ぎゃくてんせーしょうじょ【ぷろと】
家から学校まで自転車で5分。たったその距離で私は、
変人を見つけた。
思わず私は自転車を止めた。だってそうだろう。学校と家との距離が1キロはなれているかしかいないところで、しかもここは住宅街。住宅街ならではのすべりだいと鉄棒しかない小さな公園に、髪が真っピンクの人間がいるんだから。いや、それだけだったら止めなかったかもしれないけど。
ピンク毛の女の子が、なにやらなきめできょろきょろと辺りを見回しているのだ。
ええー。いまどきデスメタルでもあるまいし、一部メッシュとかじゃなくて、なんかもう染めちゃった感じになってるし。コスプレをしてるんかなぁなんて最初は思ったけれど、そう言うのって現地でするものかと思ってた。しかも服は普通だし。
あまりにも不躾に視線を送り続けたせいか、彼女も私に気がついた。あ、やばい。地雷踏んだ。これ踏んだ。
「あーっ、いっけなーい。遅刻しちゃーう」
わざとらしく腕時計を見て、つかまる前に自転車を漕ぎ出して、私は逃げた。
***
ちなみにその子はその後も2・3日朝あの公園にいた。帰ってくるときもいた。
さすがに二日目の帰りにはなれたもので、何とか彼女を見ずにスルーすることが出来た。こうして私の平和は守られたのである。
って。そこで終わりなんかじゃなくて。土曜日。
なんだかずっと所在無さげにあの公園にいて、彼女は補導されなかったのだろうか。って言うか近所じゃみたことない。
ずっといるんだよなー。不審者だよなー。なんて考えて、さすがに今日はいまいと様子を見に行くことにした。いたら通報してあげよう。なんて善人だ私。
で、公園に来てみれば、いた。
滑り台の上で体育座りしていた。なんだか小動物っぽかった。一瞬可愛いなぁなんて思ってしまったが、駄目だ。通報しよう。この公園地味に子供が遊びに来るのに、このピンクがいるおかげで誰もいないもん。
そう思って、ケータイを取り出す。ぴっぽっぱって数字を3つ押して、耳に電話を押し当てる。
と、音に気がついたのか、ピンクが私を見た。その瞬間、すべりだいをズササササーって音とともに滑って私にダイビングしてきた。
あまりものすばやさに、通話をきってしまった。そして腕ごとがっちりとホールドされる。
「助けてくださいっ」
とても女の子とは思えないような力の強さで、彼女は言った。
***
「わたし、音無乙葉って言います」
善人なわたしは、とりあえず自分の家に彼女を連れてきてあげた。だって人だかりが出来てきてなんか仲間扱いされそうだったし。わたしが一人暮らしでよかったなおとなしおとは。
っていうかごろわるいだろその名前。早口言葉か。おとなしおとは。
「悠木千里と言います」
ジコショウカイ、ダイジネー。ぺこりんちょ。
まじまじとおとなしおとはをみてみる。その特徴的な髪はふわふわのサラサラ。腰くらいまである。目もピンクで大きくて猫みたいだし、顔も小さい。っていうか端的に言って、可愛い系の美少女。これあれか。庇護欲をそそるってやつだ。
「とりあえずカラコンはずしたら?」
私はドライアイなので入れたことないが、ピンクのカラコン入れたら視界もピンクになるのだろうか。意味もなくカラコンをとる事をお勧めしてみる。
「カラーコンタクトいれてませんよ」
「……」
実はこの子ちょっとヤバい系かもしれぬ。
「あの。いくつか質問していいですか?」
「わたしも質問したいけど。まぁさきにどうぞ」
ありがとうございます。にっこりと相手を緩やかな気分にさせる笑みの後に、
「ここって、どこですか?」
そう、のたまった。
「はい?」
「ここどこですか?」
「……。館林のはずれですが」
「たてばやし……?」
えー。知らないの館林。なんかショックー。
「じゃあえっと、赤坂くんは……」
「ここ東京じゃないし」
「黒鳥くん……」
「どっかに白鳥大橋ってあったね」
「……青柳くん」
「そんな地名知らない」
「……黄島くん」
「木島列島ってあったっけ?」
「緑岡くん」
「知らないなぁ」
「白山田くん」
「下山田じゃなくて?」
「あの」
「ん?」
「全部人です」
「へぇ~」
「……」
「……」
やっべー。電波拾っちゃったわたし!? えー。いまさら家からどうやって追い出そう。可愛いけど、電波は困る。可愛ければなにしても許されるってワケじゃない。どうか穏便に、赤坂にでも帰ってくれないだろうか。
「とりあえず。住所教えてくれるかな? お母さんに連絡取らないといけないし、ね?」
ザ・オネエサンスマイルー。
「群馬の、滝川市です」
そんな地名あったか?
思い出すように考えるが、出てこない。って言うかなんで群馬出身なのに館林しらないんだよ。それからここ未開の土地じゃねーし。もっと山奥だから未開は。
「お母さんの携帯番号、わかるかな?」
「えっと。060-1234-5678」
まった。060で始まる電話番号はない。070までしかない。どうしよう会話のキャッチボールできない。
本気で警察にでも引き渡そうかと頭を悩まし始めた頃。くうぅ~っと間抜けな音がした。
おなかがすいたんでしょうけれども、随分かわいらしいことだな。
仕方がないのでお気に入りのレーズンバターロールをチンしてプレゼンツしてあげると、めっちゃがっつき始めた。
乙女なんだかそうじゃないんだかよく分からん。
お口がべっとべとになって食べ終わると、わたしは無言で手鏡を見せてあげた。バターロールを少し暖めてあげるのは失敗だったらしい。ついでにさりげなくティッシュも出してあげれば、ごっしごし拭き始める。極端なやつめ。
「あの、わたし」
お。今度はキャッチボールしてくれるか。よし、ドンとこーい。どんな球でもうけとめてやんよ。
「乙女ゲームの世界から来ました!」
とびっきりの笑顔で、おとなしおとははそういった。
ゴメン。ストラークゾーンなら取れたんだ。でもさ。これ、思いっきり暴投だよね。
そうかー。
なんとなくそんな感じがしてたもんね。だって髪の毛ピンクだし、目も妙にキラキラしてるもんね。きっと乙女ゲームの主人公だったんだね。
なんか本能的にすとんと納得できた。だって地毛っぽい髪の毛がピンクはないもんね。が、理性はそれを認めない。
わたしは、無言でケータイのボタンを、3つ押した。
***
結局慌てて止められたけれども、なにやらわたしは懐かれてしまったらしい。
こうしてわたしこと悠木千里と乙女ゲームな女の子・音無乙葉の奇妙な共同生活が始まったのだ。
脇役VS主人公!を書いているときにふと思いついた逆転生小説。
もしかしたら続くかもしれません。
お読みくださりありがとうございます。