赤髪の少女
深い、深い山奥に一人の少女が一人言を呟く。ボソボソと。
時に風に吹かれ、そのボソボソとした一人言も聞こえぬ事もあるが少女は一人言を止めない。
肩程に伸びた真っ赤な髪に、それを引き立たせるような真っ白な膝上までの長さのスカート。
その姿を、見続ける一人の少年...。黒い短髪に、青いTシャツに黒の半ズボン。少年は少女が自分に気付くまで見ていた。
まるで、何かに取り憑かれたようにその少女を見続けた。
真っ赤な髪が靡き、少年の方へ振り向き、少女の表情を少年が捕らえると......氷のような表情に少年の背に寒気がした。
それと同時に、その場から逃げ出した。少年は恐怖した。表情とその瞳に。
背のみを見ているのならば、今にも触れれば崩れてしまいそうな儚い少女だが、表情と瞳は全ての恐怖の意の象徴とも言うべきものだった。
深い、深い山奥から出れば少年の通う小学校の裏だった。そして、そこには『立ち入り禁止』と、書いてあった。
表向きは、危険なこと...なんだろうが、裏の意味を持っていたのだと、なんとなく...いや、確実に危険過ぎる場所だと理解した。理解せずにはいられぬ。それを、直に理解した。
“人であり、人でない者が住まう山”
と、言うことを。
だが、少年はまだ知らない。
自分が立ち入り禁止区域に足をふみいれた意味を...。
少年は、塀をよじ登り学校を後にした。しかし、少女に見られていることとは知らずに...。
そして、少女は悪意の籠った声で呟くように、誰も居ない、誰も聞こえない声量で言う。
「我の居場所を踏み荒らした罰は重いぞ、人間...。貴様が我のことを忘れた頃に、そちらの世界を荒らしに行くぞ...」
少女というには合わぬ表情で呟き、真っ赤な髪と同じ色をした瞳がギラギラと、獲物を狙う、獣の瞳だった。