話し合って
2人には私がアキハ様に関して知っている事を全て話した。やはりと言うべきかノーメンは私の様にアキハ様の記憶を持っていなかった。以前アキハ様がノーメンは私とは造り方が違うと言っていましたしね。
2人は私が話終わるまで一言も言葉を挟むことなく只々黙って聞いていた。話を聞き、いろいろと思う事があったのだろう。話し終わった今は2人とも何かを考えている様だ。
アキハ様の過去、この世界に召喚されてから今までアキハ様が何をやってきたか。そしてさらに私とノーメンがアキハ様によって造られた事も話した。過去の事はともかくこの世界に来てからの事は当然私の知らない事もある。だからこそアキハ様に関して知っている事は包み隠さず全てを話した。
本来ならばこのような事、アキハ様が望む事ではないでしょう。それでも私はアキハ様に孤独な道を歩んで欲しくない。誰かと共にいる喜びを思い出して欲しい。その為にもこの2人には知っておいて欲しかった。
それにしても、私がこんな重要な話をフェレサにするなんて…。アキハ様に害を及ぼすものは排除する。それが私の考えだ。そしてもちろん途中から突然旅に同行するようになったフェレサもその警戒の対象だった。しかし今考えれば、この様な話をする程に私はフェレサの事を信用している。フェレサという人物、自分を偽らない彼女に触れ、きっとこの先アキハ様に良い影響を与えてくれるとそう思ったから。
「アキハさんに、そんな過去があったなんて…」
涙声になりながらフェレサが呟く。
「……」
ノーメンは未だに黙っている。今は仮面をつけているため話を聞いてどう思ったのか見ただけではわからない。
「私はアキハ様に以前のように大切な人と共に道を歩んでいってほしい。今のアキハ様は何よりも面白さを求め、楽しんでいます。それでも…以前の、誰かと共にいたアキハ様の方が幸せだったと思います」
「ヨルハさんはそこまでアキハさんの事を…。私はアキハさん、それに2人とも仲間のつもりだよ。だから、ヨルハさんに協力するよ」
「しかし、今話した通り、アキハ様は自分以外の人の事を自分が楽しむ為の道具ぐらいにしか思っておりませんよ?以前フェレサはソーラスでアキハ様と考えの相違で一度別れています。あの時は結果的にアキハ様が助けに応える形になりましたが、アキハ様は善意で助けてはいないと思います」
「そうだね。あの時はついカッとなっちゃってね。でも私はさ、アキハさんと初めて会った時から何となくわかってたんだよ。アキハさんがどんな感じの人かって。それでも私は一緒に旅をする事を選んだ。それは私がアキハさんと共に面白い旅をしてみたいと思ったからだよ」
「そうですか…。しかし、私とノーメンもアキハ様と似ております。見ず知らずの人に善意を持ちはしない。たとえ知人が助けを求めてきたとしてもまず損得で考えます。そして何より、アキハ様の為になるのかどうかを考えます」
「うん。それもなんとなくわかってるよ。それでもさ、やっぱり3人とも悪い人だとは思えない。確かに3人と私じゃあ考え方が違うし、その結果の行動も違ってくる。だからこそ意見の衝突もあるよ。それでも私はこの先3人から離れるつもりはない」
「それでは今後、アキハ様が以前のような作戦を考えた場合はどうするのですか?アキハ様は作戦自体は1人で実行される。けれど終われば私達に詳しい内容を話してくださります。おそらく全てをというわけではないでしょうけど。…しかし、フェレサには話していません。確かにアキハ様はフェレサが旅に同行する事を許した。しかし2人の考え方は違う」
「確かにね。でも今は私も知っちゃってる。次、アキハさんが何かをする時、…私はたぶん何もしないよ」
「え?…」
「アキハさんのこの考え方は変わらないと思うんだ。大切な存在を作らないっていう考えと違って。なら、私がその考えを否定するならアキハさんと一緒にいる事自体がおかしいよね」
「そうですが、フェレサはアキハ様の行動を見過ごす事ができるのですか?確かにアキハ様は楽しそうです。フェレサがそれを邪魔するならば私が対処しようと思っています」
「そうだったのかい!?…まあ、確かに知り合いがその作戦の所為で死ぬのは嫌だけど。アキハさんはさ、自分がたてた作戦内で死んだ人は生き返らせてるよね」
「それは…確かにそうですが、損得を考えての行動では?」
「違うよ。アキハさんが一番分かってるんだよ。大切な誰かが居なくなる辛さを。それは自分がこれまで歩んできた道だから。だからアキハさんは決して自分が楽しむ為にたてた作戦で執拗に人を殺したりはしないと思う。…まあ、これも私がそう勝手に思ってるだけなんだけどさ」
「それが真実だとしてもアキハ様は見ず知らずの命を無償で救うような方ではないのですよ。しかしフェレサは救おうとしますよね?」
「そうだね。でもそれをアキハさんに強制するつもりはないよ。仲間同士が必ずしも同じ考えでいるとは限らない。それでも仲間と呼べる存在は確かに居る。私は本当にアキハさんや2人と旅をしていて良かったと思ってる。その気持ちに嘘はない。だから、私達もそんな関係になれると思うんだ」
ここまでフェレサに対していろいろと聞いたのは最後に本当にフェレサが私達にとって良き存在であるかを確かめたかったから。その意図を察してかフェレサはまっすぐ私の言葉に応えてくれた。
「私は少しフェレサに対する認識を改めないといけなさそうですね」
「え?!それは、今後はもっと仲良くしてくれるってことかい!」
「今までも仲良くしたつもりはありません。それにこれからだって態度を変えるつもりもないです。…しかし、私はフェレサの事を仲間だと、そう認識しようと思っただけです」
「ヨ、ヨルハさん!今後もいろいろとよろしくね」
「ええ、今後も仲間として私の拳を受け止めてくださいね」
「本当に態度を変えるつもりはないんだ!つまりそれは今までも仲間として接してくれていたと」
「調子に乗ると痛い目に合いますよ。私が合わせますよ」
「相変わらず、怖いです」
私とフェレサのやり取りを見ていたノーメンが突然口を開く。
「私としては2人が仲良くなり、仲裁に入らずに済むのはありがたいのですが、夜先生の言う通りならば私達は今後主様に何をするのですか?行動に起こし、主様に拒絶された場合はどうするのですか?」
ノーメンに言われ、改めて考える。
「アキハ様が心から私を拒絶されれば私はもう一緒にはいられないでしょう。ですが既に覚悟は決まっている。アキハ様の為だと信じていますから」
「アキハさんは自由に生きろって言ってくれたんでしょ。ならそれでいいと思うよ。ヨルハさんはヨルハさんが信じる道を進めばいい」
「はい」
「それで、実際はどういった事をするのですか?」
「アキハ様に拒絶されない限りどんな事があっても寄り添い続けようと思います。アキハ様の抱えるものはあまりにも重すぎる。だから長い時間がかかるかもしれない。それでも少しずつアキハ様に近づけたらと、私達がアキハ様の大切な存在になれたらと思います」
「そうだね。今はそれで十分だと思うよ。でも、いつか正面からぶつからなくちゃいけない時がくる。その時はヨルハさんの正直な気持ちをアキハさんにぶつけてね」
「はい、わかっています」