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夜の決意



変な夢だった。 別に寝る前にあいつらの事を思い出していた訳でもないのにあんな夢を見るなんてな。

クロノスに話を聞いて無意識下であいつらの事を考えてたんだろうか。まだあの4人の結末が悪いものだったと決まったわけじゃない。それでも脳裏を離れない、あの4人の無残な死体が、それを思い出すとまた動悸が激しくなる。


頭では理解している。ただの夢だったのだと、それでも感情は俺の手を離れ勝手に動き回る。身体も脳の言うことを聞かない。


落ち着け……まだ大丈夫だ。






アキハ様は魘されていた。あんなアキハ様は初めて見た。常に余裕を持ち、何事も先を見通し、絶対の力を持つ御方。そんなアキハ様が苦しそうにそしてどこか悲しそうな表情をしていた。

アキハ様は一体どのような夢を見たのでしょうか。アキハ様の過去を知っていても今アキハ様が何に苦しんでいるのかはわからない。


アキハ様は自分の事を私達に何も仰らない。それにここ最近は1人で行動している事が多い。…アキハ様は何故私を造ったのですか?私はアキハ様のお役に立てているのですか?造った意味はありましたか?と、ここ最近はそんな事を考えてしまう。

違う、アキハ様に存在理由を求めてはいけない。アキハ様は私に自由にしていいと言っていた。ならば、私が自ら動きアキハ様のお力にならなければ、存在する意味を見出さなければいけない。もしアキハ様を理解し得る存在がいるのだとしたら、それはアキハ様の過去を知り、その抱えるものを少しでも共有できる私なのだから。


アキハ様、貴方は幾つもの世界を見て決意してしまった。もう、自分にとって大切な存在となる者を作らない事を…。失うのが怖いから失った時の悲しみに耐えられないから。どんなに力を持っていようと、どの世界でもアキハ様は多くの大切な者を失う事になった。


アキハ様がそう決意したのは地球に転生する前、そこで、アキハ様の心は壊された。その世界で失った者がアキハ様の心を壊す最後の原因となった。その前も、その前も、どの世界でも全てが似たような結末、そんなものが積み重なり心が耐えきれなくなった。

唯一結末が違ったのは最初の世界、この世界にいた頃だろう。ただ、それでも仲間に殺されるという残酷に変わりは無い。


私の記憶はアキハ様が見てきた過去のもの。そこには感情の記憶は存在しておらず、どんな気持ちを味わったのかをすべて共有する事はできない。それでも、アキハ様に起こった変化、その理由が何なのかぐらいはわかる。


地球ではアキハ様はほとんど人との関わりを絶っていた。大切な者を失う苦しみを味わうくらいなら、と1人で居続けていた。


そんなアキハ様がこの世界に来て私という存在を造った。他にもノーメンをお造りになったり、フェレサにも旅を同行する事を許している。今だってアキハ様の人との繋がりは確かにある。ならば私達はアキハ様にとって仲間とは成り得ない存在なのでしょうか。


アキハ様は何を思って私達と共にいてくださるのでしょう。アキハ様は知っている筈、身近にいる者は知らぬ間に大切な存在へと変わる事を。その度に大切な存在を失い続けてきたのですから…。



ガチャ


扉が開きアキハ様が入ってきた。

既にテーブルに並べられている料理は半分程無くなっている。


「遅かったじゃないか、アキハさん。早く食べないと、料理がなくなっちゃうよ」モグモグ


料理を口に含みながらフェレサが言う


「はは、心配はいらない。まだまだ料理は作らせている。遠慮せずいっぱい食べてくれ」


確かに調理場の方から調理の音が聞こえてくる。


「ああ、俺も腹が減ってるからな。ルサルファの言葉通り遠慮せずいただくよ」


アキハ様はそう言って席についた。


食事中もアキハ様に特に変わった変化は見られなかった。ただ、あえていえば話をしているアキハ様を見ると、少し違和感を感じる。


この違和感の正体はいつもとの雰囲気の違い。前にも何度かあった事だ。


アキハ様は大丈夫だと仰っていたが、やはり先程魘されていたのが原因でしょうか。その苦しみを私達に話すことはない。周りには私達がいる。それでもアキハ様が本当に私達を頼りにしてくれる事はない。


できるならばアキハ様の苦しみを代わってあげたい。でも、それはできない。だからせめてアキハ様の身近におりいつでも力になれる存在として私はアキハ様にお仕えしよう。


アキハ様、私は一番にアキハ様の幸福を願っております。故に時に相反する行動をとるかもしれません。それがアキハ様の為になるならば、私は疑わず行動を起こすと思います。どうかお許しください。


アキハ様は面白ければいいと常々仰っていた。でも、このままではアキハ様はずっと1人です。確かにアキハ様なら1人でも面白おかしく生きていけるでしょう。それでも、そんなアキハ様がこの世界で私達と旅をしているのはまだどこかで仲間という存在を捨てきれてないからなのではないでしょうか。ならば仲間のいる幸せ、今度こそ仲間を失う苦しみを味あわせない為に私はいつまでもアキハ様にとっての本当の幸福を祈りお力になり続けます。


夕食を食べ終わると各自自分の部屋へと戻って行った。


私も部屋へ戻り就寝の準備を終わらせる。…アキハ様の本当の幸福を願うとは言ったものの、実際に何かすぐに行動に移すことができるわけでもない。時間はかかってもいい、いつか、アキハ様が仲間という存在、大切な存在を作ってくださることを願っております。




次の日


私はフェレサの部屋に来ている。部屋にはフェレサ、ノーメン、私の3人だけ。朝食時に後で私の部屋に来て、とフェレサに言われた為来たのですが、ノーメンも呼ばれていたのですか。

こうしてフェレサから呼び出されるのは初めてかもしれませんね。


「それで、フェレサ。なんで私達2人を呼んだのですか?」


フェレサはいつになく真剣な顔をしている。


「いきなりでごめんね。でも次の旅が始まる前にやっぱり確認しておきたかったからさ」


「確認?」


「うん。えっと改めて言うと少し恥ずかしいんだけど。私はさ、アキハさんを含むこの4人での旅が結構楽しいんだ。いろいろな事や初めて経験する事に溢れていて。それにヨルハさん達といるのもすごく楽しいんだよ」


フェレサの真面目な雰囲気というのも新鮮ですね。それだけフェレサにとって重要な事なのでしょうけど。


「アキハさんってさ、1人で行動する事が多いでしょ。今までを振り返ってみても」


「そうですね。でもそれはアキハ様1人で十分だからではないでしょうか」


「うん、そうだと思うけど。やっぱりさ、一緒に旅をする仲間としてはアキハさん1人で十分だとしても私達全員でいろいろな事をやりたいなって。それにいつからか思うようになったんだよ。アキハさんが1人で何をやっているのかの説明が少し嘘っぽいなって」


「その言い方はアキハ様に対して失礼ではないでしょうか」


「あ、違う違う。そんな意味じゃないんだ。ただ、何かを隠しているような感じがするっていうかね。私達に言えない事って何かなと思ってさ」


正直私は驚いていた。私やノーメンならばアキハ様の事を多少知っているからこそアキハ様が真実を述べていない事もなんとなくわかる。

だけれどフェレサはおそらくこの3人の中で一番アキハ様の事を知らない。それでもそこを見破る事のできる眼はすごいと思った。


「フェレサは私達の事を仲間だと思っているのですね」


「あったりまえだよ!」


「フェレサにとって仲間とはどんな存在ですか?」


「ん〜、頼りにできる大切な存在、かな。私には両親がいないし、育ての親も今どこにいるかはわからない。だからたぶん、私にとって一番と言ってもいいほどとても大切な存在だと思う」


「そうですか」


「それにまだ短い付き合いだけどこれでもアキハさんの事を知らないなりに知ろうとしたし、アキハさんの性格もさ、少しわかってきたような気がするんだ」


「わかってきた、ですか?ならばそれでもフェレサは一緒にいる事を選ぶんですか?フェレサの性格からしたらアキハ様の行動はーーー」


「それでもだよ。私はまだアキハさんの本質を見えていない。でもなんだろうね、うまく言えないんだけど、アキハさんを悪い人だとは思えないんだよ。だから、仲間として一緒にいたいと思うんだ」


感覚的な事なんだけど、と付け加えフェレサは口を閉じた。今回フェレサの思ってもみなかった一面を知った。そしてフェレサならばアキハ様の側にいけるのではないだろうかと思った。


私は今回ここで選んだ選択を悔いることはないと信じたい、そしてこの選択がアキハ様の助けになることも。


「アキハ様について二人にお話があります」









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