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十二支部  作者: 兎羽 翔
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蛇と龍のお仕事


 まだ肌寒さを残す、春の朝。

 辺りは喧騒に包まれ、多方向へ歩く人々でそこはごった返していた。


「1-Sだね。入学おめでとう。頑張ってね」

「D組だよ。あまり喧嘩して俺たちの仕事を増やすなよ?入学おめでとう」


 今朝、生徒会ミーティングでクラス確認と、造花を受け渡す係を言い渡されたのはたった二人だった。不幸にもその新入生受け付け係となったのは生徒会副会長である七瀬優也(ナナセユウヤ)と、生徒会会計を勤める大橋棗(オオハシナツメ)である。

役員持ちである二人の人気は大きく、受け付けが回らないのではないかと懸念されていたが、持ち前の器用さと要領の良さで、新入生はスムーズに講堂へと導かれ、心配は杞憂となった。


 受け付けをはじめて、かれこれ1時間は経過しただろうか。二人は変わらず笑みを貼り付けているが、内心疲労はたまっており、表情筋も限界を感じていた。その頃、ようやく入学式を始める放送が流れてくる。


 新入生のみなさんは、講堂にあつまってください。入学式を開式いたします。


 りん、とすんだ声は校内全体に放送されており、講堂への集合を促す。それに伴い、新入生はバタバタと慌ただしく走り去っていく。ようやく最後の生徒にクラスを伝え終わった頃にはほとんどが講堂に入っており、先程までの騒がしさが嘘だったかのように静まり返っていた。


 人気ヒトケのなくなった受け付け会場。ようやく肩の荷がおりたとばかりに、深い深いため息をおとす七瀬に、同じく肩の力を抜いた大橋はクスリと笑みを浮かべた。


「おつかれ、ゆうや。疲れたねー」

「おつかれ…いや、まじあの糞バ会長殴り殺したいわ」

「ははっ、物騒だなぁ」


 冗談だと軽く笑っている大橋に対して、七瀬の目は本気だった。

それもそのはず、今年の新入生は400人いたのだ。それを二人だけで捌けたことが奇跡に近いと、七瀬は思っている。


「でも、新入生の子達いいこだったね。きちんと列も乱さず並んでくれたし、おかげでスムーズにいって、時間にも間に合ったし。よかった」

「…本気でそう思えてるなら、俺はお前を尊敬するよ。なつめ」

「へ?」

「いや、なんでもない」


 こんな疲労困憊のあとに、そんな綺麗なセリフを吐ける大橋に、七瀬は軽く呆れつつ、しかしコイツらしいなと笑みをこぼした。


「とりあえず、式の進行は他のメンバーの役割だし休憩しとくか 」

「そうだね。なにか飲み物買ってこようか?」

「いや、俺はいー…って、お前も疲れてんだろ。気ィつかうなよ」

「別につかってないけど…って、あ!そういえば」


 何かを思い出したように声をあげた大橋だったが、またすぐ考え込むように小さく唸りながら首を傾げていた。そんなオーバーリアクションの大橋に、七瀬がたずねる。


「なんだ?他に仕事でもあったか?」

「ちがうちがう。ほら、宴のメール来たでしょ?」

「あぁ、きたな」

「噂だと、今回は猫のお披露目があるって聞いてるんだけど。いた?」


 新入生のなかに。

そう言われ、七瀬も思い出そうとしてみるがまず顔も知らない猫など分かるわけもなく、すぐに考えるのをやめる。大橋は、いまだ考えているようだ。


「どーせ宴で会うだろ」

「んー。そうなんだけどさぁ」

「気にするとハゲるぞ」

「七瀬のいじわるっ」


 プクっと膨れっつらを晒す大橋。なんだそれ、と軽く受け流す七瀬。

 講堂からは、ようやく開式の言葉が流れはじめる。

 緩やかに流れる春風が、受け付け会場に残った一輪の造花を揺らしていた。


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