兎と羊と猪の密談
場所は変わり、受け付け会場からすぐそばにある講堂には、新入生と在校生、そして在籍する教職員や関係者、保護者と千人を超える人数が集められていた。学費も高く、偏差値も高い学校ともあれば、これだけの人数がいても騒がしさに手を煩わせることもなく、式は予定通り進行される。
「入学おめでとう」
舞台に立つのは、目立ちのいい青年。そして、ジャンルは違うものの街に出れば間違いなく人目を集めるだろう顔立ちの整った数人の生徒。
彼らは、生徒会と風紀委員にあたり、この学園の代表でもある。彼らが学園の顔であるし、特色も代々入れ替わるほど影響力は強い。
見とれる生徒や保護者は少なくない。見慣れているはずの在学生徒たちまで、釘付けになっているほどだ。
「ね、カミサマ見た?」
「まだ。探してんだけどさー、こんだけ人数いるとやっぱ分かんないよなー」
「つかあの人の性格考えると、サボってる確率のが高くね? 」
ひそひそと、交わされる会話は式を煩わせるほどではない。
しかし、新入生の中でもひときわ目立つ三人組は、朝の喧騒時からすでに注目されていた。微笑み合う三人を、まわりの新入生がちらちらとのぞき見ているのが傍目にもよく分かる。
「たしかにさぼってそー。受付んとこに七瀬センパイと、大橋センパイはいたね」
嬉しそうに笑うのは、無邪気な笑顔がチャームポイントの椎名拓巳。
「ふっ、七瀬センパイの作り笑顔はちょー笑えたな。俺らの顔見た瞬間、口元引き攣ってたって」
思い出し吹き出す、少しやんちゃそうな彼は柊翼。
「笑うなよツバサ。なっちゃん先輩も久々に見たな。相変わらず可愛い」
そして、悪戯に笑う柊を嗜めるは、どこかオカン要素を漂わせる綾瀬航平。
中学からつるんでいた三人は、系統はバラバラだがお互い無いものを補うようにバランスよく付き合えてきた深い友人関係にある。
懐かしい顔に、懐かしい話題で静かに笑い合う三人だが、共通して気になっていることもあった。
「にしても、翔真ったらどこいったんだか」
呆れた溜息とともに吐き出した椎名の言葉に、二人は肩をすくめるだけだった。