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十二支部  作者: 兎羽 翔
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新一年生メンバー


「翔真!」


 ざわめく教室に、遊佐の名前を叫ぶ声があった。入学式もおわり、新しいクラスへと足を踏み入れた遊佐を待っていたのは、中学から面識のある椎名拓巳。なにを隠そう、彼が忌々しい理由で教師役を押し付けられた元凶である。


「どこいってたの?入学式もサボって」

「…別に」


 大して親しい間柄ではない。遊佐はそう思っていても、受験勉強をみてくれた遊佐に対して椎名は、そうは思っていない。短い返答はいつものことだとわかっていても、冷たい態度には毎度ちくりと胸が痛む。小さくため息をついて、椎名は「こっちだよ」と、あらかじめ把握しておいた遊佐の席へと手を引いた。


されるがままに引かれていった遊佐を待ち受けていたのは、これまた中学から面識のある二人だった。


「入学式サボって、校内探検か?遊佐」

「なんかいいことでもあった?翔真」


 ニヤニヤとよからぬ妄想でもしているであろう、気持ち悪い表情を見せつけてくる柊翼。そして、何気なくするどい言葉を放ってくる綾瀬航平。

なんの運命か因果なのか、四人とも同じクラスに振り分けられたことを今知った遊佐は、隠すことなくため息をついた。


「校内探検をしたいのは、柊だろ。あと、いいことなら……あった」


 思い出すのは、先程まであった二人だけの空間。御堂を迎えに来た三年がこなければ、もっと続いたであろう幸せな時間だ。

次会えるのはいつだろうか、今すぐにでも会いたい。

そんな乙女チックモード思考の遊佐に、三人は珍しいものを見たと驚きを隠せない。


遊佐の赤面なんて、初めて見た。


 三人の思うことは同じだった。


「は、はははは破廉恥!」

「おい、拓巳。おまえエロい妄想すんなって」

「そういう翼がイチバン、変な妄想してると思うけどね」


 冷たい視線を柊に向ける綾瀬。そして、どことなく幸せオーラを放つ遊佐に笑みを向けた。


「さっそく会えたんだね」

「…つか、会いに行ってきた」

「さっすが!大胆だね、翔真」


 よしよしと、同じ背丈くらいの遊佐を撫でる綾瀬に遊佐は抵抗することもなく、どこか上の空でそっぽを向いている。これは重症だと、綾瀬は苦笑いしながらも友人の幸せを祝福した。


「こうへー、なんか知ってんの?」

「前にちらっとね。会いたい人が高等部にいるって」

「へぇ!俺の知ってる人!?」


 興味津々に身を乗り出してくる拓巳に、遊佐はぎらりと目を光らせてその頭を鷲掴んだ。


「あー、知ってるよ。知ってるだろーよ。俺があの人の隣に立つ条件がお前だったからな」

「えっ!?おれぇ!?」


 低い声と鋭い眼光に睨まれる拓巳は、身に覚えの無さすぎる遊佐の発言に、慌てる。


「なにそれ、知らないって!つかその先輩って誰だよ!?」

「ちっ、誰が教えるか」

「ちょっ!しょーまー!」


 教えて教えないの攻防が二人で繰り広げられているのを、見つめる柊と綾瀬。いつものことだと、今更止める気はさらさらないようだった。


「あの遊佐に好きな人ねー。航平は知ってんの?」

「俺も誰かは知らないな。でも、今の話を聞いて納得した。遊佐の家庭教師があんなにスパルタだった理由って、拓巳のせいだったんだね」

「はぁー…、あの遊佐も人並みに嫉妬とかするんだな」


 感心したように柊は、呟く。

 その光景は、担任が教室にやってくるまで続けられていた。




*****




「うっ…教科書重たい…」

「置き勉禁止って、誰が決めたんだよ」


 配布されたばかりの教科書は二十を超えていた。しかも、ひとつひとつ厚みがあるため、その重さは男子高校生の筋肉にさえ辛いものだった。ふらふらと前を歩く椎名と綾瀬。それに比べて、多少鍛えている柊と遊佐は黙ってそれを運んでいた。


 ホームルームもおわり、今日から高等部の寮へ入る四人が向かうのは、学校から五分もかからない場所にある寮だ。これから、入寮式があるときいている。


「あ、遊佐。ホントは今日、入学祝いで四人で飯食おうと思ってたんだけど、俺ら用事あんだよ。お前どうする?」

「俺も用事ある」

「そ」


 ならいいや、と柊は再び視線を前へ戻す。中学から面識があるとはいえ、なかなか心を開かない遊佐との会話はなかなか続かない。それを知っているからこそ、沈黙をわざわざ破ろうとはしない。今では、それが普通で居心地よくもあった。


「え、二人とも用事あんの!?」


 聞き耳をたてていたらしい椎名が、驚きの声をあげる。彼は、入学祝いをする気満々だったようで、まゆは見事にハの字になっていた。


「何言ってんの拓巳。俺らも集まりあるでしょ」

「え、なんの?」

「…メール、見てないの?カミサマからきてたでしょ」

「嘘っ!?」


 見事なオーバーリアクションで、教科書の入ったカバンを廊下に落とした椎名は、それを拾うこともせず携帯を取り出した。なにやらカチカチと操作してる椎名を黙って待つ三人。

携帯を見る表情が、一瞬泣きそうになり、そして次の瞬間には笑顔を浮かべた。そんな椎名に、綾瀬は小さく笑う。


「良かったね、長かったもんね」

「っ、うん…!」


 またも、同じ背丈くらいの椎名の頭を撫で始める綾瀬に、オカン気質を見た柊はどことなく嬉しそうに微笑むだけ。遊佐は、綾瀬の言葉を復唱するように小さく呟いた。


「カミサマ…?」

「あぁ、俺らの先輩。あだ名みたいなもん」

「へぇ、なるほどね。お前ら、十二支だったんだ」

「は?なんで遊佐がそれ知ってんの?」

「別に。とある先輩に聞いたことあるだけ」


 当然のように十二支という言葉を放った遊佐に、柊は驚いていた。

 先輩というのは、先程のイイコトをしてきた先輩のことだろうか。っていうことは、十二支の誰か…?


 三年前の宴に、コイツはいなかったはず。だから、十二支メンバーではないはずだが…。


「へぇ。一応ひみつの組織だから黙っててな」

「ふっ、何それ」


 秘密組織。

 自分でも馬鹿げているとは思う。

 それでも、カミサマがつくってくれたこの十二支の関係は、絆だから…。


 柊は、そう思いながら自嘲気味に笑みをこぼした。


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