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一分間だけのヒーロー  作者: Oっ3
8/9

終章「一分間のヒーロー」1/2

「桃里、ビーラちゃん。こんな所にいたのか。一緒に帰ろうぜ」

 鍵崎はちゃんと制服を着ている状態で、屋上の端っこ森側の柵にいる桃里とビーラに呼びかけた。

 桃里とビーラが振り返る。桃里の目は鍵崎を見た途端すぐに逸らした。

「桃里?」

「鍵崎くん。死んだのかと思ってたのに、残念」

 ビーラががっかりするように言った。

「酷いなビーラちゃん」

 思わず苦笑する。

「鍵崎くんに桃里ちゃんは渡さない」

 ビーラが小さな身体を大きく見せようと手を広げて桃里の前に立った。

「ビーラちゃん。俺を疑っているのかい?」

 桃里が口を開く前にビーラがしゃしゃり出る。

「鍵崎くんさー。超能力者テロ組織クロフトの一員でしょ。さっきの牛の怪人と裏で手を組んでるんでしょ?」

 鍵崎は嘆息する。

「俺はムサイ奴とは組まないよ」

「嘘だね。後で殺せるような奴と手を組んだんでしょ」

 無実を訴えようと鍵崎は声を荒げる。

「違う。俺は桃里を助けにこの世界に来たんだ」

 ビーラは両腕を広げるのを止めて、一瞬だけニヤリと笑った様に見えた。

「どうして桃里ちゃんの身に危機が迫るなんて知っているの?」

 鍵崎は「アア」と悔しそうに言った後、咳払いをする。

「確かに俺はクロフトに所属していた。でも、クロフトが桃里の命を狙っている事を知った。だから組織を裏切ったんだ」

ビーラは笑う。それも高らかにだ。

「やっぱりそうだったんだ鍵崎くん」

 鍵崎は顔を若干引きつらせた。

「何がおかしいんだいビーラちゃん?」

「鍵崎くん。ホテル一棟を丸々吹き飛ばした爆災の日の犯人だよね」

 今までの可愛い表情はそこに無く狂気に満ちている。

「ち、違う」

「白を切ってもダメだよ鍵崎くん。ビーラ聞いちゃったんですから、桃里ちゃんと鍵崎くんが幼馴染で、あの日も一緒だった事を」

 鍵崎は参ったと言わんばかりに空気を吐き出す。

「その通りだよビーラちゃん。桃里、覚えていたのか」

 桃里は震えるように口を開く。

「本当なんですね。鍵崎さん」

「ああ、そうだ。……俺がやった」

「どうしてですか?」

 鍵崎は黙り込む。

「答えないの? 鍵崎くん。いや、答えられないのかな」 

 ビーラが会話に挟んでくる。

「ビーラ、調べたから知っているんだ。鍵崎くんの家はクロフトの一員で、桃里ちゃんいや鈴辺家を狙っていたから幼馴染になったんでしょ?」

 桃里は今にも涙が出そうになる。

「鍵崎さん。嘘だと仰ってください」

 彼女の悲痛な問いかけに鍵崎は沈黙を破った。

「やらされたんだ。クロフトに」

 ビーラが大声で叫ぶ。

「そんなの嘘だ。やらされた? やったら多くの人が死ぬって分かっていたでしょ。やったから桃里ちゃんの両親が亡くなり、桃里ちゃんは記憶を失い、心に傷を負ったんだよ」

 俯く桃里を見て鍵崎は重い口を開く。

「確かにやらなければ良かった。どう謝っていいか分からない」

 桃里が顔を上げると大粒の涙が頬を伝っていた。

「どうしてあんな事をしたんですか? 脅されたからですか? クロフトだからですか?どうして両親を殺したんですか? どうして私から離れたんですか? 分からない事ばかりです」

 桃里は大声で泣き叫ぶ。

「これ以上、私を苦しめないでください」

 鍵崎は桃里を直視する事ができなかった。

「……桃里」

 桃里はえづきながら。

「もう、鍵崎さんが分かりません……」

 再び俯き、泣きじゃくる。

「……帰ろう。桃里……一緒に」

 鍵崎は桃里を迎えようと歩き出す。

「させないよ。鍵崎くん」

 ビーラが鍵崎の前に立ちはだかる様に両腕を広げる。

「どうしてもそこを通してくれないのかい?」

 鍵崎は優しい口調で話しかける。

「そんな事言って、桃里ちゃんをどうするつもり?」

 今まで聞いた事の無い勇ましい口調でビーラは言った。

「どうしたら信用してくれるんだい?」

 ビーラが両腕を広げるのをやめて、鍵崎の左手首を指差す。

「その時計みたいなのを捨てて、それ武器なんでしょ。捨てたら桃里ちゃんと一緒に行ってもいいわ」

 鍵崎は躊躇せずにダイバー・チェンジャーを取り外し、桃里とビーラに掲げて見せた。

「外したぞ」

 外したダイバー・チェンジャーを床スレスレに飛ぶように投げた。ダイバー・チェンジャーは屋上の柵ギリギリまで飛んだ。

 それを見たビーラはニヤリと笑う様に見えた。

「いいよ。桃里ちゃんと一緒に帰れば」

 ビーラは泣きじゃくる桃里の方を向いた。だが、すぐに鍵崎を一瞥した。

「仲良く死体でね」

 その言葉は呟くように吐かれた。ビーラの瞳は青から緑色に輝いて見えた。すると、ビーラは桃里の方を向いた。

 桃里の胸を縦に貫く様に紫色の長爪が見えた。

「桃里?」

 鍵崎は唖然とした。すると、桃里の胸から紫色の長爪が引き抜かれ、ビーラは鍵崎を見た。彼女は血に濡れた右爪を鍵崎に見せつけた。

「桃里ィィィィィィッ」

 大声で悲鳴を上げるように叫んだ。

 桃里は意識が薄れていく、目の前にいるビーラの姿がボヤけて見える。鍵崎の叫び声が遠く聞こえる。

(どうして叫んでいるんですか。鍵崎さん)

 足元がふらつくのに気づいた。

(あれ? おかしいですね。足が……)


 暗い体育館に椅子が並び、学生がいる。

(ここは? 学園アイドルコンテスト?)

 桃里の手にはマイクが握られていた。イントロが流れる。

(歌わなくちゃ)

 しかし、口を開けど声は出ない。学生達からザワザワと嘲笑の声が聞こえる。

 桃里の顔は赤くなる。

「情け無いぞ。桃里」

 威厳のある声。学生達が座っている中央に鈴辺玄一が杖を突いて座っていた。

(お、お爺様?)

 桃里はしゃがみこみそうになる。

「胸を張れェッ。桃里」

(へ……)

 制服姿の鍵崎が玄一の後ろに立っていた。

「俺とか他の奴はお前の顔を見ていないぞ」

 鍵崎が右親指を突き上げながら桃里に右拳を突き出す。

「お前のナイス乳を見ているんだ」

 鍵崎の表情は笑顔だった。

 その瞬間、鍵崎や玄一、学生達がガラスの様にヒビ割れ、砕け散った。

 全てが暗闇に包まれた。


 やがて、それは収まり桃里の前に花壇のある庭と生垣が現われた。そこに五から六歳位の少女がいた。その少女は肩まで黒髪を伸ばし、上は白いフリルのチュニック、下は赤い水玉のスカートを穿き、黄色いサンダルを履いている。

(あれは私?)

「わぁ」

 小さい頃の桃里は手を広げて、頭上を舞うアゲハチョウを見ていた。そこに、白いTシャツにカーキ色の短パン状のカーゴパンツを穿いた黒髪短髪の少年が、ソロリソロリと小さい頃の桃里の背後に近づいていく。

(誰でしょうか?)

「そいっ」

 少年が小さい頃の桃里のスカートをめくり上げた。

「キャアッ」

 小さい頃の桃里が叫ぶと、少年は踵を返して離れた。少年の表情が見えた。

(あれは鍵崎さん?)

 小さい頃の桃里が起こった表情で、笑っている小さい頃の鍵崎を追う。だが、小さい頃の桃里は転んでしまう。

 小さい頃の鍵崎は足を止め、後ろに振り返る。

「大丈夫か?」

 小さい頃の鍵崎が尋ねると、小さい頃の桃里は泣き出してしまう。それを、鍵崎は手を差し伸べて桃里を立ち上がらせる。

 小さい頃の桃里はまだ泣いている。それを見かねた鍵崎は仕方なさそうにポケットを探る。

「これだ」

 小さい頃の鍵崎は小さい頃の桃里の目の前にビー玉を見せる。桃里は訳の分からなさそうな表情をする。

 そのビー玉は陽光によって虹色に輝いていた。

「さっきは悪かった。コレ、俺の宝物。やるから泣くな」

 小さい頃の鍵崎は虹色のビー玉を小さい頃の桃里の手に握らせる。すると、鍵崎は桃里に背中を見せて逃げるように走る。ある程度距離を離すと鍵崎は肩越しに桃里を見る。

「じゃあな。苺パンツ」

 その表情は憎らしい程、眩しい笑顔だった。


 桃里は屋上の床にうつ伏せに倒れていた。

(鍵崎さん。エッチでおかしな人だけど、本当は優しい方なんですよね)

 鍵崎は両膝を床に着け、顔も床を向いている。

(どうして……泣いているんですか……)

 ビーラの右爪から赤い血が滴る。その血が床に零れた。

(そうですか……鍵崎さんは……変わらなかった……)

 桃里の表情はやつれ、その瞳から涙が零れる。

(……ごめんなさい………逃げて……)

 桃里は顔を床に着け、瞼を閉じた。

「あーあ、死んじゃった。今度は鍵崎くんの番だね」

 ビーラは桃里の姿を見てあっけらかんに言った。

 鍵崎は立ち上がることすらできなかった。

「でも逝っても無駄かぁ。桃里ちゃんは天国で鍵崎くんは地獄かー」

 反応が無い。まるで魂の抜けた抜け殻だ。

「どうしたのー? いつも饒舌なのにクールになっちゃってさ」

 ビーラは茶化すように言った。

「鍵崎くんって桃里ちゃんのどこが好きなんだっけ」

 ビーラは横たわっている桃里を仰向けにする。そして、右手を掲げると紫色の長爪が妖しく輝く。

「ナイス乳って言ってたから、そこだよね」

 ビーラから放たれた言葉には悪意が満ち満ちていた。

 僅かながら鍵崎の体は動いた。

「これ以上桃里を汚すんじゃねぇ。クソチビ」

 抜け殻に魂が宿ったように鍵崎が大声で叫んだ。その声は低く迫力に満ちていた。

「へぇー。鍵崎くんって女の子には優しいと思っていたけど、そんなこと言えちゃうんだ」

 ビーラは棒読みでもする様な口調でそう言った。

「テメェは俺の大切な人を殺した」

 鍵崎は握り拳を作りながら立ち上がる。

「ふーん。女の子に順位なんて付けてたんだ。ちょっとショック」

 鍵崎は舌打ちする。

「俺は平等に接しているつもりさ。ただ」

「ただ?」

 疑問に感じたビーラは反芻する様に言った。

「俺は桃里の事が好きだ。今も昔も……大好きだ」

 ビーラは冷めたようにため息を吐く。

「桃里ちゃんが聞いてるといいのにね」

 鍵崎はビーラを睨みつける。

「とにかく。お前はこの手で殺す」

 鍵崎は右拳の関節を左手で鳴らす。

 ビーラはそれを鼻で笑う。すると、制服の背中がビリビリと破け、そこから蜂を連想させるような大きい羽根が四枚現われた。平たい胸は急速に大きくなると制服を破いた。最終的にはEカップにまでなり、黒いブラをしている。腰周りも大きくなったのか、制服やスカートを破く。だが、セクシーなくびれのラインがあり、下には黒いビキニを穿き、足は長くなり、上履きは壊れてしまい、裸足でいる。金髪のショートもセミロングになり、瞳は青から緑に、両手の爪は紫色の長爪に変化していた。そして、腰には黄色と黒のコントラストで針が付いている短い尻尾が生えている。

「どう、鍵崎くん好みの女になったでしょ?」

 鍵崎は呆れる様にため息をつく。

「俺はロリも好きだ。けど、そう言う問題じゃねぇ」

 声を荒げながら、ビーラを殴ろうと走り出す。そこに、低音の羽音が複数聞こえる。上空を見渡す。蜂人間が六体、鍵崎を取り囲んでいるのだ。鍵崎は舌打ちをして後ろを振り返る。そこから重たい轟音が聞こえてくる。

 ドッカーン。

 屋上のドアや壁は破壊された。そこから、今まで見た牛人間より一回り大きい体躯を誇った牛人間が大斧を両肩に担いで現われた。その牛人間は白い髭を蓄え、突進に適した二本角を生やしている。

「ここか? にしても若い衆が見当たらないぞ? あいつら迷ったな」

 何事も無く現れた老牛人間に鍵崎は唖然とした。そして、鍵崎は状況確認の為に前を向いた。

 桃里のお腹の上に光の玉が浮いているのである。

「ロ……」

 鍵崎は思わず叫びそうになり、両手で口を塞ぐ。だが、その様子にビーラは気づき、桃里を見る。

「この光って、もしかしてロゴス」

 ビーラは光の玉を手に取る。

「温かいのね。これきっとロゴスよ。だってロゴスは生きている者に宿るって言うし」

 ビーラは鍵崎に背中を見せる。そして、羽音が低音に響くと、ビーラは光の玉を持って体を宙に浮かす。

 鍵崎は悔しそうに叫ぶ。

「逃げんのか。ビーラ・ネルヴァルッ」

 上空を舞いながら彼女は鍵崎の方に向いた。その手には光の玉を大切そうに抱えているのが分かる。

「ビーラはロゴス(せかい)にようがあるの。貴方(にん)(げん)なんか眼中に無いわ」

 勝利を確信し狂喜に満ちた笑い声を上げる。その瞬間だった。

 ピュン。

 ビーラの左手の甲に攻撃が命中し、ロゴスが落下する。

「誤差二、微調整完了。射出」

 さっきの戦闘後の姿のままの琴音が、校舎を垂直に登りながら、空を飛ぶビーラに掌の射出口を向ける。

 弾丸は勢いよく飛び出し、ビーラの左腿に命中する。

「カハァッ」

 苦痛にビーラは顔を歪め、重力に引っ張られるように、校舎の脇に生えている森に落下する。

「ビーラ様」

 蜂人間達は声をあげるもののビーラを助けようと向かっていく。その様子を鍵崎と老牛人間は見ているだけだった。

「いいの? アイツ何か落としたけど」

 ロゴスは今も宙を落下している。鍵崎はその声に押されるように走った。蜂人間達は鍵崎が屋上を走っている事に気づかない。

 ロゴスは屋上の淵に落ちるか、そのまま地面へと落下するかのどちらか分からない状態である。

(もっと早く、もっと早く)

 なんとか全速力で走り、屋上の淵にある柵まで無事辿り着いた。だが、ロゴスは屋上の淵ではなく、地面に落ちようとしている。ロゴスがビーラの許に落ちてしまう事を防ぐ為に鍵崎は柵の下にある隙間に手を突っこむ。ロゴスは鍵崎の両手に包みこまれるように収まっていた。

「フゥー。ロゴスは確保したぜ」

 鍵崎は柵から手を引っ込めて立ち上がり、後ろに振り返った。蜂人間が一体、鍵崎を爪で切り裂こうと襲いかかる。鍵崎は蹴ろうと構える。

 ピュン。

 蜂人間の背中に攻撃が命中し、床に擦れるように鍵崎の前に落下する。それに対して蜂人間の頭にかかとを振り上げる。

「ごめんよッ」

 鍵崎はかかとを頭に振り下ろし、戦闘不能にする。

「バカッ、そんな奴に構ってないで桃里を何とかしてよ」

 左右から襲いかかる蜂人間を琴音は伏せる事でかわしていた。そこに斜め上後方から尻尾が襲いかかる。

「上」

 琴音は矢が放たれたように跳躍する。同時に尻尾の針が床に刺さった。

 尻尾を放った蜂人間が訳の分からなさそうな表情をすると、蜂人間の背後に琴音が両腕を広げながら体を回転させている。

琴音は両手首からブレードを生やし、蜂人間の身体ごと切り裂いて着地する。

 鍵崎はロゴスを持って桃里を見る。

(あの時と同じだな)

 鍵崎はロゴスを桃里のお腹に押し込むように入れた。

「桃里、桃里、聞こえるか?」

 全く反応しない。

(あの時だって、俺がいなくなった後に目覚めたんだ。大丈夫)

 老牛人間は大斧を床に立てながら、胡坐をかいて琴音と蜂人間の戦闘を見ている。

「あのよく舞う娘と戦いたいのう」

 その上、欠伸もする。

「鍵崎、桃里は?」

 蜂人間二体は琴音の前後を長爪による引っかきで攻撃しようとしている。それを琴音は体を逸らす事で回避する。

「分からない」

 鍵崎は正直に答えると、琴音は声を荒げる。

「ハァッ、死んじゃったらアンタも殺すからね」

 琴音の後頭部に蜂人間の蹴りが迫る。琴音はそれをしゃがんで回避しつつ、左手首のブレードで蹴ってきた右足を切断した。そのままの勢いで蜂人間が頭上を通り過ぎたのを確認すると、立ち上がるように右手首のブレードで蜂人間の身体を両断した。

 両断された蜂人間は、柵にぶつかって仰向けに倒れた。

「あの女―ッ」

 蜂人間の一体が悔しそうに言いながら飛んでいる。

「リング・ブレイクで責めましょう」

 悔しそうにする蜂人間の下方に二体の蜂人間が現われる。

 琴音の前後に蜂人間二体が低空に飛んでいる。二体はじょじょに速度を上げながら時計回りを始める。すると、羽音の低音とは違う謎の高音が響く。その瞬間、六体の蜂人間が琴音を取り囲む。蜂人間の飛ぶ速度はじょじょに加速し、やがて線にしか見えなくなった。

 琴音が戸惑っていると頭上に三本の尻尾が襲う。その瞬間、取り囲んでいた蜂人間が一斉に襲いかかる。

 攻撃を決めた蜂人間達が琴音から離れた位置に立つと、胸が裂けて赤い血が噴出する。分身達は一斉に霧散し、蜂人間二対は倒れる。

「そんな……」

 琴音の頭上を飛んでいる蜂人間は唖然としている。琴音は頭上の蜂人間に向かって不敵に笑いかける。

 それを見て気づいた。自分の尻尾が切られてしまい床に突き刺さっている事を。

「おのれーッ」

 蜂人間は激昂して琴音の頭上を襲いかかる。琴音は無視するように歩き出したと思ったら、一回転しながら蜂人間の首を斬り飛ばした。首はどこかに飛んだ。

 鍵崎は桃里を見守るが反応しない。胸にできた傷口を見た。

(紫に変色しているな)

「桃里の調子はどう?」

 琴音が鍵崎と倒れている桃里の許に来る。それに答えるように浮かない表情をする。

「ダメなんだ……」

 助かると信じていた琴音は、落胆するように言った。

鍵崎は琴音の顔を見た後に、桃里を見ると、思いついたように右手で左掌を叩いた。

「琴音ちゃん。桃里を刺してくれ」

 鍵崎は琴音の右手を触りながら勢いよく言った。

「エッ、エーッ」

 琴音は仰天した。そして、慌てふためいた様子で言う。

「ア、アンタ、バカでしょ。な、何、考えているの? と、桃里を、コ、殺す気?」

 鍵崎は「アー」と言いながら頭を抱える。

「琴音ちゃん。さっき、俺は蜂人間の毒の抗体を打った筈だよね?」

琴音は「うん」と頷いた。

「今の桃里はさっきの琴音ちゃんと同じなんだ。そこで琴音ちゃんの抗体を桃里に打って欲しいんだ」

「やったことないし……」

 鍵崎は琴音を見つめて、彼女の両肩を叩く。

「琴音ちゃんにしかできないんだ。頼むよ」

 琴音は鍵崎から目を逸らし、桃里を見る。

「……やってみる」

 倒れている桃里の傍にしゃがみ、左腕を静脈が見えるように動かす。その後、自身の人差し指を見つめる。すると、人差し指はみるみるうちに注射針の様に細くなる。

「桃里……」

 琴音は桃里の静脈に変異した右人差し指を刺した。その間は呻いていたが、しばらくしてから人差し指を抜いた。桃里の腕には傷一つ無い。

「とりあえず、アンタの言う通りにやったよ」

 琴音は自身なさそうに言った。

「そうか、ありがとう」

 二人は桃里が起き上がる事を祈りつつ見守った。

「よくもやってくれたわね。琴音ェェェェェッ」

 聞き覚えのある叫び声が鍵崎達の背後に響いた。二人は背後を見るとそこにビーラはいない。

「ビーラはここよ」

 声の主は老牛人間が破壊した屋上の出入り口の上にある貯水タンクの上に立った。

 それを琴音が指差し、驚愕する。

「び、ビーラ? アレが? いつ整形したの?」

 ビーラは顔を真っ赤にして琴音に怒る。

「失礼ね。これがビーラの真の姿よ」

 ビーラは琴音に胸を誇示しながら言う。

「どこかの残念な体型の人とは違うんですー」

 琴音は自分の胸を持ち上げながら呟くように一言。

「胸なんて戦いには邪魔よ」

 慰めようと鍵崎は琴音の右肩を叩く。

「俺は胸のサイズで女の子を判断しないぜ」

 みんなに見えない角度で琴音は悔しそうにする。

「ところでギュマのボスさん。ビーラと組まない?」

 老牛人間は胡坐をかいたまま寝ていたのか、欠伸をしながら答えた。

「蜂の小娘が何のようじゃ?」

 ビーラは老牛人間の隣に立つ。

「クロフトはビーラ達を捨て駒の様にする気よ。ビーラ、それが許せないの。ビーラと手を組んでコイツ達を倒して。その後、クロフトを潰して世界を一緒に物にしましょうよ」

 老牛人間は大斧を杖にして立ち上がる。

「ワシは世界なぞどうでもいいわ。求めるは血。好きにせい」

「交渉成立ね」

 ビーラは笑顔で老牛人間を見た。その後、クスクス笑う様に鍵崎達を見た。

「これで終わりね。ビーラ達なら瞬殺ね」

「オォイ」

 その声は明らかに低い。

「ワシはこの小娘とサシでやりあいたいんじゃ。邪魔したら命は無いと思え」

 老牛人間はビーラを睨みつけた。ビーラはあまりの迫力に萎縮した。

「緑髪の小娘ェッ。出て来い」

 琴音は前へ出た。すると、老牛人間は大斧を引きずりながら前へ出た。

「見当違いかしら。ジジイだし」

 老牛人間の様子を見てビーラが不安そうに呟いた。

「ワシの名前はギュマ兵団団長グラバ。お前に一対一の決闘を申し込む。名を名乗れ」

 威勢よく言ったグラバに負けないように、琴音は勇ましい表情でグラバを見た。

「宇野琴音」

 グラバは大声で笑いながら。

「遠慮せずに来い。戦いは既に始まっておる」

「言われなくてもねッ」

 琴音は両手首からブレードを生やした状態で、姿勢を低くして素早く走る。

「早いのぅ」

 グラバは大斧をゆっくり持ち上げた。その瞬間、唸り声と同時に目にもとまらぬ速度で琴音の頭を飛ばさんと左に薙ぎ払った。

 それを琴音は頭を屈める事でスレスレだが回避した。その為、髪が数本宙を舞った。気にせず走ると頭上にグラバの大斧が迫る。それをステップで回避し、左回転しながらグラバの左半身に近づき、右手首のブレードでお腹から心臓にかけて斬った。

 グラバは鼻息を鳴らしながら笑った。琴音は驚愕する。

「か、固い……」

「さらば」

 笑いながら左腕を振り上げて、グラバは琴音を殴り飛ばした。

 吹き飛ばされた筈の琴音は屋上の真ん中で片膝を突きながら立っている。

「ホォ、生きとるか。嬉しいのぉ」

「当然でしょ。ワザと受けてあげたんだからね」

 琴音は右手首のブレードをグラバに向ける。

「コッチから行くぞ」

 グラバは大斧を刃に近い位置で持った状態で走り出す。そして、有効範囲ギリギリの所で踏み込み、琴音の胴体を真っ二つにしようと素早く左に薙ぎ払う。琴音はそれをすり足で後方に避ける。だが、グラバはその勢いを殺さず大斧を両手で持ち、左回転しながら琴音に近づき薙ぎ払う。

それを琴音は大斧が近づくギリギリの所で跳躍して避けた。琴音は縦回転しながらグラバの右首筋と左首筋にかかとを鎌の様に振り下ろす。

「エッ?」

 琴音は再び驚愕した。

「ワシはそこらの若い衆より鍛えているんじゃ」

 琴音は両腕を広げ、空中で両足を投げ出すように座っている状態だ。かかとにはかかと落としを決めた時に身体を貫く為の鎌状の刃が生えている。だが、その刃はグラバの首に刺さる事は無かった。

 グラバは琴音の下で、素早く大斧を右に動かす。

「そこで寝とれ」

 グラバは大斧の柄頭と右拳で琴音の腹を叩きのめした。

 床に叩きつけられた琴音は呻いた。その衝撃は床がひび割れてしまう程だ。

「トドメじゃ」

 すかさず、グラバは琴音の腹に大斧を振り下ろす。琴音は体を左に転がす事で攻撃を回避する。

「そこかッ」

 左に向きながら、やっとの思いで立っている琴音に大斧を振り下ろす。それを左回転しながら回避し、次に迫る一撃は右回転しながら回避する。三度目の攻撃を右回転しながら回避すると、琴音は右かかとの鎌をグラバの右腕に突き立てた。

「コンノ筋肉バカァッ」

 ありえない状況に琴音は叫んだ。すると、グラバは豪快に笑う。

「甘いのぅ」

 グラバが振り払うように腕を動かす。琴音は側転しながら回避し、悔しそうな表情で正面に立った。

(考えるのよ。アイツにだって弱点はある筈)

 琴音は思わず鍵崎を見た。見られた鍵崎は不思議そうにする。

(アイツみたいに潜るって技は無いし……最悪)

「降参は無しじゃぞ」

 低いトーンで言うと、走り出す。そして、右足を床に踏み込んだ。

「跳んでみな」

 グラバは琴音に大斧を払い上げた。琴音は挑発に乗らず左に回避しながら突っこむ。それを見たグラバは左拳で琴音の顔面に殴りかかる。

 それを琴音は跳躍し、縦回転しながらグラバの頭上を飛び越える。琴音はうなじに達するとそこをブレードで交差させる様に斬った。続けて縦回転しながら背中を斬りつけ、琴音は両腕を広げながら片膝を突いて着地した。

 琴音は肩越しでグラバの背中を見ながら立ち上がる。だが、傷一つ付いてなかった。

「痒い、痒いわァッ」

 グラバは恐い形相で大斧を両手で持ちながら、力任せに柄頭で琴音の背中を突き飛ばした。

琴音の体は屋上の出入り口の向こう側まで大きく吹き飛ばされた。

「ハッハッハッハ。まだ、くたばっておらんじゃろう?」

 その様子を見た鍵崎は床を叩く。

「琴音ちゃん……俺が戦えれば……」

 ビーラは貯水タンクに座っていた。

「あの娘、終わったわ。ビーラもジジイに正攻法で戦ったら勝算が無いもん」

 グラバは笑う。

 琴音は右手でお腹を押さえながら、屋上に現われた。その呼吸は荒い。

「アタシはこの街最強よ。こんなのでくたばる訳ないじゃない」

 グラバは大斧を左手に持って走り出す。対する琴音も走る。

「どうじゃァッ」

 大斧が右に薙ぎ払われる。琴音は跳躍し縦回転する。そして、体がグラバの顔面に達した時、琴音は体を反時計回りさせながら両腕を広げ、ブレードでそこを斬りつける。

だが、グラバは瞼を閉じたので目は切れず、額や鼻等に傷一つ付かなかった。

ガギン。

左手首のブレードをグラバが噛み付きで止めているのだ。そして、唸り声と共に勢いよく頭を上に向け、噛み付くのをやめる事で琴音を自分の背後に投げ飛ばした。

 琴音は鍵崎達の前に着地する。

「とんだバケモンね」

 グラバはただ笑っていた。だが、笑うのをやめるとその表情は狂気そのものだった。

 琴音はそれに危険を感じたのか両腕を広げて走り出す。遅れてグラバも大斧を構えて走り出した。

 グラバは大斧の間合いに入る前に左へ薙ぎ払った。それに琴音が戸惑う。

(何……頭が湧いたの?)

 グラバの姿が忽然と消えた。琴音の目に複雑な回路の様な光が浮かぶ。

「終わりじゃ」

 鬼の様な形相を浮かべながら大斧を琴音の頭上に振り下ろす。

 琴音はギリギリで攻撃を右に回避して、床を左足で踏み出すように蹴る。そして、グラバの顎に右膝蹴りを決める。

 信じられない事にグラバは大斧から手を離して体を仰け反らす。

 琴音は体を自由落下させながら両手首のブレードで喉元を切ろうとした時だった。

すぐにグラバは体勢を立て直して右手で琴音の体を掴む。

「グォォォォォォリャァァァァァッ」

 グラバは体を右に回転させながら琴音を力任せに放り投げると、琴音の体は屋上外に飛んでいってしまう。

「琴音ェェェェッ」

 それを見た鍵崎は叫んだ。

「グラバ、俺と勝負しろ」

 鍵崎は肩で呼吸しながらグラバに呼びかけた。

「小僧がワシに勝てる訳ないじゃろ」

 グラバは大斧を肩に担ぎながら鍵崎を見た。

「いいから勝負しやがれ」

 鍵崎は戦えるように構えを取る。

 グラバは嘆息する。

「一撃で終わるぞ。それでもいいのならな」

 鍵崎は構えを崩そうとしない。

「……ああ」

「このアホォッ。アタシを勝手に殺すな」

 いない筈の声が聞こえたので、鍵崎は屋上の左柵を見る。

 琴音は縦回転しながら屋上の柵を飛び越えて床に片膝を突いて着地した。

「バカ、バカ、バカ。アンタ少しは考えなさいよ。コイツはアタシじゃないと勝てないんだよ」

「だって……飛んでったし」

 鍵崎は琴音から目を逸らす。

「アンタを殺すまで死なないわよ。てか、死なないし」

 グラバは琴音の方を向き、四股を踏んで床を踏み鳴らした。

「勝負再開じゃ。勝ったら好きなだけ話をすればいい」

「そうね。お爺ちゃんの言う通りね」

 琴音は両手首のブレードを顔に挟むように交差させ、低姿勢に構える。

 大斧が空に放り投げられた。それを見た琴音は全力疾走で走り出す。

(素手……アイツ気づいているのね)

 琴音の体がグラバに近づく。そこにグラバの右手が琴音を掴もうと迫ってくる。

(素手なら大斧より、早く動ける。けど……)

 グラバの右手は琴音を掴んだ。だが、それは残像だった。

「なっ?」

 驚愕するグラバをよそに琴音は床に寝そべっていた。琴音の両手首からブレードは消失し、射出口がグラバの顎に向けられると、そこから弾丸が放たれた。

 弾丸はグラバの顎に二発命中した。

 グラバは再び体を仰け反らせた。すかさず、琴音は飛び起きてグラバに向かって走り出す。

「グゥゥゥッ」

 グラバはすぐに体勢を立て直し、左拳で琴音の顔に殴りかかる。その拳は早かった。だが、琴音はそれをしゃがんで回避し、グラバの顎に向かって跳躍した。

 琴音は右膝でグラバの顎を蹴り飛ばした。

「グアッ」

 琴音は自由落下しながら両手首のブレードを交差させるようにグラバの喉笛を切り裂いた。

 着地した琴音は追い討ちにサマーソルトをする。サマーソルトの蹴りはグラバの顎を蹴り飛ばし、琴音のかかとに付いた鎌は深く喉笛を切った。

 サマーソルトが決まったと同時にグラバの背後に大斧が床に刺さった。

「じゃあね。お爺ちゃん」

 琴音が鍵崎の傍まで歩いていくと、グラバの巨躯がゆっくりとうつ伏せに倒れた。

「あーあ。勝てると思ったのに」

 ビーラが屋上の床に着地する。

「ゆっくり休んでいろ。後は、俺がやる」

 鍵崎が琴音の右脇を通り抜けようとした時、脇腹を殴られてしまう。

「グッ」

 あまりの衝撃に鍵崎はその場に両膝を突いて立った。

「バーカ、アタシの拳に耐えられない奴がアイツに勝てると思う?」

 琴音は後ろを振り返り、前へと歩き出す。だが、ある程度歩くと止まってしまい、肩越しに鍵崎を見てくる。

「アンタ、アメでも何でもいいから食べ物は持ってないの?」

 鍵崎は力無い声で琴音に言う。

「ワリィ。俺、大阪のおばちゃんじゃないから、持ってねぇや」

 琴音は鍵崎を肩越しで見るのをやめた。

「レーションでもあれば楽勝なんだけどね」

 琴音は苦笑した。

 ビーラはクスクス笑う様に琴音を見た。

「いいのぉ二回戦なんて、ビーラ万全なんだけど」

「この状況で戦えるのはアタシだけなんだから」

 琴音はビーラを睨みつけた。

「ここでバッドニュース」

 どこからともなくビーラは茶色い棒状の物を取り出し、誇示した。

「ビーラ。パワーアップしまーす」

 ビーラは胸の谷間から茶色い棒状の物を取り出す。体を横に向けてボディラインを琴音に見せつける。顔を上に向けながら目線は鍵崎に向ける。それを半分かじると上に向くのをやめ、口に含んだ中身を噛み砕く。最後のもう半分も噛み砕いて喉に入れた。

更にビーラは、手の甲が丸い装置が付いた黒い指が抜けるタイプのグローブも胸の谷間から取り出した。

 ビーラは左手のグローブを口であま噛みしながら、右手のグローブをはめ、最後に左手のグローブをはめた。

「これで準備万端」

右手でピースを作りそれを右目に重ねるようにした。まさに余裕綽々である。

「……ちょぅとそそった」

 鍵崎が呟くと、琴音はこんな時に何を考えているのかと憤る。

「バッカじゃないの」

 ビーラは軽く笑う。それを見た琴音はますます憤り、耐え切れなくなった。

「アンタなんて瞬殺よ」

 琴音は低い姿勢でビーラに向かって走り出す。ビーラに近づくと琴音は右手首のブレードを払い上げる。ビーラはそれを難なく回避する。続けて琴音はビーラの懐に踏み込み、左手首のブレードを払い上げる。この攻撃も回避される。更に琴音の連撃は続く。振り上げた両手首のブレードをビーラの体に斬り下ろした。だが、これもビーラは回避する。

「それで終わり?」

 ビーラがそう言うと低空にホバリングしながら仰向けの体勢になる。首は琴音を捉えていた。そこから琴音の顔に蹴りが飛んでくる。琴音は顔を左に傾ける事で回避する。

 ビーラはニヤリと笑うと、琴音の顔に連続で蹴りを放つ。それを琴音は全て顔の動きだけで回避する。

 蹴りに効果がないと見るやビーラは、低空にホバリングしながら琴音から距離を取る。

「さっきのグラバの方が強いし」

 挑発すると、ビーラの尻尾が左胸目がけて飛んできた。それをギリギリの所で回避した。

 ビーラは股を広げ、その間から尻尾を通していた。彼女の微笑が見えた。

 琴音にビーラの尻尾が襲ってきたが、どうにか回避した。その攻撃に隙は無く最小限まで伸びるとすぐに引っ込む。それを皮切りに琴音は連続でビーラの尻尾に襲われる。

 琴音は息を切らした。そこにビーラの尻尾の針が右脇腹に突き刺さった。

「クゥッ」

 呻いたと同時に針が引き抜かれた。そこにビーラが低空で飛びながら体当たりを仕掛ける。

「カハッ」

 再び呻くと。続けて背後から迫るビーラの体当たりをまともに喰らってしまい、つんのめってしまう。

 体勢を立て直した琴音のお腹にビーラの尻尾が巻きつき、首に針が突き付けられているのに気づく。

「どう、空を飛んでみたいと思わない♪」

 喜々とした表情を見た琴音は青ざめてしまう。

 琴音の体は地面にぶつかったと思った途端、急速に空へと浮上した。屋上にいる鍵崎や桃里が小さくなって見える程の高さに達した。

「じゃあね」

 琴音に巻きついていたビーラの尻尾がシュルシュルと音を立てながら巻きつくのをやめる。それは同時に落下を意味した。

「ちょ……」

 琴音は頭から垂直落下した。

「ただ落ちるだけで済むと思う?」

 ビーラは垂直落下する琴音に縦横無尽に攻撃する。その動きに無駄は無く、まるで戦闘機が演習で飛行機雲を利用して文字を書くようだった。

 鍵崎は琴音がビーラにいたぶられる所を見る事しかできず、己の無力さに苛立った。

 琴音は仰向けの体勢で苦悶に耐えながら空中を落下していた。

「もっと楽しそうにしてよー」

 ビーラは琴音の上方に移動し、お腹にかかと落としをお見舞いする。

 琴音の体は勢いよく屋上に落下し、床に穴が開いた。

「マジかよ……」

 鍵崎が落胆していると、ビーラが穴の傍に着地した。

「まだ生きているでしょ。宇野琴音」

 そう言うと琴音が穴から飛び出て着地する。その形相は鬼のようだ。

 琴音が走り出す。

「死ねェェェェェェッ」

 叫びながら、ビーラの顔面を斬りつけるように右手首のブレードを振るった。

「熱いね」

 ビーラは琴音の右拳を右手で掴み、左手で琴音の顔面を掴んでいた。

「もっと熱くしてあげる」

 満面な笑みを見せた。

 ギィィィィィンッ。

 激しい駆動音と共にビーラのグローブから、赤い波動が琴音の全身に放射される。

「キャァァァァァァァァァァッ」

 琴音の顔、肌、制服が黒焦げになっていく。

「琴音ェェェェェェェッ」

 鍵崎は必死で呼びかけた。

 やがて駆動音が止むと、琴音は全身黒焦げで立ち尽くしていた。

「まず一人」

 ビーラは笑いながらそう言うと、琴音をダイバー・クォークが落ちている所まで蹴り飛ばす。


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