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第5話 『西宮の本気』

「名前は……って俺か!」


 部活動最初の鬼は山崎だった。


「あー山崎君が鬼かー」


 松川が少し残念そうにしていた。


「じゃあみんな、時間になったら各自で隠れに行ってくれ。2階だけだからな。あと怪我だけはしないように。無茶な所に隠れたりしたら駄目だぞ」


「あいよ」「わかった」「はーい」「わかりました」


 時計の針が9時30分を指した。それと同時に姫路が声を挙げた。


「よし、みんな行こうぜ!」


 みんなの顔は笑っていた。それを見守っていた山崎は、嬉しさと同時に感動も覚えた。自分が提案した部活が、ようやく始まろうとしていることに。


 松川が元気よく飛び出して行った後、小島と西宮が出ていき、最後に姫路が出ていこうとした。姫路が扉に手をかけ、少し振りかえって、山崎に伝えた。


「頑張って見つけろよな!」


「任せとけ!」


 全員が隠れにいった。鬼はその間この部屋から出ることができないため、暇を潰さなければならない。山崎はホワイトボードへ向かった。そして、2階の教室の位置の確認を始めた。


 ここ潮凪学園は少し特徴的な形をした校舎となっている。1階から4階まであり、教室は全部で50近くある。そして一番の特徴は、校舎が四角状になっており、2階は全てつながっているのだ。2,3,4階に1組の教室から13組の教室まであり、順に1年生、2年生、3年生のものとなっている。2階には物理室や物理準備室、職員室もあり、空き教室も3つほどある。


 そんな中、山崎が目を付けているのは、やはり物理室だ。数ある教室の中、物理室は物が多いし、若干広い。物理室は1組と全く反対側にあるが、一番初めに調べておくべき場所だと考えた。

 

「まあ、ここには誰か一人くらいいるだろうな……」


 職員室は休みの日は生徒入室禁止のためパス。残るは13組まである教室だ。順に探していこう。


 そう考えている間に10分が経過しようとしていた。時計の針が9時40分を指したところで、扉を開けた。そして第一声。声を出した。


「学園のカメレオン達よ! 今、見つけ出しに行くぞ!!」


 誰もいない廊下を走り、まず向かった先は物理室だった。1組から9組を途中で通ったが、お構い無しに走っていった。物理室の部屋を開けると暗かった。カーテンが閉め切ってあり、電気を付ける場所に紙が貼ってあった。


『ただいま故障中』


「これは探すのに苦労しそうだな」


 だけど、昼間なのでいくらカーテンが閉めてあっても、若干明かりが漏れていた。大きな机がたくさん配置してあり、実験器具の入った棚や可動式の黒板が目に映る。


「実はここ、そんなに入ったことないんだよなー」


 机の下に誰かいないか、全部の机を探った。棚の中も全て開け、残るは隣の準備室だけになった。


「こっちにいるかな」


 準備室を開けると、微かに物音がしたのに気付いた。


「やっぱり誰かいるな」


 準備室は物理室の半分ほどの広さしかないが、たくさんの物が置いてあった。棚、机を調べ、最後に怪しげな布が掛かった場所の前に立った。


「ここか!」


 勢いよく布を取ると、そこには姫路がいた。


「いやー見つかったかー」


 姫路はわかりやすい場所にいた。ありきたりの単純なこの場所に。


「お前が最初に見つかったぞ。考えが甘いな姫路」


「マジか! ここを最初に探すとはセンスあるな、お前」


「いや、逆だ逆。お前がセンス無いんだよ」


 笑いながらそんな会話をしていた。物理室を出てから姫路が言った。


「見つかったもんは仕方ねえな。じゃあ部室で戻って待ってるわ」


「じゃあな」


 姫路が歩いていった方向とは逆に、山崎は歩いて行った。次に向かったのは10~13組の教室だ。教室は比較的物が少なく、少し中に入って見渡すだけで全て確認することができる。だが、調べた4教室には誰もいなかった。ついでに、空き教室も調べたが誰もいなかった。


「ここも違うか……」


 既に10分経過しており、若干焦りを感じ始めた。

 

「姫路だけじゃねえか簡単に見つかったの!」


 口に出してみてわかったのだが、よく考えたら姫路が部員の中で一番平凡なキャラだったということに気が付いた。


「そりゃそうだよな……よし、探そう」


 会議室。物理室の隣にあり、よく生徒会の会議を開く場所に使われている。中は広く、長机がたくさんある。そんな中、一つ目に留まる物を見つけた。


「掃除用具のロッカーの中に誰かいそうだな」


 ロッカーに近づいて行くと、中から長い髪の毛が少し出ているのがわかった。女子の髪の毛だろう。多分、松川でも隠れているのだろうと思い、開けた。


 なんと、中には箒の先にぶら下がっているカツラがあった。


「なん……だと……」


 驚いた。そして、騙された。


「カツラまで仕込んで……どれだけ気合入ってんだよみんな!」


 少し嬉しかった。小道具まで用意して、かくれんぼを楽しんでくれているんだなと。しかし、そう言ってる場合では無かった。終了の時間が迫っている。


「残り半分か……よし、9組の方に行くとするか」


 隣の9組、8組と、探し終わったが、誰かがいる気配すらなかった。


「おかしいな……どこにいるんだみんな……?」


 7組の前には男子トイレがある。用を足すついでにここも探してみようと思った。中に入り、用を足し、手を洗い、閉まっている個室を開いた。1つ目、2つ目、3つ目、4つ目、流石にいないと思っている掃除用具も開けてみた。そこには松川がいた。


「………………」


「コ、コンニチハ……」


 用を足していたことが走馬灯のように思い出され、一番初めに出た言葉は


「こ、ここは男子トイレだろ!!」


 山崎は焦っていた。用を足していた音は聞かれていただろうし、姿も見られていたかもしれない。何より、松川の顔が赤いのも気になる。どうしようもなかった。これに関しては探すのを先にすべきだった。一瞬の沈黙の後、松川が掃除用具から出てきた。


「わ、私先に部室行ってるね!」


 松川も焦っていた。すぐに男子トイレを飛び出し、部室の方へ走って行った。


「な、なんでこんなことに……」


 山崎もびっくりしていた。女子が男子トイレの中にいると考えていなかったためだ。少し落ち込んで、男子トイレを後にした。トイレの前にはペットボトルを入れておく大きなゴミ箱が置いてある。その中からクスクスと笑う声が聴こえていた。蓋を開けると、小さく丸まっている小島がいた。


「お前……今の話聴いていたのか……?」


「もちろん、笑っていたのもそのためだ」


「ぐ、ぐぬぬ……」


「じゃあ俺も部室に戻るとするかな。見つかってしまったわけだし」


 小島はニヤつきながら、部室に戻って行った。


「あとは西宮だけか……」


 残るはあと10分。7組から2組まで全て見渡した。全く違和感がなく、ここにはいないと悟った。 そして、残ったのは1組だけだ。これだけ探しているのだから、1組じゃないとおかしい。そう思ったのだ。


 扉を開けると、若干空気が違ったように感じた。西宮がここにいると感じたのだが、見る限りどこにも居ない。生徒全ての机の下も、教卓の下も、掃除用具入れも探した。だが、西宮の姿はなかった。

 

「おかしいな……西宮はどこにいるんだ?」


 遂に10時10分を時計が指した。と同時に物音がした。西宮が出てきた。探したはずの教卓の下から。


「私の勝ちですね!」


 驚愕した。教卓の下は探したはずなのに、何故か出てきたからだ。


「お、お前……どうやって隠れていたんだ? そこは探したはずなんだけど、いなかったぞ……?」


「ああ、教卓の下の床の中にいたんですよ」


「ゆ、床!?」


「昨日、家に帰った後、お父様に頼んで教室を改造したんですよ」 


「改造!?」


「で、ここに人が一人入れるスペースを作ったのです」


「そりゃ見つからないわけだ!」

 

 西宮だけ考えが違った。よく見ると確かに教卓の下だけ床の色が違っていた。

 

「それにしてもよくここまで本気で……というか、許可下りたのか?」


「校長に電話してOKもらったので大丈夫ですよ」


 西宮のお金持ちっぷりが物凄いことを、今日は2度も知らされた。


 部室に戻ると、姫路と小島は2人でゲームをしていた。松川は本を読んでいて、すぐにこちらに気付いた。


「あ、おかえりー。さくら見つかったの?」


「私は最後まで見つかりませんでしたよ。時間になって出てきたら、ちょうど山崎君が探している途中でしてね」


 松川はケロっとしていた。山崎との例の事件に関しては既に何も気にしていない様子だった。山崎自身も、そんな松川の姿を見たら気にしなくなった。


「どうだったみんな? 今日が初めての部活だったけども……」


 松川が勢いよく手を挙げた。


「はいはーい! 楽しかったよー!」


「私も面白かったです。またやりましょうね」


 姫路も一緒に頷いていた。小島は腕を組んで考え事をしていた。


「どうした小島? 何か不満だったことでもあったか?」


「いや、不満ではないんだが、少し考え事をしていただけだ。気にしなくていい」


「そうか……」


 話を切り替えるように、声を挙げた。


「じゃあ、今日の部活動はここまで! 解散としよう!」


 5月中旬。初めての部活動は順調に終わったのだった。

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