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出発の日



魔王との戦闘を途中で放棄して宿に戻って来た俺はまず最初にコピー体からベットの上に倒れている本体へと意識を移す。


バタン

「お、上手くいったか」


本体へと意識を戻した俺はベットから起き上がりコピー体を見る。

コピー体は意識を失ったかのように床に倒れていた。どうやら意識を飛ばしたコピー体の自我と意識は消滅するようで起き上がってくる様子はない。


「どうしようかな、この体。ステータスは俺に戻したし、でも処分するのもなんか嫌だな…」


アイテムボックスに入ったりしないかな。


というわけで試してみたのだが、なんと驚き、入ってしまった。

アイテムボックスは一応生きているものは入れることができないはずなんだが、コピー体は自我と意識が消滅しただけで身体の機能は全て正常に働いている。だから生きているという枠組みに入る筈なんだが…まあ入ったならそれでいいんだが、いまいちそこら辺の線引きがよくわからない。


まあこれでコピー体の事は片づいたんだが


あの魔王はこれからどうするんだろうな。

あの魔王結構な戦闘狂っぽかったし、また戦うことはありそうだけど、また魔族を俺のところに送ってくるのかな、そうしたらまた転移で会いに行って楽しくなってきたところで引き上げて焦らすというのを繰り返してみよう。


あの魔王とはあいつが本気を出したらちゃんと戦ってやろう。

それまではうざいほどにからかってやる、これはこれで結構楽しそうだな、ふふ。

想像するとかなり面白いな、ストレス溜まるだろうな〜あの魔王。次に部下を送り込んで来た時が楽しみだ。


こうして俺は新たにできた楽しみに思いを馳せながら眠りについた…。





翌朝は清々しいほどの晴天だった。気温も丁度良く実に過ごしやすい日だ。

俺は今、朝の散歩に出ている。昨日寝るのが遅かったにしては朝の目覚めもよく結構早い時間に起きることができた。

まだ結構早い時間だが町中は意外と人が多い、これは港町だからなのか?


しかし、朝目覚めがいいとそれだけでとても良い気分になりますな〜、たまにはこんなのんびりしたのもいいかもな。


こうして俺は何隻かの船がつなげられている港を海を見ながら歩いていく。


どれくらい歩いただろうか、だいたい10分ほど歩いたかな。そうしたらここからちょっと離れたところにあるベンチにフェレサが座っていた。何やってんだあいつ。

フェレサのあるベンチに行く。


ベンチについた俺はフェレサの横に座った…んだがどうやらここまで近づいても気付いていないようだ。何か考え事でもしてるのか。

声をかけてみるか。


「おはようフェレサ、随分と朝早いんだな」


俺の言葉から少し間が空きフェレサから返事が返ってきた。


「…うわ!ビックリした。いきなり現れないでくれよ」


「さっきからここに座っていたぞ、どうした何か考え事か?」


「いや、全然気づかなかったよ〜。え、まあ考え事と言えば考え事かな」


能天気そうに見えてもフェレサは意外と色々なことを考えてそうだしな。むしろ本質は真面目なのかもしれない。短い付き合いだが俺がフェレサに感じる印象は見た目とは違い真面目なところだ。本当の所はわからないが。


「なんだ悩みか何かか?」


「そうだね、これは悩みだよ。まあ答えを出すにはもう少し時間がかかってしまいそうだけどね」


悩みの相談とか聞きたくないな。

「そうか、まあゆっくり答えを出せばいいさ。というわけで俺は出発の準備があるので宿に戻ります。それじゃあ」


「ちょっと待って」


「なんだ、俺は悩みなんて聞かないぞ」


「いや、それは別に良いんだけどさ、アキハさん達って今日この町を出るでしょ?」


「ああ、そのつもりだ」


「いつ頃出るか教えてくれないかい。せっかくだから見送りに行きたいんだよ」


見送りなんてわざわざいいのに、面倒くさいし。まあ自分からくると言っているんだがら教えるが。


「今が大体6時か、じゃあ10時頃かな。朝食は宿で食べるつもりだし。まあ船の出る時間にもよるが大体10時ごろの船に乗るつもりだ。あ、そうだフェレサって船が出る時間とか知らないか、そうすれば出発する正確な時間を教えられるぞ」


「え、ああ知ってるよ、10時ごろの出発なら10時10分の出発があるよ、そのあとは11時だから10時ごろ出たいんだったらこれに乗ればいいんじゃないかな」


「そうか、ありがとな。じゃあ10時10分の船に乗るから見送りに来るならその時間にな」


「うん、わかったよ。サリファも見送りに連れて行くよ」


「ギルド長だから忙しいだろう」


「大丈夫さ、サリファは仕事が早いから」


「まあ無理して連れてこなくてもいいからな」


「大丈夫さ!」


その大丈夫はなんの大丈夫なんですかね。


「じゃあまた後でな。まあ後でって言っても会ったらすぐお別れなんだが」


「うん、それじゃあまた後で」


こうして俺はフェレサと別れ早朝の散歩も終わりにし、宿に戻った。



宿に戻るとすでに夜とノーメンは起きていた。一応書き置きはしてあったので特に二人に何か言われるわけでもなかった。


朝食は俺の部屋で食べた。ノーメンはどうやら調理が出来ないらしく夜に説教をされながら教えられていた。



そしていつも通りの美味しい朝食も食べ終わり、早速出発の準備に入った。出発の時間は夜とノーメンに教えてあるのでそれまでは各自部屋で待機だ。


コンコン、


「アキハ様、そろそろ宿を出て船へ向かった方が良いのではないでしょうか?」


「そうだな、宿の前で待っててくれ俺もすぐに行くから」


「はい」



しっかりと準備を整え宿を出る。まあ、相変わらず手ぶらなんだが。


宿から3人でキャッタナ大陸行きの船へ向かう。船乗り場に着くとすでにサリファとフェレサがきていた。


「本当に来たんだな」


「来るって言ったじゃないか、それにサリファも来たよ」

「今回はありがとうございました。たった1日でしたがまた会える機会ができるといいですね」


「そうだな、こちらもいろいろとありがとな。馬の件も」

馬の件とは、馬車庫に預けてある馬のことだ。キャッタナ大陸でも出来れば馬車の旅をしたいと思った俺は昨日のうちに船に馬を乗せられないか頼んでいた。それを船長にサリファが直接言ってくれることで許可をもらうことが出来たのだ

「お安い御用ですよそのくらい」


「ところでだ…さっきから気になっていたんだがフェレサ」


「ん?なんだい?」


「お前、なんで冒険者用の服着てんの?これからどっか行くの依頼とか」


「じ、実はそのことなんだけどさ…」

なんかフェレサがもじもじし始めた。


「フェレサ、しっかり頼まないと」

横からサリファがフェレサに言う。


頼む、俺に?何のことだ。


「今朝、悩んでいたよね私」

「悩んでたな、何のことかは知らんけど」


「実は悩んでいたことなんだけど…私も一緒に連れて行ってくれないかい?ダメ…かな」


まさかそう来るとは!フェレサと旅ねぇ、こいつが俺の性格に耐えられるとは思えないんだけどな。


「いきなりだな、しかしなんで一緒に旅なんて…」


「それはもちろん楽しかったからさ、君たちといると本当に楽しかったんだ。だからこれからも一緒に冒険がしたいと思ったんだ」



楽しかった…か、俺は思う。やはり人生は面白くなければ、と。その面白いとは突然やってくるかもしれない、でも自分で気づき求めることができたならそれはとても幸福なことで今までの人生を一変させる可能性を秘めているものだ。それをフェレサは見つけることが出来たのかもしれない、なら俺はその意志を大切にしてやうじゃないか。


「おそらくフェレサが今想像しているものとは異なったものかもしれない、旅の途中で気づいてしまうかもしれない、失望するかもしれない、そしてそんな感情が少しでも起きたならすぐに俺たちとは別れるんだ。それなら別について来ようが構わない」


「本当かい!やったー!」

「良かったですね、フェレサ」

こいつ俺の話聞いてたか。

まあ、これで決定だな。新たな旅の同行者。


決まってしまったわけなんだが、俺は夜の方を見る。

その顔はまるで苦虫でも嚙み潰したような表情だった。本当に嫌なのか、夜さん…。


「それじゃ時間だし船に乗るぞ」


「はーい!」


テンション高えなフェレサ。


その横でテンションが急降下した夜さん、いやまだ下がり続けてそうだな。


「馬は既に乗っていますので」


「ああわかった」


「それではさようなら、みなさん。フェレサも元気で」


「またね、サリファ。また会いに来るから」


「はい!」


二人のお別れも済み俺たちは船に乗り込んだ。船は結構な大きさだ。縦幅30メートル、横幅15メートルぐらいある。それに俺たち以外にも何人か乗客がいるようだな。



ブオーーーーーー

船が出発するようだ。


これで港町シオラスとはお別れだな。いやエルノイド大陸ともしばらくお別れだ。


次に目指すはキャッタナ大陸!


スパン!

今のなんの音だと思いますか?

今のは夜がフェレサの頭を叩いた音です。

船に乗ってもずっとはしゃいでいるフェレサが頭にきたんでしょうね。

どうやら言い争っているようだ、そこに仲裁に入るノーメン…君はそういう立ち位置なのか…大変だな。


頑張れ、ノーメン!





出発しちゃいました…

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