船は進む
「本当かい、リブラさん!」
リブラの言葉にフェレサが嬉しそうに声を上げる。
「ああ、本当だとも。そうだな…ユフィに会いたいのならばせっかくだ、私と一緒に行こうじゃないか」
「いいんじゃないか?フェレサにとっては願っても無い事だろう」
「え、それはそうなんだけど…」
そう言って俺の方を心配そうに見つめ返すフェレサ。
なんだその顔は…。俺が意地悪でユフィに会いに行かないんじゃないかとでも思っているのか?心外な。というか、別にフェレサ一人でリブラについて行ったっていいだろう。…いやまあ、今回はもちろん俺もついて行くけど。
「なんだその目は。心配しなくても俺たちも行くぞ。…あ、でもディルはすぐに、あのなんだっけ…大長老?の所に戻らないといけないんだっけ」
少し前にディルから聞いた事だが、俺たちがルイーナにいる時に本国からディルの元へ連絡があったらしい。大陸統治者になるディルの今後を含め大長老と一度話し合ってくれと言われたそうだ。前々から散々言われていたそうなんだがずっと先延ばしにしていて、今回長老達から直接連絡があり流石に行くことにしたそうだ。
「いや、せっかくだし僕も行くよ。別にいつまでに帰ってこいって言われてるわけじゃないからね」
と、本人は相変わらず呑気だが大長老が老い先短いって言ってたのディルだよな。本当に大丈夫なのかよ…。まあ実際俺にとってはどうでもいいことだから別にいいんだけどさ。
「そういうわけだ。大丈夫か?リブラ」
「ああ、まったく問題ない。むしろ大勢の方が退屈しないで済むから嬉しいくらいだ。…では、短い間だがよろしく頼むよ」
俺たち全員を見回しながらリブラが言う。
「ああ、こっちこそよろしく頼む。…それじゃあ話も終わった事だし俺は部屋に戻るとするよ。そうだ、夕食はせっかくだしリブラも一緒に食べよう。じゃあまた後でな」
こうして俺は船内に借りている部屋に戻ーーー。
「戻っちゃ駄目じゃないかアキハ。まだ君についての話が終わっていないよ(逃がさないよアキハ)」
俺が立ち上がろうとした所を満面の笑みで止めに入るリブラ。
このまま有耶無耶に出来ると思ったのに、こいつ…。
「あれ、何のことかな?」
俺がそう言うと、何を言っているんだこいつ?とでも言いたそうな顔をするリブラ。というか、その顔イラっとするのでやめてくれませんかね。
「ははは、とぼけないでくれアキハ。当然、君達についての事だ。何度も言うようだが、何故この世界に来てまもない君がエレスタを単独で離れられたのか、それにどこでノーメンやヨルハと出会ったのか、気になる事は山ほどあるんだ。今、聞かせてくれるんだろう?」
楽しそうにそう言うリブラ。だがどうだろうな、確かに有耶無耶には出来なかったがリブラ自身も俺が最初から話す気がない事を分かっているんじゃないだろうか。そこまで本気で俺に喋らせようとしてる様にも見えない。そうなるとつまり、俺をからかっているってだけだよな。なにそれ普通にうざい。
「そうだな…偶然、運良くいい能力を与えられただけさ。それにギルドに個人の素性を明かす義務はないはずだろう?」
「ああ、確かにそうだな。…いやまあ君達の事を知りたかったのは私欲に過ぎないからいいのだが、やはり気になる。何故能力を得たばかりの君がそれほどまでの力を有しているのか。何故ヨルハとノーメン程の実力者がこれまでその存在を全く知られていなかったのか。それにアキハとヨルハ、ノーメンの不思議な関係性…。はは、君達に対する興味は尽きそうにないな」
呆れ気味な表情を浮かべながらそう言うリブラ。
「まあ、いつかは話す時が来るかもしれないしその時を楽しみに待ってるんだな」
「う〜ん、そうか。…では楽しみにしておこう。だが、やはりこれからも君達への探求をやめるつもりはないよ。精々鬱陶しがるがいい。はっはっは!」
その言葉の後にリブラは「はあ、やはり気になって仕方ないな」と小さく呟いた。これはあれだな、未知への好奇心、止まらぬ探究心ってやつだ。また面倒な奴に目をつけられたもんだよな。…まあ、SSSランクになるのなら遅かれ早かれこうなってたんだろうけど。
「じゃあ夕飯の時は呼びに来てくれ。俺は何時でもいいから」
そう言い残して俺は談話室を後にした。
◆
アキハ様が出て行かれ、暫しの沈黙の後リブラさんが口を開いた。
「それで、やはり君達二人も自分達の事を話す気はないのか?」
どうやら私とノーメンに訊いているようだ。そして当然返す言葉は決まっている。
「はい、ありませんよ」
「私もありません」
私に続いてノーメンも答える。そう、私達に関する話とはつまりはアキハ様に関する話。アキハ様が話そうとしなかった事を私達が勝手に、それも未だ得体の知れない者に話すわけがない。…しかし、そう思うとやはりフェレサは………いえ、考えるのはやめておきましょう。
「そうか、やはり駄目か。まあ最初から駄目だと思っていたけどね。ははは!」
それにしてもよく笑いますね、この人は。…そんな事を考えていると急にリブラさんの眼が真剣な眼差しに変わる。そして、再び話し始めた。
「しかし、そうだな。出会ったばかりでこんなことを言うのも何だが、…これから先も君達にはアキハの側に居てやって欲しい。いや、居てやって欲しいというのも厚かましいか。これは私の勝手な願いなのだからね。ただ、やはり言っておくよ。アキハの力は強大だ、それ故に心配にもなる。だからこそ君達が仲間としてこれから先もアキハを支え続けてやってほしいんだ」
その眼に一切の濁りはなくただ真っ直ぐに私達を見つめていた。ただそれだけの事でこの人がどんな想いを今の言葉に込めたのか伝わる気がした。だからこそ私の口からは反射的に言葉が出てきたのだろう。
「もちろんそのつもりです」
そう私が答えるのに続いてフェレサとノーメンも言葉を返す。
「当然さ!アキハさんは私達にとって大切な仲間なんだからね」
「非力な私で少しでも主様の支えになれるのであれば喜んでそう致します」
そうして私達の言葉に嬉しそうに頷くリブラさん。
「そうか。はは、どうやら最初から心配はいらなかったようだな。まあ、なんだ…今回は君達がユフィの言葉通りの奴らだとわかっただけで私にとっては大きな収穫だったよ」
そう言ってリブラさんは私達に笑顔を向ける。何処か気の抜けた感じで話したり、先程までの様に急に真剣な顔つきになったりとこの人はなかなかに捉えずらい人の様です。
「それでは私達もそろそろ終わりにしましょう。…そういえば、夕食は何時頃にしましょうか?」
「今が大体5時だし、7時頃に食堂に集まればいいんじゃないかな?」
そのディルさんの提案に全員が了承しそれから各自部屋へと戻っていった。ちなみにアキハ様は私が呼びに行く事になった。…当然の事です。
その後、7時に食堂に集まった私達は丁度夕食を食べに来ていた船長の提案から甲板で食事を頂くことになった。幸い甲板にはまったく人がおらず貸切状態だった。
満天の星の下、食事は次々と運ばれてきた。と言うのも風情も何もなくフェレサが料理にがっついている為です。まあ、本来の目的は食事なのですから別に良いのですが、なんとも言い難いですね。
それからも私達は星々の壮観な光景と共に食事を楽しみながら、時間を過ごしていった。