第二章「文化祭に向けて」2/2
「どうしてこうなったんでしょうか……」
紅臣市の住宅街にある広い公園。そこにはすべり台、砂場、ジャングルジム、ぶらんこがあるのだが、牛人間の襲撃後は活気が無くなった。そこにチェックシャツを着て、リュックサックを背負った男達や箔麗ではない地味な印象の男子学生が集まっている。皆共通して挙動不審でチラチラと彼等の前に恥ずかしそうに立っている桃里を見てくる。
「舞台は準備した。後は歌うだけだ」
「……無理です」
桃里は俯く。
「本番じゃ、この三倍はいるぞ。腹をくくるんだ」
「あの、アカペラじゃちょっと……」
桃里はベンチに座っている鍵崎のほうを見て、気弱に言った。
「お客さんを待たせるわけにはいけない。我慢してくれ」
例え練習だとしても、ここまで本番と同じに再現して練習している人はいるのだろうかと疑いたくなる。
桃里は息を吸った。そして、口を開いた。
「あなーーったぁっと……」
大きく上ずった声。おかげで、高音だけが響いてしまい何を歌っていたのかわからない。
聞いている者達は次々と互いに目を合わせ、ヒソヒソと話している。それを見た桃里は顔を真っ赤にし、体を縮ませた。
「大丈夫だ。やり直しならいくらでもできる」
「無理です」
理想どおりに歌えない事と集まってくれたお客さんの視線に苦しみながら桃里は答えた。
「いいか。人間熱くなれば、大抵の事はできる。もっと熱くなれぇっ」
鍵崎は旧時代的な根性論を桃里に押し付けてきた。
「できないものはできないと思います」
無駄に熱い鍵崎のテンションに桃里は引いていた。集まっている人々も同じだった。
「今だ!! 歌え」
鍵崎は大きな声を出す。
「ハ、ハイッ」
桃里は思わず歌えるように呼吸をしてしまう。
「貴方と出会ってから もうお別れですね
貴方との思い出を覚えているのが辛い
そう思いながら今日を生きていました――」
桃里は歌ったが抑揚の欠ける高音の棒読み状態だった。
「初めての経験~お別れ白書か」
オタクの一部が桃里の歌が何なのか把握する。
「渋い選曲だ」
「何か萌える」
「ああ、清純派でカラオケとか行った事がない娘でござるな」
「でも、アレはアレだな」
「言ったら負けだ」
観客達は賛否両論だが話しこんでいる。
桃里はこうして歌って恥をかく事も苦痛だし、だからと言って先延ばしにするのも苦痛であった。今のところ鍵崎から中止の合図は無い。こうなったらやけくそだと桃里は思って最後に差し掛かる。
「――君の姿を見ても何も思いません
だけど 覚えています」
歌いきった。棒読み気味だが、とりあえず達成感はあった。鍵崎によって集められた観客達も彼女が歌いきった事に対して拍手を送った。それは歌の本質とはかけ離れているが、そんな無粋な事を言おうとする者は誰一人いなかった。
桃里はへたれ込んでしまう。
「う……歌いきれた……」
鍵崎が腕を差し出す。桃里はその腕を掴み立ち上がる。
「とりあえず、ベンチで休んだ方がいい。俺、ジュース買ってくから」
桃里はベンチに座っている。聞いてくれた人達は続々といなくなっていく。本来なら彼等にお礼を言うのが礼儀であると思っているが、歌いきった時点で疲れていた。
体力には自信があるとは思っていないが、ここまで脆弱だったとは思いもしなかった。
「後、二日ですよね」
桃里は空を見上げた。暗く月が出ていた。それを見ると心が落ち着くようだった。
ボーッとしていた。数分間、数十分間、数時間、とにかく長い時間、秋の夜にまどろんでいた。冷えた空気も揺らめく色づいた葉も彼女には関係なかった。
桃里は自分を音痴だと認識している。だが、コンテストに出る以上は人に聞かせられる様な実力までには持っていきたいと考えている。そして、これが無事に乗り越えられた時、自分の内に秘めがちな主張も言えるのではないかと思う。
「桃里」
誰かに呼ばれた様な気がした。
「桃里」
おぼろげに誰かの声が聞こえてきた。冷たい感触がする。
「ひぇえっ」
桃里は不意打ちに驚いた。
「ハッハッハッハ」
缶コーヒーを持った鍵崎がいた。それを見た桃里はため息をつく。
「鍵崎さんですか」
「酷いな。無視すっから、こうでもしないと気づいてもらえないだろ」
鍵崎が缶コーヒーを差し出したので、桃里はそれを受け取る。
「ありがとうございます」
桃里はプルトップを開けた。そして、缶に口を付けた。
「桃里、後二日、こんな感じでいこうと思うんだ」
真剣な様子で言ったので、桃里は飲むのを止める。
「無理矢理、人を集めるのはやめてください」
鍵崎は頭をポリポリと掻く。
「無理矢理じゃないんだけどな」
「どうやってですか?」
鍵崎は桃里から視線を背け、体を横に向ける。
「敏腕プロデューサーに秘密はつきものさ」
その表情は、やはり笑っていた。
桃里は深く言及しようとはしなかった。たぶん、聞いても答えてくれないからだ。
ベンチから立ち上がる桃里。バッグを持つと非常に軽かった気がした。いや軽い。
「あの、鍵崎さん?」
「ど、どうした」
「ちょっと待ってください」
「あ、ああ」
何故か少し慌てた素振りになっている。
バッグを開ける桃里。中身はとても整理されているが、違和感に気づく。
「タオルがありませんね。いつも入れているのに」
「何で、熱くないのにタオルなんて入れてんだ?」
桃里はバッグの中身を確認する。
「あれ、マーカーペンが五本も無い。青や黄色、オレンジに緑、水色が無い。どうしてですか?」
「……」
「後、お箸がありません」
桃里は酷くショックを受けて、うなだれる。
「一体どうして……」
「もしかしたら、学園アイドルコンテストに参加するのを妬んでいる奴の仕業かもな?」
「だとしたら、一体、誰でしょう?」
桃里は大きく心が傷ついた状態で、鍵崎の後ろをついていくように帰った。
深夜十二時。鍵崎はリビングのソファに座っていた。そこは暗いままである。
真剣な表情で考え事をする鍵崎。
「あれ以前の記憶はまるっきり無いのかねぇ」
あれ、鍵崎の中では忌まわしい出来事である。
「グァァァァァァァァァァァァァッ」
少年が叫んでいると周囲を大きく包むように爆炎が発生する。
残ったのは少年一人と瓦礫に横たわる少女である。
少年は少女を見ると、今にも事切れそうに見えた。少女の上を漂うに光る玉状の物体が見える。
「ハァハァハァ」
鍵崎は呼吸を荒げながら床を見ていた。膝に手を沿えて、力を込めながら上半身を起こす。
この記憶に触れるには、まだ自身には早い事だと悟る。
すると、外からタッタッタッタッタッと颯爽と走る足音が聞こえてくる。なんだろうと思い鍵崎は立ち上がる。
足音の正体が来ないかと、玄関を出て門の前で待ち伏せてみる。
「来い」
鍵崎はまだかと構える。車の走行音で足音がかき消される。その時だった。
人影が玄関を通り過ぎるのが見えたのである。そこから出て、後姿を確認したライムグリーンの髪だった。
「琴音―ッ」
琴音だった。琴音は振り返って顔をコチラに見せたのである。
「何ッ?」
鍵崎と琴音は一緒に夜道を歩いている。
「何の用?」
「あー、暇潰し」
琴音が嘆息する。
「コッチはアンタと違って忙しいのよ」
「パトロールだっけ?」
「そうよ」
「ベックショイ」
鍵崎は勢いよく、くしゃみをする。
「汚っ」
琴音は引いた反応をする。
「しょうがねぇだろ。コッチは軽装だぞ」
鍵崎はパジャマ姿で秋の夜道を歩いているのである。
一方琴音は機能性抜群のアーミージャケットを着用している。
「まぁ、十二℃だしね」
「そりゃ、寒いわけだ」
鍵崎はそう言って体を縮ませながら歩くと、温もりが上半身を包みこむ。
「?」
鍵崎の身体に琴音のアーミージャケットが被せられる。
「琴音……」
琴音は簡素なロンT姿になる。
「勘違いしないでよね。アンタが寒そうにしていると、アタシも寒いと思っちゃうから」
「ありがとう」
素直にお礼を言うと琴音が顔を赤らめる。
「言っとくけど、アタシも聞きたいことがあるし」
「そうかー。俺と二人きりになりたかったのか。なら、いつでも空いているのに」
嬉しそうに言うと、琴音からチョップを貰う。
「イッテーな。無言でチョップは反則だぞ」
「そんなルールは聞いてない」
琴音がそう言うと二人は歩き出す。
「俺に聞きたいことって?」
「アンタが桃里のお風呂を覗いた時に使おうとしたアレ。何?」
「コスプレだぜ」
鍵崎は人差し指と親指で顎を触り、琴音から見て斜めの方に向いた。
「嘘だ。あんなコスプレが存在するか」
「でも、ここにあるし」
「とぼけたって無駄よ。アンタが変身した姿は牛人間がこの街を襲ってきた時も写っているんだからね」
鍵崎は焦った。ダイバー・クォークは政府に知られるのはマズイ代物だからだ。
「アレで何をしてたの?」
「桃里を守っていたんだ」
優しく琴音に言うと、彼女は鍵崎を恫喝するように言う。
「どうして、アンタが?」
「桃里の幼馴染だからだ」
鍵崎は琴音に臆さず、強く言い切った。
「アンタ、桃里の幼馴染だって言うけど、本人は覚えてないじゃん」
痛いところを突かれた鍵崎は「ウッ」と呻きそうになる。
「……桃里は昔の記憶を失っているんだ」
琴音は酷く動揺した。
「そんなの聞いてないわよ。あの娘『鍵崎さんは昔の幼馴染みたいなんですけど、あまり覚えてないんですよね』って言ってただけだし」
琴音は過去の発言を引用した。鍵崎は琴音を信じる。
「……俺は東陽グループの秘密部隊に訓練を受けた。だから、桃里の護衛として最近ここに来たんだ」
鍵崎は真面目な様相で琴音に嘘をついた。
「そ、そうなんだ。でも超能力の反応があったわ」
「それは東陽のトップシークレットだ。政府の一部の人間しか知らない」
「あ、そ、そう」
琴音はぐうの音が出ないようだった。
我ながら良くやったと鍵崎は思った。
「俺は桃里を守る為に志願したんだ」
嘘をついているがこの桃里に対する想いは本物である。
「琴音。頼みがある」
「何?」
「桃里を俺と一緒に守ってくれ」
鍵崎は琴音の顔を見つめる。
「……無理。気持ちは分かるけど無理」
「どうしてだ?」
興奮した鍵崎は琴音の両肩をガシガシと揺らす。
琴音は肩を掴んでいる鍵崎の腕を振り払う。
「学校にはまだいられるけど、放課後はキツイの」
彼女の言う事はもっともだと思い、鍵崎は嘆息する。
「どうしても駄目なのか」
「少なくとも牛人間が襲ってこなければ、街が警戒態勢にならずに済んだんだけど」
琴音が俯き気味で申し訳なさそうに言う。
「そうか、じゃあ俺一人で桃里を守るように頑張るよ」
「ごめんね。力になれなくて、できるだけの事はするから」
琴音がしおらしく言う。
「琴音……桃里には優しいんだな」
「まぁね。親友だもん」
「百合じゃないよな」
鍵崎が茶化すように言う。
「百合? 花がどうしたの?」
琴音がキョトンとする。
「あー、何でもない」
話をはぐらかしたら、琴音が突然立ち止まってしまう。
「な、なんだ?」
鍵崎も立ち止まり軽く動揺する。
「さっさと帰れば、一時よ」
「おう、そうか」
鍵崎は琴音をジッと見る。
「な、何よ。アタシの顔に何か付いてるの?」
「サヨナラのキスは無いのか?」
「バカーッ」
琴音が鍵崎の頭にチョップをする。
「イテーッ」
頭を気にしている間に、琴音がスタスタと鍵崎から離れる様に歩く。
「オ、オイ。ジャケット」
「アンタに着られた時点で、汚れたから着たくない」
琴音は鍵崎を見ず、捨て台詞のように吐いた。そして、鍵崎の視界から完全に姿を消してしまう。
「さて、帰るとしますか」
鍵崎は桃里の家に帰ろうと歩き出した。
それから文化祭前日。前々日の練習の時は集まった人数は少なく、公園にいた人を相手に歌を練習した。結果的には逃げられてしまったと言う悲しい結果になっている。桃里はそうなるのは仕方ない音痴だからと割り切っていた。
「なぁ、ハンカチ貸してくれよ」
「いいですよ」
桃里はポケットからハンカチを取り出し、鍵崎に渡す。
「悪いな」
鍵崎はそう言うと教室から出て行った。
「ねぇ、アイツ、ハンカチなんて使うキャラだっけ?」
そのやりとりに琴音が訝る。
「いいんじゃないでしょうか。ハンカチを貸すくらい」
「まぁね。ハンカチなんて拭く位に用途ないし」
この日の昼休み。桃里はいつもお弁当を食べているが飲み物は購買の紙パックのジュースを買っていた。そして、飲み終えた。
「桃里、琴音。それ、捨ててやるよ」
鍵崎が立った状態で話しかける。
「あっ、すいません」
桃里は軽く会釈する。
「アタシは飲んでるよーだ」
琴音は紙パックを鍵崎から隠すようにする。
桃里は紙パックを鍵崎に渡す。
「じゃあ、行ってくる」
そう言って鍵崎はゴミ箱へ向かった。
「今日、一緒に帰らない?」
「いいですけど、寄り道しますよ」
「寄り道?」
不思議そうにする琴音。
「はい、歌の練習です」
「なるほどね」
合点のいった琴音は今から楽しみと言いたそうだ。
「――だけど、覚えています」
桃里はしっとりとこの歌詞を歌い切った。
時計は6時を指し示していた。琴音が盛大に拍手をする。それにつられるようにまばらだが拍手が起きた。桃里は今日も公園で人を集めて歌った。お客さんも琴音以外に何人か増えたようだ。
前の方で聞いていた鍵崎が立ち上がり、桃里の隣に立つ。
「本日はこれで終了です。ありがとうございました」
鍵崎がお辞儀をする。僅かに遅れて桃里もお辞儀をした。
お客達が去り始めると、琴音が桃里に駆け寄る。
「桃里。良かったよー」
琴音は笑顔だった。桃里は苦笑する。
「あれじゃダメですよ。まだまだ歌ってレベルじゃありません」
「そうかなー。アタシは嫌いじゃないけど」
桃里は安心したのかため息を付く。
「どうしたの?」
琴音が心配そうに尋ねてくる。
「大丈夫ですよ。歌うと何故だか疲れるんです。きっと、全身全霊だからでしょうね」
桃里は琴音を安心させようと笑顔で言った。
「……あの……」
二人から見て別の方向から小さな声で話しかけられる。声のした方向に男がいた。
「なんですか?」
桃里が優しく尋ねる。
「パンツをください」
「パ、パンツゥ?」
桃里は今にも倒れそうだった。
「ア、アンタ、何、言っちゃってるの」
琴音が啖呵を切る様に言う。
「エッ、くれないんですか?」
怪しい挙動をしながら男は意外そうな表情をする。
「女の子が安々と下着を、見ず知らずのヤローに渡す訳無いでしょ」
琴音が怒りの形相で言う。
「エェー。どうして、あんなに色々放出してるのに……」
桃里はどう言う事なのか我が耳を疑った。
「ああーお兄さん。ちょっと、裏まで来てくれませんか?」
すると、鍵崎が男の背後に現われる。
「あっ、鍵崎さん」
「僕に付いていって下さい」
鍵崎は笑顔でそう言うと、男を連れて消え去る。
桃里は安堵のため息をする。
「いったい、何だったんでしょうか」
「追いかけたほうがいいんじゃない?」
琴音が慌てたた様子で言う。
「そうですね」
桃里は自身の事なのに遠い出来事の様に言う。
二人は鍵崎を探し出した。どうやら、さっきの男と話しているようだ。
「コイツで手を打ってくれないか」
鍵崎は桃里には聞こえないが、琴音には聞こえる音量で言った。それを琴音はアフレコする。
「何をくれるんだ?」
鍵崎は鞄の中からハンカチを取り出す。
「あっ」
桃里は思わず叫びそうになった。
「どうしたの?」
「鍵崎さんの持っているハンカチ。あれ、私のです」
琴音は目を凝らす。
「本当だ。アレ、前に見た事ある」
いても立ってもいられない琴音が飛び出そうとする。
「待ってください」
桃里は琴音を制止させる。
「もう少し様子を見て見ましょう」
そう桃里が言うと鍵崎が鞄の中から紙パックを取り出す。どこか見覚えがあるものだった。
「これ、桃里が飲んでいたジュースの紙パック」
琴音が鍵崎の台詞をアフレコした直後、ドン引きする。
「……」
あまりの衝撃に桃里は硬直した。
すぐさま二人は鬼の形相で鍵崎の許に歩く。
「鍵崎さん」
「鍵崎」
鍵崎は恐れおののき、少年は耐えられなくなったのか逃げ出してしまう。桃里は少年の事はどうでも良くなった。どちらかと言えば全ての黒幕であろう鍵崎に事の顛末を全て話してもらった方がいいと判断した。
「これは、全て桃里の為なんだ」
しどろもどろに鍵崎は言う。
「どういうことでしょうか? 是非、お話をお聞かせください」
桃里は毅然とした態度で言った。
「学園アイドルなんだから、笑顔でなくちゃダメじゃないか」
鍵崎はしどろもどろに言う。
「アイドルの前に、私は一人の人間です」
鍵崎の断末魔が夜の公園に響いた。
歌の練習の際に鍵崎はどうやってお客を集めたかと言うと、まず学校にある可愛い娘の秘蔵写真を撮っている写真部で桃里の写真をインターネットで掲載させた。厳密には勝手に『学園アイドルコンテスト事前発表会』と言うサイトを立ち上げた。
そこで、集まった桃里のファンにオフ会を使って、実際に桃里本人とファン達も会わせてしまおうと企んだ。しかも、参加率を上げる為に桃里の私物を放出と打ってある。
これも鍵崎と写真部の行動力の良さに加え、参加者の反応の良さの賜物である。
今まで桃里の私物を集めていたのは鍵崎である。今回、それがばれなかったら鍵崎は集まったお客に桃里の私物を放出していただろうが、本人の手によって差し止められた。
お風呂から上がったばかりの桃里は暗いキッチンに入り、すぐに照明を点けた。
「あっ」
戸棚からスナック菓子を持ち出そうとしている鍵崎の姿があったので桃里は驚いた。
「わ、わりい出来心だ。反省してるって、マジ、叔母さんに話すのは勘弁してください」
桃里は嘆息する。鍵崎は桃里の私物放出への制裁として、本人と琴音によるお説教二時間と叔母さんに告げ口しない代わりに食事抜きを受けていた。
「もういいです」
「ゆ、許してくれるのか」
鍵崎は小動物にでもなったのか、全身を揺らしている。
「多分、反省してないですよね」
「している。しているとも」
桃里は半信半疑になる。それを鍵崎は感じたようだ。
「じゃあ、お詫びに約束をしよう。桃里の叶えたい願いを一つだけ叶えるってのはどうだ」
「叶えたい……願いですか?」
「ああそうだ」
鍵崎は得意げに言ってみせた。
「じゃあ、『私の前から二度と姿を見せないでください』でもいいんですか?」
「お……おうよ。い、いいのか? きっと後悔するぜ」
あからさまに鍵崎はうろたえていた。
「冗談です。もっと有効的に使わせていただきます。あてにはしませんけど」
桃里がキッチンから出ようとしたら鍵崎が話しかけてきた。
「明日は気を抜いていけよ」
桃里は黙ってキッチンを出ると、自室に戻って明日に備えて寝た。




