4.八宮姉妹の登校
お姉ちゃん、八宮 鐙子は元々喋らない人だった。
私、八宮 聖は中二病の影響で【右目を見たものが石化する眼】を得てしまった為に眼帯をしているけど、お姉ちゃんは本当に無口だ。喋らないわけではないけど、長文を喋ったのを見たことは殆どないくらい、無口だ。
でも、そんなお姉ちゃんを嫌いだとか言うわけではないよ。むしろ、今しているこの眼帯を買いに、4駅ほど離れたファンシーショップまで買いに行ってくれるようなお姉ちゃんは好きだ。
ただそんなお姉ちゃんにもライバルというか気になる人というか、なんかここ半年で何回もあってる人がいる。確かAuraっていったっけ。黒髪を腰まで伸ばした美人さん。十字架にこだわりがあるのかネックレスから腕時計、鞄、靴と十字架の模様が入ってるのを着用してた。あとなんか黒いマント。4月に学校を退学になったからって、黒いマントを常備することにしたらしい。
まぁお姉ちゃんの影響が強いんだろうけど、だってお姉ちゃん刀を隠すために白いマント着けてるし。眼帯と同じファンシーショップで買ったんだって。
私が初めてオーラさんを見たのは5月、黄金週間が終わってお姉ちゃんと学校に向かっていたときのこと。あ、お姉ちゃんと私は同じ高校だよ、普通の成績の子が少し努力をすれば入れる程度の公立高校。お姉ちゃんは2年で私が1年。
登校してたら突然上から黒いマントをはためかせて女性が落ちてきたの。
「この、阿婆擦れ、ようやく見つけた。お陰で連休無駄に過ごした。」
「……それは駄目天使が悪い。」
「いや、『何が再戦したいなら見つけてみよ』よ、ヒントくらい残してから去りなさいっての!」
「…ヒントもなにも公園のとなり家」
「大体……………え?」
「私と駄目天使。一応お互いの名前は知ってる。私はAura=Reaperとか言うふざけた偽名を知ってるだけだけど、駄目天使は私の本名知ってる。………知ってるよね?」
え゛?今のお姉ちゃん!?あんな長々と喋れるもんなの?
私の驚愕をよそに首を少しかしげてるお姉ちゃん。
「八宮 鐙子ちゃんでしょ?外身に似合わず良い名前してるよね、名前負けしてない?」
「うるさい駄目天使。退学しただけではなくて、鬱憤を晴らすためだけに他校に殴り込んでる害虫な癖に。」
「別に私は今さらそういうの気にしないし?もはやこの国は暴れた者勝ちって風潮あるしねー。未成年者の発病率が異常に高いせいで統制がとれてないみたいじゃん。」
「別に否定はしない。無秩序なのは事実。」
「まぁどーでもいいよね。四日ぶりかな?さっさと遊んでよぉー、鐙子お姉ちゃーん」
「甘えた声出すな気色悪い。…聖、悪いけど鞄。」
すごい勢いで話が決まっていく。てか、お姉ちゃん学校サボるつもりなのかな、いやでも鞄を私に放り投げてきたしいくつもりはあるのかも。
「遅刻しても良いからちゃんと学校来てよね。工藤さんに渡せば良いの?」
「音菜だと多分会話に困難。桜花か委員長にお願い。」
あれ?工藤さんって会話できないキャラだっけ?お姉ちゃんと違って普通に喋れて意思疏通できる人だったと思うけど。というかお姉ちゃんが唯一家に呼んだことのある友達だから私とも面識あるんだけどなー。
まぁ鳴神先輩や委員長先輩も話したことがないわけではないし、別に良いか。百聞は一見にしかずって言うくらいだし。
「じゃあお姉ちゃん先に行ってるよー!」
刀を鞘にいれたまま取り出して、オーラさんと睨みあってるお姉ちゃんに一声掛けてから再び歩み始める。
「そろそろその羽で羽毛布団をつくりたい…。」
「え。そんなに私の温もりが欲しいとか気持ち悪いなぁー。流石阿婆擦れ、羽でもいける口なのかぁー。」
「…やめて。私を汚さないで、駄目天使と違って純情なんだから。」
「私が純情じゃないみたいな言い方しないで、私だって純情だよ!?」
「嘘。」
「本当だよ!」
なんかじゃれあってるし、実は仲良いんじゃないかなあの二人。
校舎の二階の一番端の教室。ここがお姉ちゃんのクラス。軽く三回ノックをして戸を開ける。
「すいませーん、八宮妹ですけどー。お姉ちゃんの鞄届けに来ましたー。委員長先輩か鳴神先輩をお願いします。」
ガラガラと戸を開けると数名の先輩達が眼にはいったのでその内の一人に声をかける。
「いいよ、ちょっと待ってねー。鳴神ー!お客さんだぞー!」
茶髪の先輩が声を張り上げて呼んでくれる。
窓際の席で喋っていた黒髪の男の人が手を挙げてこっちに歩いてくる。
「おはよう。こんな時間とは珍しい。八宮嬢、今日はどういった理由で鐙子は休みなんだい?」
鞄を受け取ろうと手を出しながら訪ねてきた男の先輩が鳴神 桜花先輩。お姉ちゃんとは中学時代からの友達で昔から遅刻気味のお姉ちゃんを心配してくれてる人。顔のパーツがもう少し上手く噛み合えばイケメンなんだけどなぁ…。
「突然落ちてきた女の子に喧嘩を売られて、そのまま仲良さそうに喧嘩してました。」
仲良さそうに見えたよね。
因みにお姉ちゃんは「猫がいたから」「今日なら真昇龍拳のコマンドが押せそう」「眠い」「ランチが食べたい」といった理由でサボり、遅刻をしたがる常習犯である。
「それはまた斬新な理由だね。あ、今日も眼帯似合ってるよ。」
鞄を渡したらすぐさま毒を吐いてくる辺りこの先輩は地味に苦手だ。でも、お姉ちゃんは本当に仲良くしてるんだよなぁ。私とお姉ちゃんの性格の違いかなぁ。
「眼帯外しても良いなら外しますよ?」
「やめてほしいかな。ごめんね。」
すぐに謝る辺り引き際をおさえてらっしゃる。
因みにこの人も中二病に発病してるらしいけどどんな効果かは知らない。というか教えてくれない。なんでも 「知らない方が幸せなこともある」だとか。知らないせいでなんにも評価出来ないや。
そういえば窓際に座ってるのって工藤さんだと思うけど、特に変わった様子は見られないなぁ。私みたいに中二病の影響で外見が変わったのかと思ったけど違うのか。
「それじゃあ先輩、鞄お願いしますね。」
一回おじぎをして教室を出ました。
自分の教室へと向かって歩いてる最中にキンコンカンコンがなって私も遅刻者になったのは内緒のはなし。予鈴?気づきませんでしたが私が学校にはいる前になってました。南無三。