第一話
俺、柊 冬真はどこにでもいる高校生......と呼べるほど平和な人生を送っていない。うちの爺さんは日本古武術の人間国宝ということで実家は道場を経営している。その道場は国の支援もあり敷地も人数も規模が大きかった。日々多くの人が家を訪ねては拳を振るっていた。幼い頃の俺にはそれが当たり前の風景で、大きくなったら俺もそこに混じって稽古をするものだと思っていた。
それは正しいとも言えるだろう。小学校入学と同時に俺の稽古は始まった。そこで爺さんは俺に才能見出した。
そこから俺の生活は激変した。
中学に上がる頃には門下生の中で誰よりも強くなっていた。高校に入ったら人間国宝の爺さんよりも強くなっていた。そこで俺は爺さんを倒すという目標がなくなり、自主鍛錬の退屈な日々となっていた。
◇
今日も今日とて退屈な日々が始まった。月曜日という億劫な日にちを楽しいと感じる奴などいないのかもしれないが、俺にとってはどうでもいい。二年目になる制服に身を包みワイシャツの第一ボタンをわざと開けてネクタイをゆるく締め学校へ向かった。朝食は家にあったおにぎりで済ませ、駆け足で学校へ行った。
別段、遅刻しそうなほど時間的余裕がなかったわけではないので、むしろ早過ぎるほど学校に着いた。学校には部活の朝練であろう生徒の姿がチラホラ見える。
教室に着くとそこには誰もおらず、自分一人がこの世界に一人しかいないと錯覚させるほど静かだった。その静寂を破るようにずかずかと教室に入っては自分の席にどかっと座った。そしてポケットから愛用のイヤホンを取り出すとスマホに差込み大音量で音楽を流し始め、机に突っ伏し瞼を閉じた。
どれくらい寝ただろうか。周りに人の気配が増え始めたことで目が覚め突っ伏していた体を上げ、イヤホンを片側だけ外した。すると目の前にはまた(・・)コイツが立っていた。
「おはようございます、冬真くん」
「...............おはよ」
花が咲いたような笑みを浮かべて挨拶をしてきた女には見覚えがあった。というかほぼ毎朝この笑顔を拝んでいる......いや拝まされている。ツヤのある黒髪は腰まで有り、雪のように白い肌は大和撫子というような外見をしている。こいつは事あるごとに俺に話しかけてくる。こんな奴のどこがいいのかは知らないが挨拶をされた以上返さないといけないということで返しているが、それ以上の関係はない。だから俺はこいつの名前を知らないし興味もない。
そして挨拶が終わるとどうでも良い世間話が開始される。一方的に話しかけることを世間話というのかは謎だが、テレビがどうのこうの雑誌がどうのこうのという、よくわからない話を聞かされる。そもそもそんな話に興味は微塵もないのだが、話して満足したのか自分の席に帰っていった。
やっと帰ったところを確認すると外していたイヤホンを耳にはめ直し、再び机に突っ伏した。
「おい柊、あの態度は何なんだ」
と思ったらまたなんか来やがった。内心ため息付きながら頭を上げたると、そこには俺より少し背が高い茶髪で右耳にピアスを開けている男がいた。例のごとく名前は覚えていない。
「お前には関係ないだろ」
「なっ!?お前なぁ!」
めんどくさいのでぶっきらぼうに返すと怒ってくる。怒るくらいならわざわざつかかってくるなと言いたいところである。
「そんなことよりHL始まるぞ。席につけよ」
そういうと舌打ちをして自分の席に帰っていった。朝から憂鬱だとため息をついて机に突っ伏して寝始めた。視界の隅に担任が写ったのは気のせいだと思う。
◇
1限目の授業が始まる。科目は何か知らないが自習ということらしい。先生はいなく生徒だけがいる教室は軽い無法地帯とかしていた。ぺちゃくちゃと喋り合い、耳障りな笑い声がイヤホン越しにも聞こえてくる。ポケットに手を伸ばしボリュームを五つほど上げると完全に周りの音が聞こえなくなる。やっと眠れると思い椅子に座り直した。
しかし、瞼を閉じていても漏れてくる光に奇妙さを感じながら瞳を開けると......
教室を包み込むような幾何学的な魔法陣が幾重にも重なって光を放っていた。
「......は?」
何とも間抜けな声が出たと笑う自分が心の中にいたがそれを認識する前に意識が薄れていった。
処女作となりますので、温かい目で見守ってくださいお願いします(迫真)