流れゆく日々
昼食を食べ終わると急にフェレサが街に出かけたいと言いだし、ルサルファとリサも誘い一緒に行く事になった。もちろん俺も行く。最初は部屋でのんびりしてるから俺は行かないと断ったんだが、行こう、行こうとフェレサがしつこいのと夜にまで一緒に行きましょうと言われたから結局行く事にした。
フェレサはともかく夜がこういった事に乗り気なのには少し驚いた。まあ、性格は時間の流れとともに変わるものだし、夜も色々と変化してきているんだろうな。それが悪い方向へ変わらなければいいが…まあそこはフェレサが一緒にいるし心配はいらないか。最近はそれなりに仲が良くなってきた様だし、たぶんだけど。
街を見て回るのは全てルサルファの案内で進められた。流石に街には詳しく、いろいろな店へ連れて行ってもらった。以前ルイーナにいた時はここまで街を見れていなかった為、結構楽しめた。
…既に数時間経った。気づけば辺りは暗くなり始めており、ルイーナを十分満喫した俺達は帰路についた。
ルサルファ邸に戻る途中、リサに気になっていた事を聞いた。
「そういえばリサってルサルファ邸に住んでんのか?今日の昼食もルサルファ邸で一緒に食べたけど」
「あ、はいそうですよ。住むようになったのはここ最近ですけど、ルサルファが良ければ私の家に住まないかと言ってきまして、私にとってもそれなりにいい提案だったので、今は一緒に暮らしています。まあそれぞれ立場上忙しい時が多いのでいつも一緒にいるわけではありませんが」
「へえ、そうだったのか。あれから上手くやれてるなら何よりだ。…そういえばディルは何してんだ?一応この街を出る前に別れのあいさつぐらいしようと思ってるんだけど」
「ディルなら宿にいますよ。ですが…ディルもいろいろと大変みたいです。主に次期大陸統治者関連みたいですが、どうやらエンシャント大陸から連絡が来たそうです。詳しい内容は教えてくれませんでしたけど」
「そうなると邪魔するのも悪いし挨拶にはいかない方がいいかもな」
「それなら私からアキハさんの事は伝えておきます。そうすればディルも出発の日に見送りに来ると思いますし」
「そうか、ありがと」
ルサルファ邸に着くと夕食が既に準備されており、全員で夕食をとった。
その時に明日は全員でギルドの修練場で試合をしようという話になった。これもまたフェレサの提案でルサルファまでもが仕事を先送りにして一緒に行くと言い出した。もちろんギルド長であるリサも一緒だ。
最初に決めた各自自由行動はどこ行ったんだよ。まあ俺も一緒に行くけど。昨日フェレサに試合をする時は付き合ってやるって言っちゃったしね。
そして次の日
予定通り昼から冒険者ギルド地下の修練場に来ている。
修練場は全部で3つあるがその内1つをリサが貸切にしてくれていた。闘技台も試合用に整備されており、闘技台を幾つか組み合わせてできた広い試合場に変形してある。
「それで、試合って言ってもどうするんだ?試合相手とかは適当に決めればいいのか?」
そうフェレサに聞くと腰についている袋から何かを取り出した。
「それなら大丈夫、昨日のうちにしっかりと試合の組み合わせは考えておいたから」
そう言ってフェレサは試合の組み合わせが書かれた紙を見せる。フェレサ以外の全員の視線がその紙に集まる。
「本当にこれでいいのか?」
「もちろん。まあ、他の人が嫌だって言うなら変えるけど、どう?」
反対はいない、全員これでいいらしい。ちなみに組み合わせは、ノーメン対リサルム、ヨルハ対ルサルファ、アキハ対フェレサだ。
「というか、リサも試合するのか?」
「ええ。これでも結構腕は立つ方ですよ。さすがにノーメンさんには勝てないと思いますけど、頑張ります」
よく見ればリサはいつものスーツ姿から身動きの取りやすい格好へと変わっていた。
「それは見るのが楽しみだな。…えっと、それじゃあまずはノーメンとリサの試合からやるか、紙に書かれてる順番的にもそうだし」
「私は別に構いませんよ」
ノーメンの方を見る。
「私も問題はありません」
「それじゃあ2人とも、試合場に上がって準備をしてね」
そう言いながらフェレサは2人と共に試合場に上がっていく。どうやら今回はフェレサが審判をする様だ。
2人の準備が整ったのを確認しフェレサが開始の合図をするーーーーー
ーーーーードゴォン!!!
今、2試合目の夜対ルサルファの試合が終わった。ちなみに1試合目はノーメンの勝利で終わった。リサは自分で腕が立つと言うだけはあり、予想以上に戦えていた。ノーメンとの力の差は確かにあったが見てて飽きない試合だった。
そして今終わった2試合だが、夜は最初から魔法を使わないというハンデを自分に課していたようだ。まあそのハンデでは不十分だった様で圧倒的に夜の方が強かった。その為身体能力的にも手を抜いていた様だ。ルサルファも奮闘はしたものの最後に出した夜の全力のスピードを目で追えず攻撃を受けて場外に飛ばされた。スピードは全力だったが攻撃の方は加減していた様なのでそこまで怪我はしてないだろう。
正直言って夜が今どれほど強いのかはっきりとはわからない。今まで会った魔王よりは確実に強いだろうけど。俺の総魔力量の20パーセントの魔力を保有し魔法は俺が使えるもの全てを使える。これが初期設定だ。夜は俺が生み出したものだが、今は独立した人だ。もちろん成長もする。その為どこまで強くなるのかがわからない。俺は今まで夜にほとんど何も教えていない。しかし夜の動きは確実に早くなっており、成長していた。用は身体能力を上げる為の魔力の使い方が上手くなっていたのだ。
試合を追えた2人がこちらへ戻ってきた。
「さすがに強いなヨルハさん。あれでもまだ全力ではなかったようだし」
「いえ、最後のスピードは全力でしたよ。目で負えない様な速さを出しましたから」
「ああ、あれか。私にはまるで瞬間移動の様に見えたよ」
「それでもルサルファ王女も十分強かったですよ。一国の王女がここまで強いなら十分ではないですか?」
「はは、そう言って貰えるのはありがたいな」
「二人共お疲れ。なかなかいい試合だったよ」
「そ、そうか」
「ありがとうございます。次はアキハ様の試合ですね。試合場でフェレサが待っていますよ」
「そうだな。…そういえば俺とフェレサの試合の審判は?」
「フェレサがいらないと言っていました。アキハ様の攻撃に審判が巻き込まれても面倒だからと」
「俺はしっかり手加減出来るっての。まあ俺も審判は別にいらないからいいけど。それじゃあ行ってくる」
試合場へ行くとフェレサが準備運動を行っていた。
「あ、来たねアキハさん。前にやった試合は簡単に負けちゃったけど今回はそうはいかないからね」
そういえば前に試合やったのもここだったな。
「それよりも、お前審判いらないらしいな。なんか俺の攻撃に巻き込まれるからとか言って」
「い、いや、だってアキハさんの攻撃すごい破壊力あるし。それにその発言に対してはヨルハさんからお仕置きされたから!」
「いつもしっかり手加減してるだろうが、…それじゃあ今回は何パーセントがいい。フェレサに決めさせてやるよ」
「何パーセント?」
「力の加減だよ。どの程度手加減して欲しいか自分で決めろ」
「ちなみに前回私と試合した時は何パーセントだったんだい?」
「15パーセント」
「15!?そ、それはちょっと落ち込むな〜。はあ、それじゃあ20パーセントでお願いするよ」
数字的には5パーセントしか上がってないが、力の総量的に5パーセント上がっただけで結構違ってくると思うんだけどな。まあフェレサが自分で言ってきた事だしいいか。
「ああ、わかったよ。それじゃあこの硬貨が地面についたら試合開始な。試合終了はルールに則ったものでいいだろ」
「うん、わかった」
硬貨を上に投げる。
「それより審判がいらないという事は過度な攻撃を止めてくれる奴がいないという事だぞ」
「え?!」
「まあ今更遅いんだけどな」
「ちょ、ちょっとーー」
チャリン
硬貨が地面に落ちた。
「それじゃあ開始だ」