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十二支部  作者: 兎羽 翔
8/14

羊と猪のプライベートルーム



「あの二人、うまくやってるのかねー」


椎名と協力しながら荷物整理に追われていた綾瀬は、先程別れた柊と遊佐を思う。普段から仲がいいとも悪いとも形容し難い関係。柊が同室希望を出すと言ったときは耳を疑ったくらいだ。しかし同時に納得したのも事実。

付き合いは浅いものの、遊佐は悪い奴じゃないし、どちらかというと椎名の勉強をみてくれるような良い奴だ。あんなに無愛想で友達付き合いも苦手な遊佐だが、付き合っていくうちに自然と好感を持てるような性格をしている。


自分も遊佐が嫌いではない。

いや、好きだろう。

だが、あの二人が同室というのは少し不安が残る。


「大丈夫だろー。翼も元々しゃべるほうじゃないし、どちらかというと同室ってなったら俺らより遊佐のが楽なんじゃないか?」

「んん?そーかなー」

「だって翼、俺らいたら俺らの世話ばっかやくじゃん。なんてゆーの?不良のアニキ分みたいな」

「あー、確かに。翼は何げに兄貴肌だよね。エセ不良だけど」


というか、椎名が自覚するほど柊は面倒みていたのかと、思わず笑ってしまう綾瀬。

付き合いが長い自分たちよりも、遊佐のほうが同室に向いてると言われるとなんだか嫉妬してしまうような微妙な心境ではあるが、椎名の言葉に納得した。

椎名は諸突猛進型の野生児タイプだが、あまり物事を考えない分その勘はよく当たる。椎名が大丈夫というなら大丈夫なのだろう。


「こーへー。カッター持ってる?」

「はさみならあるよ」

「ダンボールあかねーから貸してー」


荷物整理をしているはずなのに、椎名が次々とあけていくダンボールや紙くずで部屋はあまり綺麗といえない状態になっていく。中等部でも同じことがあったなぁと考えながら、綾瀬も自分の荷物整理に没頭していた。


結局、終わったのは二時間後。

しかも、部屋はゴミだらけで綺麗とはいえない状態で、椎名も綾瀬も集中力が切れて本日はここまでと終止符を打った。寝る場所と共有スペースは綺麗だし大丈夫だろ!と言い放った椎名の言葉にはあまり大丈夫さを感じなかったがへとへとの綾瀬も今ばかりは「そうだね」と笑った。



*****


ヘトヘトではあるが、今日は宴がある。

寝るわけにもいかず、食堂に腹ごしらえしに行こうという椎名の提案で夕食をとることになった四人。

お互いの部屋状況を笑い話にしながら、ふらふらと食堂への廊下を歩いていると懐かしい顔ぶれに遭遇し椎名が声をあげた。


「杉村先輩!内村先輩!」


その声に反応を示した二人がほぼ同時に振り返る。

それは、中等部でも陸上部に所属していた先輩だった。


「椎名じゃないか。それに、翼と綾瀬も」

「久しぶりー。入学おめでとう」


穏やかな笑みを浮かべる久しぶりの二人にテンションがあがる椎名。綾瀬もにこやかに会話に混ざる。

見覚えないな、と無関係を決め込む遊佐は二人の反応に比べて突然大人しくなった柊の反応に首を傾げた。

柊も知らない先輩なのかと思いきや、会話の内容からしてどうやら陸上部らしい二人。そして、柊も確か陸上部に在籍していた記憶がある。むしろ綾瀬と椎名より親しいはずだが。


「椎名はすごく頑張ったんだねー。正直無理かと思ってた」

「どういう意味っすか、それー!」

「あはは!そのままー」


からかう内村の声に素直な反応を見せる椎名。

陸上部に在籍していたのは、椎名だったか?と遊佐が記憶違いを疑ったその時、杉村が柊に声をかける。


「翼」

「っ…」


あからさまな態度。

そして、わずかに紅潮した頬。

遊佐は察して、もうなにも考えず夕食のメニューへ意識を飛ばした。


「部活はいつから参加できる?」

「た、多分…明日のオリで部活紹介があるんで、その後だと思うっす…」

「そうか…。じゃあまた部活が一緒にできるのは、明後日からだな。まさか入らないとは言わないよな?」

「っ、まさか!」


声を荒らげて否定する柊に、杉村は嬉しそうに笑う。


「楽しみにしてる」


そして、極めつけの頭ぽん。

モテない筈がないその爽やかな笑み。

あの柊を完全に年下扱いしている杉村に、事情を知る綾瀬はついニンマリと表情を崩した。


「椎名は部活入らないのー?君、猪みたいだから短距離向いてるよー」

「だからどういう意味っすかー!」

「内村先輩…あんまからかわないであげてくださいよ」

「あはは、ごめんごめん。あまりにも素直に反応するからさー。まぁ、綾瀬も?あんまり人の恋路見てニヤつかないようにしないとねー?」


おっとりとしながらも、なかなか食えない先輩だ。

そう思ったのは綾瀬と遊佐である。

じゃーねー、と去っていく二人を見送り再び食堂への道を歩き始めた四人。結局夕食の席でも、火照りがなかなか消えない柊を、ニンマリ顔で眺める綾瀬がいたのだった。

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