつもりで頼む」
出来るうちに情報は集めておかないとな。
というわけで宿のお母さんにいろいろと聞くことにした。
「それじゃあ説明するよ。この大陸、キャッタナ大陸は一人の王様によって治められているんだ。
国の名は〈ガルマリア〉、この国は王様を頂点に置いて王様が王都と周辺の土地を、その他の土地を三人の息子と四人の娘がそれぞれ治めてる。
王様は優れた方でね、今まで反乱を起こされたことがないんだよ。それにこの国の王族はわかっているだけで800年間も変わらずに続いているそうだよ。
子供達も優秀な方が多くてね、その中から王様が次期王様を選んでいるんだ。まだ王様の子供が幼いうちに王様がお亡くなりになったら王様の子供意外の他の王族の方が王位につくこともあったらしいけど王様が国を治め子供達がそれぞれの土地を治める。それは滅多に変わらないそうなんだよ。
だからもし今の王様がお亡くなりになったらその子供達の中から次期国王が選ばれるんだろうね。そこから今度はその子供達が大きくなったらそれぞれの土地を治めるようになる。王様の兄弟はその補佐などまた重要な役職について国をサポートする。この国ではそれがずっとくれ返されてきているんだよ」
ふむ…それはまた凄い国だな、この広大な大陸を一人の王が治めているとは…だけど、
「王族同士の対立とかはなかったのか?」
王様が次期王を任命するとは言えやはり納得できない者も出てくるんじゃないのか。
「それが今まで一度もないのよ。時期王の即位はスムーズに行われて今まで一度も王族同士の対立が確認されたことはなかったの。どうやら王族の方々は血族の結びつきが強いらしくてね、一族みんなとても仲が良いらしいのよ」
それはまたなんというか平和そのものな一族といった感じだな。
「それじゃあこの港町はその7人の子供のうち誰が治めてんだ?」
「ここはルサルファ様が治めているよ。まだ若い王女様でね、歳はそうだね…フェレサちゃんぐらいだと思うよ。まあ若いと言ってもやっぱりしっかりしていてね。この町はルサルファ様に本当にいろいろと助けられたよ」
「その王女様は普段どこの町に居るんだ?」
「7人の子供達、つまり領主様達はみんなそれぞれの治める土地の中心の街で暮らしているよ。さらにこの大陸の中心には王都があるんだ。まあそうだね、ルサルファ様が暮らしてる街の名前はルイーナだったかな」
「そうか、まあこのぐらい教えてもらえれば十分だ、ありがとな」
とりあえず次に目指す場所は決まったな。
「こんな事ぐらいなんでもないさね」
「アキハさーん、話終わりましたか?」
「ん、ああ今終わったところだ」
どうやら二人で話している間にみんな朝食は食べ終わっていたようだ。
「今後の予定は決まりましたか、アキハ様?」
「おう、決まったぞ。それじゃあ朝食も食い終わったみたいだし部屋に戻って出発の準備を整えるぞ。この後町の大通りで買いたいものがあるから少し早めにこの宿を出て行く。午前中にはこの町を出発したいからな」
「りょうかーい!」
「はい」
「わかりました」
そう言ってそれぞれ自分の部屋へ戻っていく。まあ最終的には荷物のほとんどが俺のアイテムボックスに入っちゃうんだがな。唯一フェレサが自分の物入れを持っている。腰につける袋タイプなんだがあれはどうやら空間魔法が付与されているようで、かなりの量の物が入るそうなんだ。まあそれでも限界があるから日常用品とかは俺のアイテムボックスに入れるようにしている。
それじゃあ俺も部屋に戻って準備するか…。
宿の前、準備を終えた俺たちは二人に別れの挨拶をしている。
「またいつかこの宿には来たいもんだな」
俺は結構気に入ってますよこの宿。
「その言葉は嬉しいんだけどそれまでこの宿が続くかわかんなくてね…最近は本当にお客さんが来なくなっちゃって」
確かにそんなことも言っていたな。だがこの宿を潰すなんて勿体なさすぎる。
「大丈夫だ。しばらくすればお客さんも増えるだろうからな」
「なんだいそれは予言かい?ふふ、それが当たると嬉しいんだけどね」
「まあ信じなくてもいいからさ、しばらくは宿を続けていてくれ、そうすればわかるはずだからな。そんなことより忙しくなって倒れたりするなよ、新しく雇う店員でも探しとけ」
「ははは!なんだか元気が出てきたよ。まあその言葉を信じてしばらく続けていくよこの宿も」
「まあそういうことで…じゃあな。いろいろとありがとよ」
「はいよ、まあこれからもなんとか頑張ってみるよ!」
こうして俺たちは宿を出発した。
少し歩いたところで後ろから、
「さようなら、みなさーん!」
宿の娘が手を振っている。
「じゃあねー!」
フェレサは手を振りノーメンは軽くお辞儀をしている。俺はこういうのあんまり好きじゃないから特にやらないが…夜も俺同様何かやるわけではないようだ…。
町の大通り、地図の入手と食料調達は二手に別れ行った。俺と夜、フェレサとノーメンの組み合わせだ。俺と夜で地図を買い、フェレサとノーメンが食料調達、フェレサはあれでも料理ができるからな任せても大丈夫だろ。それぞれの店は昨日の時点で確認済みで店を探す必要がなく結構早く終わった。馬車庫に預けている馬は買い物に時間のかからない俺と夜が迎えに行くことになっていた。
二人との待ち合わせは買い物が終わり次第、港からちょうど反対側の町の出入り口。この町には検問はないのでただ門がたっているだけのようだ。
昨日宿の少女にエルノイドの通貨をキャッタナ大陸の通貨に変えたほうがいいと言われていたので冒険者ギルドで残っている金貨の半分をキャッタ大陸の物と変えてきた。
「アキハさーん、ヨルハさーん買ってきたよ!」
声がした方をみると二人はその両手にかなりの量の食材が入っているであろう袋を抱えている。
どうやら渡した銅貨を全て使ってきたようでかなりの量を買い込んできたようだ。
「随分と買ってきたようだな」
「いやー、美味しそうなものばかりでね、ついついいっぱい買っちゃったよー」
「遅くなってしまい申し訳まりません」
「いや、いいよ別に」
早速アイテムボックスへ食材たちを放り込む。
その流れでアイテムボックスに入れていた馬車を取り出す。
「それじゃあ馬車に乗るか、とその前にちょっと先に乗っていてくれるか」
「ん?わかっけど何かするのかい」
「ちょっとな、大したことじゃないから先に乗っていてくれ。すぐに終わる」
「うんわかった」
「ノーメンは今回も御者よろしくな」
「はい」
そして3人が馬車に乗った後、俺は眼の色を翡翠色へと変化させる。そして能力を発動する。
ユニークスキル【記憶操作】。
眼を閉じて集中する、そして同時に俺の頭の中には様々な記憶が流れ込んでくる。今回は以前この能力を使っ時にはやらなかった記憶の操作を行う。以前は記憶を見ただけで終わってしまったからな…俺は町の住人達の記憶にあの宿の記憶を植え付ける。まるで最初から知っていたかのように違和感なく、実は俺はこの作業を町のいたるところでやっていた。さすがに町全体を対象範囲に入れることはできないので町の中心地などでやることでほとんどの町にいる人々に記憶を植え付けることができた。これであの宿の噂はどんどんと広がっていき、この町にやってきた冒険者などにも伝わりあの宿にも客は増えていくだろう。
普段ならこんなこと面倒くさくてごめんだがあの宿は結構気に入ったからな。…いや一番の理由はたぶん昔のことを思い出した場所だからなんだろう、それにあの夜景はまた見たい。
と、これくらいでいいかな、能力の発動を終了し俺は馬車に乗り込む。
「終わったのですか?」
馬車の中で待っていた夜が聞いてきた。
「ああ、もう出発していいぞノーメン」
「はい」
ガタンッ
ヒヒーン!
ノーメンの返事と共に馬車は動き出した。




