プロローグ
プロローグ
たった一瞬前までは、一流ホテルだったのに、今では見る影も無い瓦礫だらけだ。
灼熱の陽光が、まるで罪人を燃やそうとするかのように少年の背中に降り注ぐ。
少年は陽光を気にする気力も無く、立ち尽くすのみである。
「嘘だろ……」
少年は力ない声を出しながら、瓦礫に両膝を着けた。
「う……う」
今にも命が尽きかけそうな女の人の呻き声が聞こえる。
少年は立ち上がった。今にも折れそうな心に一つの希望が現われた。
重い足取りで少年は歩いた。
その先には、瓦礫に横たわっている血まみれの少女の姿があった。
特筆すべき点は、少女のお腹の上に淡く輝く、手の平大の光の玉が浮いている事だ。
少女は今にも事切れそうに見えた。
直感が働いた。この光の玉を彼女のお腹に戻せば、きっと目覚めるのではないかと。
少年は光の玉に触れた。ほんわかと温かく、何故か絶望に打ちひしがれていた心が救われるような気がした。
光の玉を少女のお腹の中に入れた。それは造作の無い事だった。
少年は祈る様な気持ちで、少女を見た。だが、何も反応が無い。少女の頬に一滴がかかる。
「起きてくれ……起きろよ」
少年は再び、瓦礫の上に両膝を着き、天を仰いだ。
「ウワァァァァァァァァ」
今、その叫びは誰にも届かなかった。
突然、悪魔の囁きが少年の耳元に聞こえた。
「もう、お前の選択肢は二つだけだ」