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第9話 『高機能端末<SCウォッチ>』

「今回の鬼は……松川!」


「やったー!」


 松川が立ち上がった。喜びのあまり、両手を挙げていた。空気を察知したのか、すぐに座りこんだ。小島が咳払いをし、本題に戻す。


「じゃあ松川、さがしびとモードのボタンを押してくれ」


「はいはーい! ポチッとな」


 ○かくれびと(子)の参加を待っています…… 0人


 松川のSCウォッチには、待機画面が開かれている。


「で、他の奴らはかくれびとモードを押す」


 全員がSCウォッチに集中していた。みんな手首を、自分の見やすい位置まで挙げていた。


 ●さがしびと(親)に参加しています……

 ○かくれびと(子)の参加を待っています…… 6人


「全員揃ったところで、ゲーム開始ボタンを押してくれ」


 松川がゲーム開始ボタンを押す。すると、全員のSCウォッチ画面には時間が表示された。

 

 ●残り時間00:00:00 

 ○残り時間の設定をしてください。


「それで、今回は何分にするんだ? 山崎」


「そうだな……1人10分くらいだと考えると、1時間程度でいいか」


「わかった。松川、一番左の“00”の部分を“01”に変えてくれ。変え終わったら、完了ボタンを押してくれ」


「わかったー!」


 松川が“01”に設定し、完了ボタンを押した。すると、全員のSCウォッチの画面も切り替わった。


 ●隠れ終わったら、完了ボタンを押してください。

 ○かくれびとが隠れ終わるまで、しばらくお待ちください…… 0人


「この状態でセット完了だ。みんなが隠れ終わったら、完了ボタンを押すんだ。全員隠れた状態になると、全員の画面でアラーム音が鳴る。そしたら松川、画面が切り替わるからゲーム開始のボタンを押すんだ」


「わかったよー! じゃあみんな、隠れて隠れてー!」


「初めての部活で、緊張するな!」 躑躅森が出ていく。

「お前の大きい体だと、隠れる場所は限られるんじゃないのか?」 姫路が出ていく。

「碧さん、今回も見つからないように頑張りますわ」 西宮が出ていく。

「松川、今回が初めてだけど容赦はしないぞ」 神宮が出ていく。


 全員がそれぞれ出ていったあと、山崎が一言伝えた。


「みんなやる気が充分にあるから、しっかり探さないと見つからないぞ」


「大丈夫だよ! 何せ、1時間もあるんだからね」


 山崎がその言葉を聴いて、少し笑っていた。山崎が部室を出ていくと、松川は一人になった。


「うーん、やっぱり一人でいると寂しいなー」


 独り言を呟いた。そして、ロッカーの前に足を運び、自分が先週持ってきた物を出す。ライトノベルだった。普段、教室でこういう物を読んでいると、「意外」と言われてしまう。でもこれは、実は自分の物ではないのだ。兄が貸してくれた、最近流行りのライトノベルらしい。勇者が伝説の短剣を持ち、魔王を倒すために冒険をする物語だ。主人公が、自分と同じ高校生ということで、少々ハマって読んでいる。


「こういう小説みたいな冒険してみたいなー」


 一人で部室にいるから、こういうことを呟いてもツッコミを入れてくれる人はいない。寂しさを感じていながらも、仕方ないと割り切って、ライトノベルを読み進めていった。


 だが、かくれんぼの様子が気になる松川は、自分のSCウォッチを覗いた。


 ○かくれびとが隠れ終わるまで、しばらくお待ちください…… 4人


「もう4人も隠れ終わったのかー。誰がまだ隠れてないんだろう?」


 みんながどんな感じに隠れているのか、前回のことを思い出そうとした。その時蘇ってきた記憶は、水の音。“あの”記憶が、鮮明に思い出された。松川の顔が赤くなった。そのことは忘れようと、必死になっていたが、脳裏にしっかり焼き付いていたのだった。顔の赤みをほぐすために、うねうねと顔をマッサージしていたら、大きな音がした。


「いひっ!」


 驚きのあまり、声が出てしまったが、何の音かはすぐにわかった。


 ○全員が隠れ終わりました。開始ボタンを押してください。


 SCウォッチには、そう表示されていた。読みかけのライトノベルをロッカーにしまい、扉の前に立った。


「よーし! それじゃあ始めるよー!」


 開始ボタンを押し、制限時間が動き出す。 00:59:59

 胸の高鳴りを抑えながら、部室を出ていった。


 まず始めに向かったのが、物理室。前回、姫路が隠れていた部屋だ。物理室の前に立つと、早速反応があった。


 ○半径10メートル以内に、かくれびとの反応あり! 1人


「ここに一人いるのかな?」


 ガチャリ。扉を開けると、部屋は暗かった。大きな机に実験器具がたくさん入った棚。大きな黒板には、見慣れない数式が並んでいた。


「物理室に入るの、初めてかも……」


 机の下を一つひとつ、丁寧に調べた。だけど、誰もいなかった。


「あれ、ここにはいないのかなあ……」


 物理室を出ていく時に、隣の部屋に繋がる扉を見つけた。物理準備室に続いている扉だ。


「こっちに誰かいるのかな?」


 扉を開け、確認する。棚、机、椅子。どれもただ置いてあるだけの物だ。一つ気になったのは、奥にある何か大きなものに掛かっている布。松川は近づき、布をめくった。誰もいない。あるのは大きな実験器具だった。


「あっれー? どこにいるんだろう」


 物理室を出ていって、もう一度確認した。


 ○半径10メートル以内に、かくれびとの反応あり! 1人


「半径10メートル……ってことは上の階もありえるってことかな?」


 今回は2階と3階が隠れられる範囲となっている。当然、3階に隠れている場合もある。物理室を出るとすぐ近くには階段があった。1階と3階へ繋がっている。


「よし、上の階へ行ってみよう」 


 3階、1年生はほどんど利用することのないフロアだ。4階は更に使うことがない。初めて上る階段に少し緊張していた。階段を上った先、物理室の丁度上の位置にあるのは、軽音楽部の部室だった。ギターやベース、ドラムにスタンドマイク、スピーカーまであり、充実していた。


「ここに隠れるスペースとかあるのかな……」


 舞台の上には、いつでもライブが出来るような状態でスタンドマイクと楽器がセットされていた。だが、松川はそれよりも気になることを見つけた。ドラムの上に置いてあるスティックが、一本だけ落ちていたのだ。「そんな不自然なこと、あるわけないよね」と思い、舞台をよく調べた。すると、舞台の上の、不自然な位置に小さな扉があった。中にきっと、誰かがいるぞと思い、扉を開けた。すると……


「あら、見つかってしまいましたか」


 中には西宮がいた。人が一人入れるだけのスペースに潜んでいたのだ。西宮を引っ張り出し、少し話をした。


「こんなところに隠れられるスペースってあったんだ?」


「いいえ、これは昨日頼み込んで作ってもらったんですよ」


「軽音部の部室によく作れたね」


「ああ、この舞台ごと、私が用意したのですよ」


「えぇ!? 舞台丸ごと、これ作ったの!?」


「はい、うちの執事達が昨日徹夜で……この舞台に乗ってる楽器は、うちで用意したものですよ」


 恐るべき財産力。そして、発想力。松川は口を開けて、この事実を見渡していた。すると、西宮が何やらSCウォッチを眺めていた。


「どうしたの?」


「『見つかった場合は、このボタンを押してください』って表示されてるんですよ」


 ●00:51:12

  見つかった場合は、このボタンを押してください。


「ほんとだ、押してみてよ」


 ピッ。西宮のSCウォッチの表示が変わった。


 ●赤外線通信中

  さがしびとの赤外線を向けてください。


「え、これ赤外線まで付いてるの?」


 松川は自分のSCウォッチを観察した。モード選択する時に使ったボタンと反対側に、黒いマークがあった。


「あ、これかー」


 松川のSCウォッチと西宮のSCウォッチをお互いに向けた。すると、両方の画面に共通して、表示された。


 ●見つかった! 残りかくれびと…… 5人

 ○見つけた! 残りかくれびと…… 5人


「なるほどねー。赤外線で合わせると、見つけたことになるのね。これはこれは……小島君すごいなー!」


 関心していたが、まだ見つけたのは一人だけだ。西宮に肩を叩かれ、こう言われた。


「頑張って! あと5人見つけ出してくださいね」


「わかってるよ! さあ、残りの隠れ人、待ってろー!」


 声を張り上げ、軽音楽部の部室を後にした。

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