神具の使用者
開始早々フェレサへと駆ける。20パーセントの速さ、フェレサでは目で捉えられない速さのはず。
ドォンッ!
フェレサに蹴りを入れるとギリギリのところで防御されてしまった。
「ひー、痛い。防御した手が吹っ飛びそうだったよ」
痛そうに蹴りを受け止めた手をさするフェレサ。だが、予想より全然ダメージは受けていない様だ。
「どういう事だ。前回は15パーセントでも目で追うのがやっと。その後も俺の魔力を吸収してやっと動きについてこれるぐらいだったのに……お前、まさか既に誰かから魔力を奪ってるのか?」
「流石に鋭いねアキハさん。そうだよ。この試合前にここにいる全員から少しづつ魔力を奪っておいたんだ。最後にヨルハさんからお仕置きって言って殴られて結構魔力を貰えたしね。幸い全員試合後に奪う事ができたから気づきずらかっただろうしね」
「確かにルールが決まっているのは試合中の事のみだし、違反ではないな。それに複数のそれも質が異なる魔力を身体に宿すなんて普通はできない事だ。素直に凄いと思うよ」
「それでも、これだけじゃアキハさんの動きに対処しきれなかった。防御は遅れたしダメージも受けた。でも、今の攻撃でアキハさんからも魔力を奪う事ができた。次はこうはいかないよ」
こうなってくると前回と同じ流れなんだが…面白くないし少し流れを変えるか。
「それじゃあ行くぞ」
それからはフェレサとの攻防が暫く続いた。殴る蹴る、体術も所々使ってきており、フェレサの動きから戦闘に慣れている事が伝わる。前回ならこのままフェレサに魔力を奪われその吸収した魔力にフェレサの身体が耐えきれずに終わったが今回は違う。フェレサの動きは一向に良くならない。それどころか徐々に動きが鈍ってきている。そしてついに。
ゴォン!!
「グハァ!」
俺の蹴りがフェレサの腹へと入った。
「ぐっ、なんで、確かにスキルは発動していたのに…」
今の俺の眼の色は緋色。ユニークスキル【万物吸収】を使った。俺もフェレサから魔力を奪っていたのだ。魔力の奪い合いは結果俺が競り勝ちフェレサが所有していた魔力は自身がもともと持っていた魔力を残して他は全て奪った。
フェレサのスキルがアルティメットスキルならば【万物吸収】は勝てなかっただろう。能力の幅からしてユニーク止まりだとは思ってたけどそうだったようだ。
どうやったかを説明するとフェレサは本当に悔しそうな顔をしていた。
「まあ前回に比べてしっかり成長してるんだから良いじゃないか」
「それでもこうもあっさり負けるとは思わなかったんだよ」
「なんだ負けって、試合はまだ終わってないぞ?」
「いや、私の負けだよ。今の私にはこのスキルしかアキハさんのスピードに対抗する力がないんだから。この試合は私の負けだよ」
と、いうわけで試合は終わった。今回はあっさり終わっちゃったな。ルール上降参を口にされては手を出せないしな。降参される前に口を塞げば審判がいないこの試合では延々とフェレサへ攻撃を仕掛けられたんだがな…冗談だけど。
「ほら、立て」
しゃがみ込んでいるフェレサの元へ行き立たせる。
「ありがと」
フェレサが乱れた服を整えている間に俺は眼の色を黒色に戻しアイテムボックスを開く。
アイテムボックスから取り出したのはガリマリア国王から貰った神具だ。…突然ですがサプライズプレゼントです!
「突然だがフェレサ、これをやる。フェレサと相性がいいと思ったんだ。渡すのもフェレサの成長がわかったこのタイミングがいいと思ってな」
そう言ってフェレサに神具を渡す。
「ほー、すごい綺麗だね。これはなんだい?」
「この間言っただろう、ガルマリア国王から貰った神具だ」
「し、神具!?どうしてそれを私に」
「いや、俺は必要ないし誰かにあげるにしても一番能力的に相性がいいのはフェレサだから、フェレサにあげようと思ったんだよ。装備してみてくれ」
フェレサの能力は他人の魔力を奪い自分の糧とする、そして神具の性能は攻撃をするたびに自身の攻撃力が増す。それとその魔道具に魔力を貯めておくことが出来き、他人の魔力をそこに貯めておくと自身の魔力に変換してくれるという効果もある。この通り魔力を奪うフェレサにとってはかなり相性がいいのだ。特に他人の魔力を自身の魔力に変換できるのはフェレサの身体への負担が減るわけだしな。
その事をフェレサに伝える。
「そうなのかい…。でも本当にいいの?神具って言ったらかなり貴重なものなんだけど」
「どうせ俺は使わないしな。使ってくれた方が助かるよ。それにそれは一番最初に装備した奴しか使えない神具だ。更に言えばその神具は自分自身で使用者を選ぶ。だから今まで誰も装備できた者はいないんだ」
「え、…私もう装備しちゃってるんだけど」
「つまり神具に選ばれたわけだ。今からその神具はフェレサ専用のものだな」
「私専用…本当にありがと。この神具を使いこなせるだけ強くならないとね。まだまだ私は力不足だし」
「ああ、がんばれよ」
その後は試合を見ていた夜達が試合が終わってから何を話しているのかと俺とフェレサがいる試合場に上がってきた。
そこでフェレサに神具をあげた事を話すとルサルファとリサがかなり驚いていた。まあ俺だってこの世界の神具の貴重性は理解してる。ここまで簡単に手放す奴はいないだろう。そう言うと国王も意外と簡単に手放したけどね。まあこの神具を使える者がいなかったからなんだけど。
神具を装備したフェレサにルサルファ達が色々と聞いているのを見ながら俺は思う。
今回神具からフェレサへの拒否反応が出るか出ないかは賭けだった。俺はあの神具を一回自分に装備をしようとした。もちろんふりだけど。そうしたらしっかりと拒否反応が出た。それにかなり強力なものだった。俺は無傷だったがフェレサだったらまあまあダメージを受けていただろう。だが、俺が拒否された事でけっして装備しようとする者の力の強大さで神具が使用者を選んでいるのではないという事がわかった。なら神具と能力的に相性の良いフェレサなら平気かな、と思っただけでフェレサが絶対に装備できるという確信はなかった。
まあ、今となってはいらぬ心配だったわけだが。
これで全ての試合が終わり俺達はルサルファ邸へと帰る事になった。明日は早朝に出発だ。馬車なんかの準備は全てルサルファの部下達がやってくれるらしい。
なんだかんだルイーナには結構滞在した気がする。この大陸での騒動の発端になった場所だしな。
夕食後、俺だけルサルファの部屋に呼ばれた。
コンコン
「入るぞ」
部屋に入るとソファにルサルファとリサが座っていた
「急に呼んですまない。そこに座ってくれ」
2人の正面のソファに腰を下ろす。
「どうしたんだ?」
「今日は改めて礼を言おうと思ってな。……今日までいろいろとあったがアキハさんには助けられてばかりだった。本当にありがとう」
「私からもお礼を言います。いろいろとありがとうございました」
頭を下げるルサルファとリサ。今回いろいろあったのって全部俺が仕組んだことなんだけどな。ここまでいろいろやっておいてなんだけどさすがに頭を下げられるのはちょっと悪い気がする。
「いや、こっちこそいろいろ良くしてもらったわけだし、お互い様だ」
「相変わらずだなアキハさんは。恩を着せようとしない」
いや、結構恩は着せてると思うんだけど…。
「ヨルハさん達にもお伝えください。あの方達にもいろいろと力になってもらいましたので」
「そうだな、言っておくよ」
「ところで、アキハさん達は明日の朝この街を出発するが、食料以外に何か必要なものはあるか?」
「食料を貰えただけで十分だよ。ありがとな」
「いや、それならいいのだ」
そこからは少しばかり雑談をして過ごした。これが最後だという事もあるのかルサルファはいつもより良く喋っていた…。
「…それじゃあ俺は部屋に戻るな。明日にはここを出て行く。朝は色々とばたつきそうだし、2人には今言っておくよ。今日までありがとな、2人と会えて良かった。またいつか会える時はゆっくり話をしよう」
「ええ、またいつか会いましょう」
「ああ、あの夜に誓った約束は決して忘れない」
「そうだな。俺も忘れないよ」
ガチャ、バタンッ
ーーアキハさんが出て行った部屋には少しの間沈黙が訪れる。アキハさんと落ち着いて話せるのはこれが最後。今度いつ会えるかなんてわかりませんしね。ルサルファも落ち込んでいるのでーーー
「はあー、これが最後か。今度はいつ会えるかな〜」
思っていたよりルサルファの声音は明るい。
「ルサルファ。てっきり落ち込んでいるものと思っていましたが」
「約束したから。…あの約束がある限り私は頑張れる。…それに今は親友が側に居てくれるしね」
「そうですね、私はいつでもルサルファの力になりますよ。約束、絶対に果たさなければなりませんね。そうしなければルサルファの気持ちもアキハさんに伝えられないのでしょ」
「そうだな。…それまでにアキハさんが他の人に取られていないといいんだが」
「はは、それは保証できませんね」
「うー、一刻も早く国王になれる様に頑張らないとな」
「そうですね」
アキハさんはそこまで女性に興味がある方ではなさそうでしたからあまり心配はいらないと思いますが…そう考えるとルサルファも望みは薄いんですよね。まあ、恋の面でもできる限りルサルファの力になってあげましょう。