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第7話 『磁石で言う、S極のお方』

 放課後。部員が一人増えたことを西宮に報告しようと席を立った。6人になったら西宮から追加でお金を頂戴しなければ、例の装置が作れないと思ったからだ。西宮の方を見ると、知らない女子生徒が西宮と話をしていた。


「西宮、ちょっと話いいか?」


 西宮はこちらに気付き、喋っていた女子生徒も同じくこちらを向いた。西宮とは違い、髪の短い女子だった。そしてその子がムッとした表情を浮かべた。それが気になったので、話題を少し変えた。


「こちらの生徒さんは?」


 次に飛んできたのは女子生徒の口から出た言葉だった。西宮が答える前に。


「私は一応このクラスの学級委員だったのだが、お前は知らないとでも? 山崎慎一よ」

 

「え? 学級委員?」


 人の名前を覚えない病がこんな所でも発動していたらしい。学級委員の名前くらい覚えているだろう、と思っていた西宮も流石に驚いていた。


「こ、こちらは学級委員を務めている神宮(じんぐう)未佳(みか)さんですよ」


「名前くらい覚えておけ。もう5月も終わりそうだというのに何故覚えていないのだ」


「す、すみません……」


 圧倒されていた。女子と会話する経験が少なかった山崎だが、部活を作ったことによって少し慣れたと思っていた。が、こんなに物を言う女子は初めてだったので、少し怖気づいてしまったのだ。だが、本題を思い出しすぐに話を切り替えした。


「それで西宮、部活の件なんだが、部員が一人増えそうなんだよ」


「部活!? 西宮、お前部活に入っていたのか!?」


 何やら神宮さんが驚いていた。西宮がすぐに答えた。


「先週から入っているんですが、かくれんぼをする部活でして……」


「かくれんぼ!? 何だそれは!?」


 神宮は少し焦っていた。理由はわからないが、西宮が部活に入っていることに関して何か不満でもあったのだろうか。


「西宮が部活に入っていたら、何かまずいことでもあるのか?」


「私がさっき、西宮と話をしていたのは他でもない。私が作ろうとしている、『イタズラ研究会』への参加を頼んでいたところなんだ」


「イ、イタズラ? 学級委員なのにイタズラを楽しもうとしていたの?」


「そうだ、悪いか?」


 そう、この学校の部活は基本的に自由だった。この人もきっと、そんな自由な部活に憧れていたのだろう。


「で、部員は集まったのか?」


「私ひとりだけだ。同じクラスの連中に話を振っても、陸上だの漫画研究部だの鉄道研究だので誰も参加してくれなかったのだ。だから暇そうな西宮や松川にも話をしてみたのだが」


「先にかくれんぼする部活に入っていたと?」


「私の言葉の先を言うんじゃない!」


「す、すみません……」


 西宮は席に座ったまま、立ち話で盛り上がっている山崎と神宮の話を聴いていた。そのまま静かに手を挙げて、山崎の注意を引いた。


「で、山崎君は何の要件だったのですか?」


「ああ、そうだった。部員が一人増えるから、小島に追加でお金を渡しておきたくて。頼めるか?」


 そこに神宮が割り込んできた。


「二人だ。二人部員が増える」


「二人? あと一人誰か入りたい人でもいるのか?」


「私だ」


 なんと、神宮が部員になりたいと言い出した。


「神宮さん、イタズラ研究会はいいの?」


 疑問を抱き、そのまま直球で投げる。自分が作りたいと言っていた部活を、すぐに投げた神宮への言葉のボールだ。


「別にいい。部活に入りたかっただけだったのでな。それにイタズラなんて日常的に出来るものだしな。部活にしなくてもいい」


「そっか、じゃあ小島に追加で渡してもらえる?」


「わかりましたわ」


 俺はすぐに小島を呼んで、二人が追加されることを話した。小島はぼそっと「今日は徹夜になるな……」と言っていたが、すぐに帰って行った。


「神宮さん、これからよろしく」


 そう言って握手を求めようとしたが、「よろしく」と言っただけで、握手はしなかった。そこに何の前触れもなく、松川がやってきた。


「おー未佳ー。どうしたのー?」


「今、松川達の部活に参加することにした」


「未佳が入るんだー! (遂に未佳も友達が欲しくなったか……)」


 松川がゴモゴモと何かを言っていたが、山崎は聞き取れなかった。教室の中を確認すると、姫路が待っていた。待たせて悪かったと姫路に合図し、女子達に別れを告げた。


「じゃあ、また明日~」


「じゃあね~」「さようなら」「じゃあな」


 帰り道。姫路は少し嬉しそうだった。


「山崎、部活に女子が増えて俺は嬉しいよ」 


「そもそも、お前が言いだしたことだったっけ」


 そういえば、と山崎は思い出していた。姫路が最初に、彼女作りたいという理由で部活を作ろうと言っていたことを。


「んで、彼女にしたい子は居るのか?」


 そう姫路に訊いてみたが、返答は意外な物だった。


「部活に初めに入ってた2人は、彼女にできないかもな」


「どうしてそう思う?」


「よく考えてみろよ。松川さんは能天気で元気な感じの子だろ? 可愛いけど、恋愛に興味無さそうな感じだ。西宮さんはお金持ち過ぎてついていけないよ」


「じゃあ狙いは神宮さんなのか?」


「少し狙ってるな」


 山崎は今日神宮さんと話していた時のことを振り返った。口調は荒く、自分に対して冷たい態度を取っていたような気がしていた。


「神宮さんはきっとSだな。最初にイタズラ研究部を作りたいとか言ってたし」


「え……」 


 姫路が引いた。少し考え、考えがまとまり、言い放った。


「このクラスで恋愛をするのは、無理かもしれない」


 割り切った答えだった。それを言った後の姫路の目は何処か遠くを見ていたような気がした。それをフォローしようと思ったのか、山崎は部活の話を持ち込んだ。


「そ、そういえば小島が、部活に使う時の新しい機械を作ってくるそうだ」


「へぇー。どんな機械?」


「こう……腕にはめれる小さい端末みたいな物」


「……それ、物凄い技術なんじゃないのか?」


 言われてみて初めて気づいたかもしれない。そんな機械を高校生が、一晩で作っていたことに何も関心を持っていなかった。


「そうだ……な。やっぱうちのクラスってすごいやつ多いのかな」


「お前も大概だけどな」


 そんな会話をしながら駅へ向かった。その後も、何の変哲もない普通の会話をして、別れ言葉に「じゃあな」と言って家に帰った。


 家に帰ると、携帯電話にメールが入っていたのに気づいた。またしても小島からだった。


 件名:メールアドレス

 本文:躑躅森智樹と神宮未佳のメールアドレスを登録しておくように。

    本人たちの許可は取ってある。


 2つ、メールアドレスが添付されていた。ここで、一つ気になっていたことを小島に返信してみた。


 本文:そういえば、今朝の装置に名前とかあるの?


 すぐさま返信が帰ってきた。


 本文:名前はまだない。考えてくれると助かる。


 名前か……と、山崎は考えた。学園カメレオンの名付け親も自分だったが、他人が作った装置の名前も付けるとは。30秒ほど考えて、いい案が出た。


 本文:『カメレオンアイズ』とかどう?


 自分なりにいいアイディアだと思ったのだが、返事はこうだった。


 本文:また部活の時に考えよう。

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