迷子の旅路
迷子のお知らせです
名前は蒼葉 秋くん
保護者の方は至急二階迷子預か………
ソーラスの街を出てからかれこれ2時間以上歩き続けた。
なのに、なのに!街が見えないよおおぉぉーー!!
「夜よ、この地図には確かにこの周辺に町があることになっているよな」
「はい、確かに地図には〈バスール〉と町の名前が載っています」
「だよな、別に俺が方向音痴な訳じゃないよな」
「………」
ん?なぜ無言なんだい夜さんや。
しかし、どうしようか。
あると思っていた町がないし、次の町を目指すか?
そんなことを思いながら周囲を見渡していると少し離れたところに馬車が二台見えた。
あれは…
「夜、向こうにある馬車を少し見てくる」
そう言い残し俺は馬車へと駆け出す。
「え?!主様ちょ.......」
夜が何か言いかけていたが後で聞けばいいや。
「やはりか」
馬車がある場所についた俺は確信した。
「この馬車、俺たちがソーラスの街に入る前盗賊に襲われていた馬車だ」
でも、人も馬もいないぞ。それにあそこで襲われていたのにここにあるっていうのもおかしい、盗賊達がここまで来て乗り捨てたのか?いや、わざわざ何もないところで乗り捨てる理由がわからない、何かに襲われたとしても特に暴れた痕跡などもない、どうなってんだこれ。
「主様、一体どうしたのです?いきなり走り出して」
「いや、少し前に馬車が襲われてたことがあっただろう」
「えっと、いつのことでしょうか?」
え、何。夜さん記憶から抹消してるの、それとも記憶に残るようなことでもないと。
「いや、ほら盗賊に襲われてたのを無視した奴」
「すみません、覚えていません」
「そうか、まあもういいよ」
「でだ、この馬車がおかしいんだが」
「何がでしょうか」
「いや、まあ説明すんのめんどくさいからとりあえずおかしいということだけわかってくれればいい」
「そうですか。それでどうするのでしょう、そのおかしいと感じる原因を調べるのでしょうか」
「ん〜、どうしようかな、面倒くさい気もするし、面白い匂いがする気もするし……まあ、別に急いでるってわけでもないし少し調べてみるか」
そう言って俺はステータスを切り替える。
眼の色は緋色、第三の世界のステータスだ。
普段のステータスでも魔力量のおかげで身体能力は高いが、他の世界のステータス時に比べて魔力感知とかその辺の能力が落ちちゃうんだよな。ステータスを切り替えるとその世界で得た経験なんかも変わってきちゃうのかな、これからはこの世界の俺も鍛える必要がありそうだな。
しかしだ、ほほうなるほどな。これはやっぱ調べてみて正解だったな。
ずいぶん面白いことになってるじゃないか。
俺は魔力感知を最大にし周囲を見た。それでわかったことなんだが確かに町はこの場所にあったということだ。
それも目の前に、そして面白いのがこの馬車だ。視認することのできなかったこの町へ半分ほど車体が入っている。
そして町はなぜか異空間に囲まれこっちの空間とは隔離された状態だ。町があるはずの場所には魔力感知で見ることができた術式が編み込まれている。しかもかなり複雑だな。しかしだそこで鍵になるのがこの馬車、この馬車は隔離された町とこっちの空間をつなげる役目を担っているわけだ。この術式を組んだ奴は災難だったな、まさか発動した瞬間に馬車が入ってくるとは思っていなかったのだろう。
まあ、とにかくだ、この馬車がここにあるということはこの術式が発動してからそれほど日が経っているわけではない。それなのに町の住人はここからは一番近いソーラスの街へは来ていない。つまりはこの馬車はこちらからあちらへの一方通行ってわけだ。
どうしようか、この術式を壊すのは簡単だ。でもそれじゃあ面白くないしな、この術式は町の中から術者本人が発動したようだし町の中へ入って犯人当てゲームでもしますかな。
しかし、なんで術者はわざわざ自分まで隔離される術式発動の仕方をしたんだ?
まあ、それも本人に聞けばいいや、というわけで、
俺はステータスを切り替える。
第二の世界のステータスへと、そしてその眼は緋色から翡翠色へと変化していく
………………………………………
【ステータス】
蒼葉 秋 17歳
種族 エルフ
称号 世界樹の守護者、大地の守神
技能
ノーマルスキル・暗視、熱耐性
エクストラスキル・空歩
ユニークスキル・思念伝達、記憶操作
アルティメットスキル・万物操作
種族固有スキル・自然魔力吸収
加護 なし
………………………………………
「夜、ちょっとこっちへ手を出してくれ」
「は、はい」
差し出された夜の手を掴み、
ユニークスキル【思念伝達】を使う。
「よし、これでだいたい事情は伝わったな」
「はい」
「それじゃあ行こうか夜」
「はい!」
こうして俺と夜は隔離された町、〈バスール〉へと向かった。
まあ、馬車の中に入ってすぐなんだけどね。
◆
馬車の中に入った俺たちは転移の様なもので街の中へ転送された。
しかし、どうなってんだこれ?
町の人々は今起こっていることを何も知らないかのように変わらぬ日常を送っていた。子供を叱る親、走り回る子供達、働く大人達、酒場で飲んだくれているおっさん達、その誰もがいま起こっていることを知らないかのように普通に過ごしている。
「主様、これは一体?」
「さあな、術式を調べればなんかわかるかもしれんが、町民から情報を得た方が早いかもしれないな」
「とれあえず、手分けして情報収集をしようか。30分後にまたここに集合ってことでいいな」
「はい、わかりました、それでは行ってまいります」
「おう」
夜と別れた俺は近くにあったベンチに座る。
「それじゃあ俺は俺なりの情報収集をしようかね」
俺はユニークスキル【記憶操作】を発動する。
【思念伝達】は対象に触れることで自分の思念を事細かに伝えることができる能力だが、【記憶操作】は俺から周囲1キロの記憶を把握することができ、さらに操作することもできる能力だ。
そして、発動と同時に大量の記憶が俺の脳へと入ってくる。
やっぱこれ頭が疲れんだよな。でも、だいたいわかったかな。
ふふ、なかなか面白いじゃないか、
この町はおそらく同じ時間を繰り返し続けている。
俺が見た町民の記憶には同じ日の記憶がいくつも存在していた。古い順にどんどんその記憶は奥底へと沈んでいき、思い出せなくなっていく。そして朝、目が覚めたらまた同じ日を繰り返し過ごす、まるで前の日がリセットされたかのように。
しかし、さらに面白いのが周囲の環境も時間を戻しているかのように同じ日を繰り返していることだ。食べた食材は元に戻るなど、まさに時間が戻っているのだ。人間の方は記憶だけが微かに残ってしまっているが
術者はおそらく人間達もこの時間の巻き戻しの環に入れたかったんだろうが、術式に負担がかかりすぎて出来なかったんだろう。
時間の操作など神の領域に等しいからな。
それでもこの規模のこの術式は素直にすごいと思うが、
それに俺が手伝ったら多分完成するし。
俺が結論を出したと同時に夜が帰ってきた。
ん?早いな。
「主様、もう戻ってらしたのですね」
「ああそうだけど、夜も早いな。それにその後ろの女の子と男3人は誰かな」
「はい、私が情報収集をしている途中におかしな行動を取っている少女がいたので、事情を聞くとこの一件に関わっていそうだったので少女とその他少女の仲間を連れてまいりました」
「そうか、ありがとう」
「い、いえ」
「それじゃあ聞かせてもらおうかな、えっと名前は?」
「私はクレアです、馬車を使って町を転々とする旅商人です。それで後ろの3人は私が雇っている冒険者で、右からホアイ、シッタ、カルムです」
へえ、見た目まだ幼いが商人なのか。
「そうか、よろしくクレアさん」
「はい、よろしくお願いします」
「それじゃあ早速聞かせてくれないかな、この町で何が起こっているのかを」
ついさっきわかっちゃったけど一応聞こう。
夜がなんか役に立てて嬉しそうだし…
2つ目のステータス公開です