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第七話 綺麗なモノ見すぎると感覚麻痺して綺麗じゃなく見え――ないね! 目が潰れる!

サブタイトル無駄に長すぎますね。テキトー(適当ではなく)に付けすぎですね。そして無意味な駄菓子縛りをもうやめようか悩んでいます。

 放課後を待って、今日はおばさんが頑張って夕飯を用意すると話していたがどうなるかな、とぼんやり考えていると、心の中で噂していた男が教室に顔を出した。未生! と簡潔に叫んで終わらせたから、いつものように私は犬か、というせりふは吐かずに済んだ。なんだなんだ、祐太のくせに少しは成長したか。

 しかし、うんざりした顔をした彼女をにこにこと満面の笑みで連れてきた馬鹿は、相変わらず平常運転だ。いつものように運命の相手だ! と叫んで、祐太は私にさつきを紹介した。

 いや、ひとつあったな、相違点――肩書きか。

「ねえちょっと勘弁してよ、こいつ超しつこいんだけど未生ぃ」

 祐太に目下口説き中だと甘い声で言われた女はそんなことはどうでもいいようだ。弱り切った声で私に助けを求めるかのように話すさつきに、思わず無言でセコイヤチョコレートをまるまる差し出した。ほんとまじお疲れッス。

 さつきは、ふきだしながら、ありがとう、とそれを受け取った。ちなみにいちご味である。

「え? ふたりとも……知り合い?」

「友だち。さつき、九割は流したりてきとうに相槌うてばいいから。完全に無視するとかまってちゃんだから超めんどくさいよ」

「あーやっぱり? 最初はそうしてたんだけどほんっと周囲をちょろちょろされるから困って困って……」

 さっそくセコイヤチョコレートをべりべりとはがしてぱくつきながら、さつきが物憂げにため息を吐く。祐太のことはぞんざいに扱いながらふたりして和気あいあいと話を進めていると、祐太がずいっと真ん中に割って入った。

「聞いてないよ? 俺」

「言ってないからね。さつき、今日なんか予定あんの?」

「いや特には……あ、せっかくだしどっかでお茶でもしよか。松原対策立てようぜ」

「いいともー!」

 ぐ、と親指を立てるさつきは当初、想像していたキャラとはだいぶ違う。かなり嬉しい誤算だった。いやあ、なかなかどうして。本人を前に対策うんぬん言い出すとか、お強い。私の協力なんて必要なさそうだけどな。

「ねえ祐太」

「ねえ松原」

 私とさつきの声がかぶった。てことは、この先の言葉も行動もおそらくかぶる。

「邪魔」

 ぐいっと右からも左からも肩を押されて、女性の力だったにもかかわらず、予期せぬできごとだったようで、ぐらりと後ろに傾いだ。まったく、さつきと会話してるのに真ん中に立たれると邪魔でしょうがない。

 まだちょっとふらふらしている祐太を一瞥して、私とさつきは、馬鹿だ、いや間抜けだ、いやもやしだ、などと祐太をこれでもかと馬鹿にしつつ歩き出す。

「さつき!」

 叫んだ祐太の声に反応を示すこともなく、さつきは私と会話したまま昇降口を目指す。

「しかし松原って、馬鹿だよねえ」

「何をいまさら」

 私が目を丸くすると、いやいや、と呆れたように首を振る。

「あれほどとは。まあ――未生も同じかそれ以上に馬鹿だけど」

「はあ!? ちょっとそれは聞き捨てならない!」

「やーいお馬鹿コンビ」

「てめ! チョコレート返せ!」

「もう食べちゃったからありまっせえん」

 ぐぬぬ。なんという女だ。悔しいのでせめてもの報復にデコピンをお見舞いすると、いたっ、という間抜けな声が響く。私は少し気が晴れて、にまにましながら昇降口まで辿り着いた。さつきが後ろでなんか言ってるけど、無視だ、無視。

 靴を履き替えていると、衝撃が背中に伝わり、私はそれをもろに受けた為か、ぐえ、と間抜けな声を上げて下駄箱に頭を打ちつけた。

 おい、どこの非常識だ、だいぶ痛い! ま、まさか、さつきの報復か? 容赦ねえな!

 私は文句を言う為に振り向こうとしたものの、すっぽりと抱き込まれた腕からはもはや身動きひとつできなくなっていた。あれ? このぬくもりって……。

「未生。どうして、さつきと仲良くしてるの?」

「祐太?」

「今まで、そんなことしたことなかった」

 いや、あなたが知らないだけで大体の元運命の相手とは交流があるんですけどね、と言ったら、こいつは驚くだろうか。中学時代に引っかかったひともあの同好会入りしてるし。同じ高校に来るあたりけっこういい根性してんなとは思う。先輩らは不可抗力だけれども。

「うーん……とはいっても。確かにきっかけは祐太だけど、先に仲良くなっちゃったから。ごめんね? 祐太の味方できなくて、でも」

「そんなのどうでもいい!」

 邪魔は極力しないから、と続けようとしたのに、その言葉を遮られた。私は、普段ほとんど声を荒げない男が叫んだ事実に驚いて目を見開く。首だけ動かして、祐太? と声をかけると、なぜか苦しそうにしている祐太が視界に映った。んん……?

「あんなに楽しそうに話してること、なかったじゃないか……未生は、俺よりもさつきが好きなの……?」

「――は?」

「俺の友だちをやめて、さつきと友だちになるの?」

「いやいやいや、祐太くん? あのね、友だち枠っていうのはひとつじゃないのよ、複数存在するものなのよ?」

 馬鹿じゃないの、とため息を吐いて言ってやれば、祐太の腕がゆるまった。

 私は祐太の腕から出て、途中になっていた靴を履きかえる作業を再開する。まったく、額が赤くなってたらこいつのせいだ。

「未生は……」

「ん?」

 靴で地面を何回かノックしたあとに祐太へと視線を向けると、なぜだか泣きそうな顔でこちらを見る、迷子みたいなのに図体のでかい男が突っ立っていた。

「未生にとって、俺って何番目?」

「あのね、順位付けなんて悪趣味な真似するわけないでしょ」

 ていうかどうしたんだ、こいつ。ちょっとおかしい。情緒不安定? おばさんのこととか、あったからかな。

「未生は――ずっといっしょだよね?」

 あまりにもな質問に深いため息を吐きながら、私は歩き出す。おっと、気づけばけっこうなギャラリーじゃないの。どこにいても見世物になるって嫌なもんだなあ。祐太はよく平気なものだ。慣れかねえ。

「さあ? いつかは離れるかもしれないし、先はわかんないんじゃないの」

「どうして?」

 歩きながら口を開くと、祐太は焦ったように隣に並んで同じように歩く。ていうか、さつきのやつどこ行った?

「いやほら、お互いに進学とか就職とか結婚とか、色々待ってるでしょ? まあ、お互いの実家がずっとあそこにあるんなら里帰りもすれば会うこともあるだろうし何かと交流は続くかもしんないけどさ」

「……時々しか、会えなくなるの? このままだと?」

「え? それはまあ、そうなんじゃないの? 卒業するまではまあ、今まで通りとして」

 どうしてそんな当たり前のことを訊くのだ、と目を丸くする私に、祐太はまるでたった今気がついたかのような顔をする。え、残念なおつむだとはわかっていたけれど、まさかまさかの、ここまでなの? ここまで酷いの? どこまで酷いの?

「未生、どうしてそんな風に言うの? まるで、俺を」

 震える語尾から出る言葉の先は、なんとなく察しがついた。しかし、そこで祐太の声が止まる。私も同じように止まった。というか、校舎から出た生徒の大半が、その場に固まり呆けた顔をしている。

「真澄、なんで来たの!?」

「来られたらまずい事情でもあった?」

「そういうわけではないけど」

「ふうん? で、俺の可愛い可愛い恋人を口説く不届き者はどこかなあ?」

 うっわあああ……ふたり並ぶと絵になるなあ。すさまじい色香を放つ和泉真澄くんと、凛とした美から出る静かな空気を放つさつき。まるで赤と青が重なり合ってるみたいだ。

「ああ、あれ?」

 あれ? あれ……あ! そうだった、祐太!

「ゆゆゆゆゆ祐太! やばいよ、殺されるよ! あの瞳はやばいよ!」

「え? どうしたの未生」

 そんなに叫んだらむせるよ、とか冷静に注意しないで! どうして時々、お兄さんスイッチ入るの!? 今は危険が危ないって言ってるでしょうがああああ!

 ぐいぐいと腕を押して逃げろとうながすのに、祐太は私に大丈夫? と声をかけるばかりだ。あああ、さつきも後ろから真澄! と制止の声をかけてるけど、それ、逆効果なんじゃないかなー……ああほらやっぱり。殺気が増した! きっと今なら計測器が壊れるぞおおおお!

「松原祐太、くん?」

「――ああ。さつきの彼氏だっけ。すごいね、イケメン」

「なんか君に言われるのとっても癪だねえ」

 あははは、と笑ってる傍からほとばしる殺気。いやだ、ここにいたくない。私は、じり……と一歩後ろに下がろうとしたが、なぜか祐太に腕をつかまれた。おい放せ馬鹿!

 私が涙目で祐太の腕を叩いていると、そんな私に気づいた和泉真澄が、ちろり、と私に視線を寄越す。ひい! 整いすぎてて怖い! 祐太で美形なんて見慣れてるはずなのに、なんでだか緊張でおかしくなりそうだ。

「ねえ、本気でさつきのこと好きだとかほざく気? いるじゃないか、ちゃんと」

「? なんのこと」

「あんたの運命の相手」

「は……?」

 具体的に誰か、とは言及していないからか、祐太はあたりをきょろきょろと見渡す。いや、さすがに私にも彼のいわんとしてることは伝わったけど。どんだけ馬鹿なのこいつ……。

 そんな祐太と私の表情を確認して、和泉真澄くんがちろりと私を見ると、苦笑した。その顔は、あなたも大変ですね、と言っているのがありありとわかって、私はなんだか複雑だった。けっこういいひとっぽい。しかし、それも、敵認定されれば話は別のようで。

 祐太へと視線を戻した彼は、す、と大きなその瞳を眇める。

「さつきの運命の相手は俺なんだから、ちょっかい出されても困るよ。別にあんたに取られるとは思っちゃいないけど、自分のものにむやみに触られたら誰だって怒るでしょ?」

 あんまり怒らせないでほしいな? と首を傾げる男――和泉真澄くんは、ほんっとーに、こわい。

「あなたが相良未生さん、ですよね? さつきがお世話になってるみたいで」

「え? は、ははははい!」

「もしもよろしければ、放課後のお茶会、俺も混ぜてくれませんか?」

「へ? あ、ああ……なるほど」

 さつきが言ってた松原対策。幼馴染みの私から、害虫のレベルはいかほどかを訊きたいわけか。言っててすごいしっくりきた。祐太、害虫認定。

「いいですよ。ふたりのエピソード、色々と訊きたいし」

「もちろん。等価交換は基本です。情報には情報でお返ししますよ」

「ちょっと真澄! 女ふたりのお楽しみを奪おうっての!?」

 私と和泉くん――で、いいか、が、話していると、慌てたようにさつきが入ってきた。しかし顔が赤いな。今まで何をされていた、何を言われていた、さつき。

「いいじゃないか、次はふたりで楽しめば。それに、相良先輩が了承してくれてるし」

「ああ、そんなかたっくるしい呼び方じゃなくて好きに呼んでいいよ、和泉くん。敬語も特になしの方向で」

「さすが、さつきとたった一日で打ち解けたひとだけあるな。じゃあ、遠慮なく、相良って呼ばせてもらう。俺も敬称とかいらないよ」

 なかなかフレンドリーな和泉にわかった、とうなずいて、お互いに軽く自己紹介を済ませる。しかし、なんか情報には情報をっていう言葉とか、まるで私を前々から知っているような口ぶり、こいつ何者なんだ? なんか怖くてつっこめないんですけど。ちらりとさつきを見たら、ごめんね、と瞳が語っていた。私は別にいいよ、と笑って見せる。

「俺の前で目と目で会話するのやめてくんない?」

 ぐい、と頬に手を当てて自身の方へと顔を向かせる和泉に、さつきは呆れた様子でため息を吐いた。

「――どんっだけ心が狭いの?」

「別に見えないとこなら許す」

「あんたね」

 呆れたように言ってはいるけど、まんざらでもない様子なのはよくわかる。そもそもが異性に顔を触られて、ちょっと頬を染めつつも嫌がらないとか。しかも人前なのに。どんだけバカップルだよ。早くも祐太終了のお知らせ。

「ささ、じゃあこれ以上ギャラリー増える前に行きましょうか? さすがに目立ってしゃーないわ」

 私以外、みんな整いすぎてるお顔立ちですからねえ。いや、別に卑屈になってるわけじゃないよ、事実だからね、おほほほ。いや、うん、むなしい。

「そうだね、これ以上さつきをみつめる男が増えるのは不愉快だし。まあ、目玉を順番にくりぬいてもいいならこっちを見ていてもかまわないけど」

 にっこりと微笑む男からとんでもない言葉がぽんぽん飛び出てくる。もっと聞きたいような聞きたくないような。ていうか、さつきが顔を蒼くしているということは、これあれですね、シャレじゃないですね。あはは怖い。

「じゃあね、祐太。おばさんのごはんやばそうだったら電話して」

 私が祐太の肩をぽん、と叩いて、ふたりといっしょに退散しようとした。

「――俺も行く」

 いや、さすがにそれはおかしくないかい、馬鹿幼馴染み。


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