3.Auraの学級崩壊のすすめ
私、朝霧 結衣は努力をしたことが一度もなかった。
もともと、私はやる気がない人間である。
今通っている高校も、名前が書けて一般常識さえあれば基本的に入れるレベルの高校だし。中学のときも勉強もしない、なにかスポーツに打ち込んだりもしない、家に帰っても親の手伝いをしたりもしない。
ただ寝れれば良かった。こう言うと変な子を見る眼で見られちゃうけど、実際私は寝るのが好きだ。唯一の趣味だとも言える。
外見がなまじ整っているぶん、中身がすっからかんだと結構軽い女だと見られることも多い。だから私の容姿とか体目当てに近づいて来る男も、やはり多い。すべて断っているが、やはりしつこいのも中にはいてうんざりしている。
今思えば無理矢理襲ってこなかっただけでも、彼らにはまだ理性と言うものがあったのであろう。
私はクラスの女子に友達がいない。なんていうか、毛色が違うというのか本質的に合わないと思う。向こうもそう思っているみたいだし、普段から不干渉をお互い築いていた筈だった。
元々私の通っている「総合進学コース」は一クラス分しか人数がいない。だから、4月もまだ序盤だというのに、2年にあがったばかりのあの日あんなことになってしまったのだろう。
今この国にて流行っている病のせいで、私はとある組織に改造されたという記憶がある。それによって背中から羽を出すことが出来るらしく、試してみたら出せた上に飛べた。風のようなものを羽から出してグライダーのごとく飛ぶみたい。
それとは別に元々影を操るという力も私には備わっているようだ。認識名【影を操りし天使】とか言うらしい。もうちょっと認識名を頑張って付けてほしかったとは思うけど。
しかも組織を脱退して、追われる立場にいる元暗殺者とか言う立場である。抜けた理由は自由がなんたら。組織が存在してなければどーでもいいとは言え存在が仮に発見されたらと思うと軽く鬱になれた。
んで、もし自分同様にこの病の影響を強く受けて、組織の人物だとか暗殺者だとかになりきってるのが、自分を殺しに来るかもしれない、と戦慄し、それなら能力を磨いておこう、戦闘能力を高めておこう、逃走能力を鍛えておこう、と、生まれて初めてとも言える努力を私はしようと決意した。
んで、初めての努力に興奮してか、調子にのって様々な人に喧嘩をうって残りの春休みを過ごしてた。
鉄を操る奴、ハサミでならなんでも切れる奴。格ゲーの技を使う奴。声か無駄にでかい奴。面白い魔法を使う奴。etc.etc.
こいつらは見事に糧となってくれた。というか元々の運動神経やら反射神経やらではとてもではないけど、やられていたと思う。能力が発現すると同時に身体のスペックもものすごく上がっていたようだ。びびった。
古の吸血鬼とか名乗っている奴。封印されてた魔王。日本刀を使う阿婆擦れ。電気そのものな奴。同じ組織からの逃亡者。
こっちは刺激的な出会いだった。吸血鬼は強かったし、魔王には初めての敗北を味わされた。阿婆擦れとは三回会って全部引き分け、電気野郎は逃亡者と協力関係を結ぶきっかけとなった。
というか、電気野郎が組織の追っ手とか言う奴だった。存在してたんだとか思う間もなく襲われて、死んだと思ったくらいだ。あの時は焦った、多分今まであった中で魔王に次いで三番目に強いと思う。いやまぁ、こいつに会う前に化け物と出会っているから驚きは少なかったけど。
一番危なかったのはあの着物の化け物。
暗殺者としての勘みたいのが働いて、眼鏡の光弾使いとの戦闘を即座にやめて逃げたくなった。当然私は逃げた。元々逃走>闘争な方針だし。
あの後の展開を見る限り逃げて正解だったみたいだ。あの時まで魔王が最強クラスだと思っていたけど勘違いも甚だしい。上には上がいるみたいだし気を付けるべきだと思った。そもそもあの耳はなんなんだろうか、ケモミミというやつだとは思うけど。触ってみたかった。消し炭にされそうだけど。あのオーラはやっぱりやばい。
んで、今年度初めて学校に来たのは良いんどけどなんか、視線がよくないんだよねー。グサグサ刺さるってかなんか痛い。なんだろ。折角机にタオルも引いて寝る準備万端だったというのに。全くもう。
単純になんでそんな視線してるのかって言うのとかを聞いてみた。したら
意訳。「顔だけ良いお前が気に入らなかった。私たち皆能力覚醒してるから、お前ボコるわ」ということらしい。
すっごくテンプレート乙な展開。まぁ私も自慢できるのは容姿くらいだと思ってたくらいだし、あまり整ってるとはいえない女子の皆さんは私をボコボコにできるこのチャンスを見逃すわけないかー。
机から顔をあげて見ればざっと10人は私を囲んで睨んでますわ。
…まぁ凄くて強くて理想的な力を手に入れたら、それを他人に振るいたくなるのはわかる気もするけどさー。でも私にはなんとなくだけどわかる。こいつらは、私よりも弱い。まとまっていても吸血鬼や阿婆擦れ、協力者となったあいつよりも弱いだろう。同じレベルの実力者である私が負ける道理もない。
折角だしモチベーションをあげる意味も込めて、黒板の前へと一気に跳躍。周りがどよめく。なに?まさか自分たちだけで私も何か能力を得ているとは思わなかったの?何て都合が良い設定だろうかそれは。
チョークを滑らせて、黒板に一気に文字を描く。
|【Aura=Reaper】《オーラ・リッパー》
皆、唖然としてる。突然なにしてんのこいつみたいな空気が教室中に溢れている。
ならば、その空気をさらに乱してあげましょう。必死に考えた、私なりの格好いい決め台詞!
「これが、私の名前。眼に焼き付けなさい。そして崇めなさい。それが貴女達にできること。」
羽を背中から生やして影をうにょうにょと前方にだす。周りの驚愕が気持ち良い。
さぁ、寝れなかった鬱憤を晴らさせて貰おうかな。