驚きと共に
龍の姿が人間へと変化していたことに気がついたらしい夜達は動揺を隠せないでいた。
「アキハ様、あれは一体…」
「わからないが、取り敢えず俺が様子を見てくる。夜達は船を守ってくれ」
そう言い残して俺は龍のもとへ向かった。
やはり、龍だった姿は人間へと変貌しており、年齢は俺より少し上くらいの男だ。鍛えられた肉体、整った容姿、金髪を短く切り揃え、全てにおいて妖艶さが際立っている。…あとそれから、全裸だ。
いや、まあ全裸だったのは最初から分かっていたけど、ああも堂々と全身を晒されてもな…。お、なんか別空間から服を取り出しているようだ。そして俺が見ていることに気付いたらしく慌てて着始めた。って、気付いていなかったのかよ。
それにしても、さっきの能力はアイテムボックスだろうか。先程のアルティメットスキルといい、実力だけでなく芸達者でもいらっしゃるようだ。尚のこと興味をそそられるな。
ああそれと、言い忘れていたが今の天気は快晴、先程の嵐が嘘のように晴々としている。龍が突然人間の姿になってから急に嵐は消え去った。
…お、服を着終えたようだな。それじゃ話しかけてみるか。
「お〜い、少し聞きたいことが、っていきなりなんだ!!」
ゴンッ!!
話しかけたらいきなり抱きつこうとしてきたんでつい殴ってしまった。
「グゥへッ!」
そいつは軽く後ろに吹き飛び、顔を抑えて呻いている。いや、今の俺悪くないよね、正当防衛だもの。うん、絶対悪くない。
「ウゥ、う、う、うはははははは!!」
え、何どうした、突然笑いだしたぞ。…なにあれ怖い、…え、なに、怖いんだけど。
「はははは、はぁ。実に愉快!…まさかこの私が一発喰らうとはな!…噂に違わぬ実力らしい。会えて嬉しいよ、アキハ」
どうやら相手方は俺のことを知っているらしい。それにどうやら敵意もないようだ。にしても…なら、なぜ抱きつこうとしたんだ。…変態か。
「一体何者だ?俺のことを知っているようだが」
「これはすまない、自己紹介が遅れたね。私はリブラ・ティフォン。冒険者ギルド総長をやっているものだ。…まあ、たまにだけど…」
様子からして嘘ではないようだ。
しかし、驚いたな。こんなところでギルド総長と出会えるなんて。
「…ん?いや、たまにってどういうことだ?」
「あははは。いや〜、私はもっぱら働くのが嫌いでね。めんどくさい事は全て部下達に丸投げさ」
本人は笑っているがこいつの部下の苦労がうかがえるな。
「それで、なんで俺のことを知ってんだ?」
「私直属の部下に聞いたんだよ、面白い逸材がいるってね。それで急遽会いに来たってわけだ」
「それじゃあ何で船を襲った?それに先の姿は一体なんだ?あの姿はどう見ても魔物だったぞ」
「別に船を襲ったつもりはないけどね。…そうだね。色々と説明したいから一旦船に戻ろう。それに君の仲間達だって私のことが気になっているだろうしね」
リブラは俺の後ろ、夜達の方を見てそう言った。
「ああそうだな。わかった」
こうして上空での戦いは呆気なく幕を閉じ俺たちは船に戻った。
船に戻った俺たちはまず船長に魔物は追い払ったと報告し、それから船は再び動き出した。そして今は船内にある談話室を借りて先程のリブラの話の続きを聞いている。
「では改めて、そちらのお仲間さん方もよろしく。…まあ、一人顔見知りがいるようだけどね」
リブラがディルを見る。
そういえばSSSランクのディルは面識があるのか。
「久しぶりだね、リブラさん。それにしても、また仕事ほったらかして放浪の旅をしてるの?」
「こ、今回は違う。今回の私は仕事として君達に会いにきたんだからね」
絶対仕事だけじゃないだろ。
「それで、その俺たちに会いに来た理由とかさっきの事とか詳しく聞かせてくれるんだろう。早く教えてくれ」
俺がそう促すとリブラは咳払いをひとつ入れ話し始めた。
「まず君たちに会いに来た理由だが、噂に名高い君達の実力がどれほどのものか確かめに来た。そして確信した。冒険者アキハとヨルハ、君達はSSSランク冒険者に相応しい実力を備えている。…まあようは君達をSSSランク冒険者にしようと思う」
「や、やったじゃないか、アキハさん!」
フェレサが一番喜んでどうする。
「まあ、それはこちらとしてもありがたいことだが、手続きなんかはどうするんだ?」
「あ、あれ?もっと喜んでもいいんだぞ?」
「リブラさん、アキハさんとヨルハさんはこういう人だからリアクションを期待するんだったらフェレサさんにした方が良いよ」
俺と夜の反応の薄さに驚いているリブラを見てディルが言う。…リアクションがなくて悪かったな。
「はは、そのようだね。それと、手続きは不要だ。何せ既にSSSランクのカードは用意済みなんだからね!」
そう言って先程服を出したように別空間から黒色のカードを取り出した。
「いや、俺たちの実力を確かめに来たんじゃないのかよ。それに俺は戦ってすらいないんだが」
「もちろん。だがまあ、ある程度の予想はついていたからね。今回はその最終確認みたいなものだったんだ。それにアキハ、君に関しては戦うまでもない。見ただけで分かってしまったからね、君の異質さが」
俺を見定めるような眼差しで見てくるリブラ。
「異質さって、…うまく力は抑えているはずなんだけど、どこかおかしいか?」
体外にエネルギーは漏れていないはずだが。
「ああ、君からは一切魔力を感じない。だが、それこそが君が異質だという証拠だ」
「どういう事だ?」
そう聞くとリブラは何やら語り始めた。
「魔力とは生命の源、私達生命体の身体を常に通っているものだ。そうしなければ私達はこの地上で活動することが出来ない。私達が普段相手に感じる魔力とはその身体から漏れ出たもの。大半はそれらで相手の実力をはかるものだ。だが、魔力操作に長けたものならば身体から漏れ出る魔力を完全に抑えることができる。君達は全員出来ているようだね」
「ああ、そのようだ。だが、それなら夜達と俺で何が違うんだ?」
「全く違う。君からは身体に通う魔力すら感知することが出来ない」
「それって…」
フェレサが呟く。
「君は生命として存在していること自体がおかしい」
生きてるのがおかしいって言われちゃったよ。
「魔力とは内なる器から引き出される力だ。その器の大きさによって魔力の保有量が決まる。魔力の保有量が大きければそれだけ身体に流れる魔力の量も多くなる。そしてその器からは常に身体へと魔力が流れている。本来隠す事なんて不可能な筈なんだ。だが、いくら探ろうと君からは魔力を微塵も感じる事が出来ない」
「いや、でも実際俺は生きてるしな」
「ああ、だから私はこう考えた。君が持つ力は魔力ではなくもっと別次元の…私達が感じ取れない領域の力なんじゃないかと。魔力とはこの次元の力だ。だが、君の器に満たされている力は全く違う別のものなんじゃないかと。正直信じられない話だが、私にはこれぐらいしか思いつかない…」
それはまただいぶ話が飛躍してきたが、…なるほど、リブラが言った言葉で俺自身原因が理解できた。
「…ああ、たぶんそれ大方合ってると思うぞ」
「「え!?」」
元気いいな、ディルとフェレサ。
「だって俺は、自らの魂から直接身体へと力を流している。言わば魂が器の役割を果たしているってわけだ。リブラが言った通り魔力とはこの次元の力だ。だが、魂はこの次元の存在ではない、当然そこから送られる力もな。リブラ達が持つ器とは、異なる次元、正確に言うと魂の次元の力をこの次元の力に変換する役割を果たしているものだ。その器自体がない俺の身体に流れる力とは魔力ではない。それが魔力に変換されるのは俺の体外に出た時だけだ」
夜とノーメン以外の三人が唖然としている。
「…いや、だが、それなら君はどうやってその生命を維持している?この次元に生きる以上魔力以外の力では生きられないはず」
「簡単な話だ。身体の外はこの次元であって内は異なる次元であるってだけだ」
「「……は!?」」
「…ふは、ふはははは!!…これはいくら聞いても理解出来そうにないな。今回わかったのはやはり君が規格外の存在であるって事だけだよ!」
「これだけ話して理解できそうにないって言われてもな」
「はぁ。いや、アキハさん、今アキハさんが言ってた事を理解出来る人なんていないと思うよ。それだけ僕達の頭では想像し得ない内容なんだ」
溜息をつきながらディルに言われる。
「そうか?まあ俺も気付けてよかった。力の抑え方は今後気をつけるとするよ。リブラみたいに身体内の魔力を感知できる奴もいるみたいだしな。それにしてもまさか普通は魔力以外は感知出来ないなんて思わなかったよ、はは」
「はあ、ほんとアキハさんには驚かされてばっかりだよ」
落ち着きを取り戻したフェレサが呟く。こっちは驚かしてるつもり全くないんだがな。
「まあとりあえず話を戻そう。リブラ、俺達の力は満足いくものだったんだろ?」
「ああ、もちろん。そうだな、では改めて。冒険者アキハ、冒険者ヨルハ、SSSランク昇級おめでとう」
リブラから冒険者カードを受け取る。
「ありがとな。これで俺と夜は新たなSSSランク冒険者になったわけだ。それで、その手に持ってるもう一枚の冒険者カードは何だ?」
「ああ、これは君のだノーメン。二人には及ばないまでも確かな実力だった。私直々にSSランクに推薦した。受け取ってくれ」
そう言ってリブラは青銀色の冒険者カードをノーメンに渡した。
「良かったじゃないか、ノーメン」
「はい。わざわざありがとうございます」
「どうって事はない。さあ、各自で冒険者カードに魔力を通せば登録完了だ。それと、以前使っていた冒険者カードはもう使えないからどうしようと各自の自由だ」
「ああ、分かった。…ところでもう一つの質問には答えてくれないのか?」
「もう一つの質問?」
「さっき聞いただろ。夜達と戦っていた時の魔物の姿は何だったのか。それも教えてくれるんだろう?」
「あー、そうだった、そうだった。…ゴッホン!えー、実は私は……魔物と人間の間に生まれた子供なんだ」ドヤッ!
「「………は!?」」
ディルとフェレサが驚きの声を上げる。毎度リアクションご苦労様です!…というか、ディルも知らなかったのか。それにリブラのそのドヤ顔は何だ。
「へー、それはまた珍しい事もあるもんだな。それで魔物の姿にもなれるってわけだ」
「ああ。まあ、普段あの姿には滅多にならないんだが、今回はあちらの方が都合が良かったからね。お陰で双方心置き無く戦えただろ」
「それにしても俺の事を散々異質だと言っていたが、リブラもだいぶ変わってるぞ」
「そうか?照れてしまうな」
褒めてない。
話が逸れた気がする…いや、きっと気のせいだろう。