会いたい人
なるほど、どうやら冒険者ギルド総長であるリブラは大変な変人であるようだ。まだ会ったばかりだがこいつの変わりようは嫌でもわかる。
だがまあ、今回こんな形でSSSランクになれるとは思ってもいなかったし俺としては都合が良かった。めんどくさい手続きもなかったしな。
だが、わからない事もある。確かに俺はいくつかの街で目立つ行動をとってきた。その力も多くの人が目撃しただろう。だから、俺や夜達のことがそのリブラ直属の部下っていう奴の耳に入ってもおかしくはない。
けれど、その素性が定かでない者の元へギルド総長が直々に来るか?それもはなからSSSランクにするつもりで。それにもしかしたら冒険者ギルドは俺達に不信感を抱いている可能性だってある。俺はソーラスの街で領主のカイさんに偽りの素性を話した。シルさんにもその話は伝わっているだろう。ギルド長であるシルさんに伝わったのならリブラやその部下が知っていてもおかしくはない。シルさんの立場上聞かれたのなら答えるしかないだろうしな。
なら、そのリブラ達が俺の素性の裏付けをするのもまた当然だ。という事は俺が嘘の素性を語ったとバレている可能性が大いにある。そこら辺をリブラに確かめたいんだが…。
「それにしてもリブラさん相当強かったよね。さすが冒険者ギルド総長って感じ」
「はは、これでも生きてる年月が長いからね。やれる事はいくらでもやったさ」
今はこの通りリブラの話で盛り上がっている。主にフェレサとディルがだが。俺の素性を嘘だと知っているのか、今ここでリブラに聞いてもいいんだが…どうしようか。
「 へ?そんなに年取ってるようには見えないんだけど、そんなにおじさんなのかい?ちなみに何歳?」
…まあ見た感じの年齢は俺とさほど変わらないからな。
「えーっと…、600と20歳ぐらいだったかな。うん、確かそうだったと思う。まあでも子供だった頃の記憶があやふやだから正確性にはかけるけどね。ははは」
「………」
フェレサが固まった。
「………はぁ?!ろ、ろろろっぴゃくにじゅっさい!!?いや、へ?いや、どうやって…」
フェレサが容量オーバーで壊れてしまったようだ。
「魔物の子供だからか?」
俺がそう聞くとリブラは頷いた。
「ああ、そうだろうね。ただいかんせん前例がないから詳しい事はわからない。だが確実に今の私の身体は成長が止まっている」
「完全に?」
「ああ、完全にだ。…ああでも、魔力量とかそこら辺の成長が止まる事はなかったね」
「へぇ、そうなのか」
なるほどな、どうやら魔物の子だからってだけじゃなさそうだな。まあ俺には関係ない事だが。今はそれよりも…
「なあ、少し聞きたいことがあるんだが」
「ああ、なんでも聞いてくれ」
「俺と夜がSSSランクになるにあたり俺達の素性は調べたよな?」
俺の質問が意外だったのかリブラは少し間を空けて頷いた。
「…ああ、調べさせてもらったよ。すまないね」
「いや、それは別にいいんだが」
という事は俺の嘘はバレてるか。だとしたらどこまで俺の素性を知っているのかだが…。あー、もう面倒だ。今ここで聞いてしまおう。
「それで、俺達の素性を調べた結果はどうだった?」
「それは、ここで言っていいのか?」
そう言ったリブラは夜、ノーメン、ディル、フェレサにちらりと目を向ける。
そうか。思えばこの四人って俺の素性はほとんど知らないのか。夜だけが勇者召喚の事を知ってるってくらいか。…まあ、こいつらなら大丈夫だろう。
「ああ、別にいいよ。大した事じゃないし」
バレてるとしてもおそらく勇者召喚のことだけだろうしな。
「わかった。そうだな、君の素性、というか君とヨルハ、ノーメンの素性はほとんどわからなかった。そちらの方面に長けたものを使って調べさせたんだが分かったのはアキハ、君がエレスタ王国の勇者召喚によってこの世界にやってきた者という事だけだ」
やっぱり勇者召喚の事はバレてたか。まあそれ以外は知りようがないか。夜達だって知らない事だし。
「…それってまさか…あの召喚後すぐに病死したっていう勇者がアキハさんって事?」
リブラの言葉にディルが反応する。夜やノーメンに反応がないのはいつもの事だが、フェレサが全く反応しないっていうのには驚きだ。
「ああその通りだよ。というかフェレサはあんまり驚かないんだな」
「え!?あ、ああ!驚きすぎて固まってただけだよ、ははは!」
「ん?そうか」
「…というかだねアキハ、本当に君は何者なんだ?異界の住人、勇者の事は私も多少なりとも知っている。こちらに召喚される際、力を与えられる事も。だから今までの勇者達は例外なく驚異的なスピードで成長していったよ。だが、召喚されてすぐにそれも単独でエレスタを離れた者は誰一人としていない。更に君の場合、自分の死を装ってというおまけ付きだ」
なんて言ったらいいのかわからないので質問に質問で返す事にする。これで有耶無耶になってしまえ。…いやまあ話を切り出したのは俺だから自業自得なんだけどさ。
「逆に俺も聞きたいな。素性の知れない俺達を何故SSSランクにした?」
「それは……。いや、まあ教えても大丈夫か」
そう呟くとリブラは再び話し始めた。
「私だって最初は迷った。SSSランクが人々に与える影響は大きい。それ故に実力だけじゃなくその者の人格も加味して決める。だから君という人がわからない以上決めかねた。それに君には不安要素がいくつかあったからね。だが君を強く推薦する者がいたんだ」
「誰が俺を推薦してくれたんだ?」
シルさんとかか?
「ユフィ・アンドレイア。一番最初にSSSランク冒険者になった女性だ」
ユフィ、ね。…いや、けどそのユフィとはあったことがないはず。
「ユ、ユフィ!?それ、私の育ての親だよ!」
ユフィという言葉にフェレサが声を上げる。
「ああ、知っているとも。君の話はユフィから良く聞いていた。ユフィは君の話をするたびに可哀想なことをしと謝っていたよ」
「そんな…。私は育ててもらえただけで十分なのに」
あれ?そういえば以前ディルはユフィがSSSランクになったのはフェレサと出会う少し前だろうって言ってた気がするんだが…。
「ええっと…ごめんねフェレサさん。どうやら僕が前に言ったことは間違ってたみたいだ。…ん〜いやでも、確かにユフィはSSSランクになったのは最近だって言ってたんだけどな。なんでだろう?」
その疑問にリブラが答える。
「ああそれはおそらく最近までユフィが冒険者を辞めていたからだろう。それでずっと前から行方が知れなかったんだ。だが、数年前突然戻ってきてね、改めて登録し直し再びSSSランクになったんだ。だからユフィはそんな言い方をしたんだろうな」
「けどなんでそのユフィが俺なんかを推薦する?俺は一度も会った事がないぞ」
「それがユフィはソーラスの冒険者ギルドで君を直接見たらしいんだ。…それでユフィから君のことを『彼は私の昔の仲間にそっくりだからきっと大丈夫、心配いらない。彼のお仲間さんも大丈夫だと思う』って言われてね」
「それはまた…」
「はは、それだけの理由でって感じだろう。ユフィは変わったやつでね。まあその言葉を理由に決めてしまう私も私だが」
「なるほど、まあ理由はわかった。それでだ、そのユフィの居場所は分かっているのか?わかってるならフェレサに教えてやって欲しいんだが」
フェレサはずっとユフィを捜していたらしいしな。
「え、アキハさんそれって…」
俺の言葉にフェレサが反応する。
「ついでだ、ついで」
「うん!ありがと」
「ついでだって言ってるだろうに。…それでリブラ、そのユフィの居場所はわかるのか?」
「ああわかるとも。というかこれから会いに行くところだ。ユフィは今エンシャント大陸にいるからね」