悪夢
今日は早速、夜、ノーメン、フェレサを俺が借りている部屋に集めて今後の予定について話す事になった。ディルはルサルファ邸で朝食を食べてから自身が経営している宿に帰っていった。家がある僕がこの屋敷に泊めてもらうのも悪いからね、だそうだ。それにしてもディルには二日酔いの様子が見られなかった。昨日はあんなに酔っていたのにな。
一方フェレサはというと朝起きた時から顔色が悪く、すぐにでも吐きそうな表情をしていた。その為前と同じように治してやり、今はすっかり元気になっている。あのままだとまともに話もできそうにないからな。
治すのは今回だけだと念を押しといた。これを頼りにして酒を大量に飲んで暴れられても迷惑だし。
ーー「それで、アキハさん。昨日の話しだとエンシャント大陸に行くつもりなんだよね?」
フェレサが聞いてくる。
「ああ、その事を含めて諸々の予定を今日話そうと思ってる。…で、いきなり本題に入るんだが、俺はこの世界のすべてのダンジョンを攻略するつもりでいる」
「それはまた、凄い予定だね」
言葉の割にフェレサの反応があまりなかった事に少し驚く。ダンジョン攻略ってこの世界では難しい事だよな。もっと驚いてもいいの思うんだが。フェレサの常識的感覚が麻痺してしまったのだろうか。
「ダンジョンか〜、レベルの高い魔物が多くいるしいい経験にはなりそうだね。でもなんでアキハさんはダンジョン攻略なんかをしようと思ったんだい」
その質問には前もって嘘の答えを考えておいた。でもその嘘が本当に嘘っぽくなっちゃったんだよな…真実味がないというか。
「この間、ダンジョンに落ちた時俺だけ地上に戻るのが遅かっただろ。あの時は話さなかったんだが、俺はダンジョンの創設者と名乗る人物と話をしていたんだ。その時にこの鍵を渡されてな」
クロノスに渡された鍵を3人に見せる。
「ん〜、見た感じは普通の鍵だけど、それに何かあるの?」
創設者って単語には触れないのかよ、一番嘘っぽい所だと思ったんだが。これは信じてるととっていいんだよな?
「創設者はこの鍵をダンジョンを攻略した証だと言っていた。俺は1人残ってその創設者からこの世界の事をいろいろと聞いていたんだが、その時にこの鍵を渡されたんだ。そいつが言うにはすべてのダンジョンを攻略し、攻略者の証を揃えればこの世界の隠された謎が明らかになるらしい」
「でも、アキハさんはあのダンジョンを攻略してないよね。なんで攻略者の証を渡されたの?」
「それに関しては詳しく教えてくれなかったが、偶々みたいな事は言っていたな。偶々俺達がダンジョンに落ちて、そこで俺を見て俺なら他のダンジョンを攻略するだけの力があるからとかなんとか」
「それにしてもなんか話がいきなり壮大になった感じがするね。それにダンジョンに創設者がいるなんてのも誰も知らない事だろうし」
ここで創設者に触れるのかよ!…まあ一応信じてるっぽいから良かったけど。
「そうだな。でも、この話が本当ならこんな面白そうな事はないだろう?ダンジョン自体も結構面白いしな。どうだ、一応この先の予定はダンジョン攻略が主軸になりそうなんだが」
「面白そうだし、いいと思うよ」
「私も特に異論はありません」
「私もです」
フェレサ、夜、ノーメン全員に了承が取れたので、次の話に移す。
「それじゃあここからはエンシャント大陸までの細かい予定を決めるか。ーーーーー」
ーーーーー予定が決まり、3人は自分の部屋へと戻っていった。
俺達は3日後にここ、ルイーナを出発する。それまでは各自自由に過ごせばいいだろうという事になった。そして、ルイーナを出発してからの予定だが、目指すのは港町、この港町は以前寄った港町ではない。キャッタナ大陸には3つの港町があり、それぞれエルノイド、エンシャント、フォールン大陸に渡るために使用されている。
今回はエンシャント大陸に船が出ている港町に向かうわけだが、ここからその港町までは途中の寝泊まりを含むと出発して4日目に着く予定になる。
あと、ルイーナから港町の間には1つしか町がなく、その町はルイーナと港町のちょうど中間地点にある。その為1日目、3日目は野宿、2日目だけ町に宿泊となる。
この予定はルサルファとリサにも一応話しておいた。昨日やけに俺達の予定を聞いてきたからな。
その後は昼食を食べ、自分の部屋に戻った。そして俺は…やる事がなくなった。
3日後に出発となると今日を含めて丸3日は何もやる事がないわけだ。この世界に戻ってきてからは何かしらずっとやっていた感じがする。たまにはこうやってのんびりと過ごすのもいいだろう。特に王都にいた時はいろいろと動きっぱなしだったからな……。
そんな事を考えている内に俺は眠りに落ちた。
…そして、夢を見たーーー
ーーーーーー
ーーーーー
ーーーー
ーーー
ーー
ー
俺は戦場に立っていた。辺りは阿鼻叫喚で埋もれている。地面には幾つもの死体が転がり血溜まりを作っている。
俺も戦おうと敵の元へ向かおうとするが、身体が全く動かない。どうにかして身体を動かそうとしている間に俺の周りにいる人間は次々と死体に変わっていった。
…どれほど時間が経っただろうか、俺はいつの間にか身体を動かそうとする事を止め、戦場をただ呆然と眺めていた。その内辺りを霧のようものが包み俺の視界は奪われる。見えなくなっても音は止まない。ただただ泣き叫ぶ声、誰かに命乞いをする声など、いろいろな苦しみの声が耳に響く。その音は暫く続き、気づくと音は止んでいた。
そこから周囲の霧がだんだんと晴れていき、ぼんやりとだが辺りを視認できるまでになった。
そこで俺は気づいた。俺の目の前に4つの死体が転がっている事に。先程まで地面に転がっていた死体や、血溜まりは綺麗さっぱりなくなっており、死体は目の前のこの4つだけ。その4人は幾つもの剣に刺され死んでおり、今も血を垂れ流し続けている。
4人の姿をもっとはっきり見ようと眼を凝らすと霧はさらに晴れていった。そして、霧が完全に晴れると同時に見えなかった4人の顔をはっきりと捉える。
「なんで、…お前達が…」
動悸が激しくなる。息苦しさを感じ呼吸が乱れる。
「ユフィ!エドブル!サーシャ!クレイン!…どうしたんだよ。そんな所で寝てんじゃねぇよ!」
どんなに叫んでも4人は反応しない。俺の記憶の中の元気な姿の4人が、血みどろの姿へと変わっていく。
「俺が死ぬ事で、お前達は幸せになれたんじゃないのかよ…。お前達のこんな最後を望んで…俺は死んだんじゃないぞ…」
俺の声だけが延々と響く…。
「ーーーアキハ様、大丈夫ですか!アキハ様!」
眼を開けると目の前には夜がいた。
夢だったのか…。
「…ああ、大丈夫だ。それよりなんで夜が俺の部屋にいるんだ」
「夕食の時間ですのでアキハ様をお呼びしようと思い部屋に来たのですが、部屋の外からお呼びしても反応がなく、耳を澄ますと部屋から微かに唸り声のようなものが聞こえたので、何事かと思い入ってしまいました」
「そうか…。夕食には暫くしたら行く。先に食べていていいぞ」
「でも、先程うなされておりましたし、…大丈夫なのですか?調子が悪いのでしたらーー」
「大丈夫だ。先に行っててくれ」
「……わかりました。何かありましたらお呼びください」
そう言い残し夜は静かに部屋を出ていった。