第4話 『学園カメレオン活動初日』
家に帰ると小島からメールが来ていた。
本文:松川と西宮から伝言だ。
メールアドレスを電話帳に登録しておくように。とのことだ。
松川と西宮のメールアドレスが一緒に添付されていた。思えば、山崎は女子のメールアドレスなるものを初めて貰った事に気が付いた。こんな形ではあるが、もし姫路だったら大喜びしていたことだろう。だが部活のことで頭がいっぱいの山崎は、そんなことを考えてもいなかった。
寝る直前にあることを思い出していた。
「明日持っていく物を伝えておかなきゃいけないな」
山崎は部活のメンバー全員にメールを一斉送信した。
件名:明日の確認事項
本文:明日は9時、学校に集合。
各自、何か暇のつぶせるようなものを持ってきてください。
部室においておけるような物があればそれもお願いします。
それと、腕時計をしてきてください。理由は明日話します。
「これでよし。今日はさっさと寝ようかな」
――翌日。
来る土曜日。学園カメレオン初の部活動が始まることになる。ある意味歴史的快挙になるのだろうか。
部長である山崎は部室の掃除をするために8時に学校に着くように家を出た。そして予定通り、学校に着いた時間は8時だった。だが、既に部室は電気が付いていた。人がいる。誰だろうか? 部室の扉を開けると、驚いた顔をした人がいた。
「あ、おはよう松川」
「あれ? 9時集合じゃなかったっけ?」
「いや、初めての部活の前に掃除でもしておこうかなーっとね。そういう松川だって、なんでこんな早い時間にいるんだ?」
山崎も当然疑問に思っていたことだ。
「私はたまたま早くに起きちゃって、家で待ってるのも暇だから来ただけだよ」
「そっか。せっかくだし掃除手伝ってよ」
半ば強引であると思ったが、松川は了承した。山崎は部室にあるロッカーを開けて、箒を2本取り出して、渡した。部室は狭いので一人でも充分なのだが、気まずくなるだろうと考慮したので掃除を誘った。
「わかったよ。じゃあ私、廊下の掃除でもしようかな!」
松川は若干の気まずさを感じたのか、部室から出ていった。
部室は別に汚れてはいなかった。自分たちの教室の隣にあるため、使われていなくても1組の掃除区域になっていた。長机が2つ、学校の机が1つ。パイプイスが6つ。小さなロッカーが4つ。窓が1つ。窓からは中庭が見える。というだけの、こじんまりとしている部室である。一応ホワイトボードもあり、小さな会議では使われそうな部屋になっていた。
「今日からはうちの部活の部屋だ。よろしくな」
そう呟いた後、丁寧に掃除を始めた。床を掃き、ロッカーの上の埃を取り、窓を拭いて。熱心に掃除をしているとあっという間に50分も経過していた。途中から松川も一緒に手伝っていたが、結局あまり話をしなかったような気がする。いや、話をしたのかもしれないが、記憶に残らないような普通の会話だったのだろう。
「よし、掃除はここまでにするか!」
「さんせーい。大分綺麗になったねー」
掃除を終えると姫路と小島が入ってきた。
「おーっす姫路、小島ー」
「おはよー姫路君、小島君」
「はいおはよう。なんだ、二人は早く来たのか?」
「掃除しようと思ってね。8時から学校来てたんだよ」
「気合入ってるな!」
「おうよ! 自分が立ち上げた部活なんだし、部長だからな!」
そんな会話をしていると西宮が入ってきた。少し大きな荷物を持っていた。
「おはようございます、みなさん」
「おはよーさくらー。ところで……その荷物何?」
松川が訊いた。確かに西宮の持ち物は、気になるくらいの大きさの荷物となっていた。
「これは、昨日暇つぶし出来るように。とのことで持ってきた物ですよ?」
ロッカーの上に置いた鞄は、金属独特の鈍い音を響かせた。中に入っているのは、何か機械のようなものだとわかった。
「入ってきていいですよー」
西宮がそう言うと、2人のスーツ姿の男が何か大きなものを持って入ってきた。テレビだった。テレビを運び終わるとそそくさと出ていった。
「「え? えええええええ!?」」
山崎だけではない。当然みんなも驚いた。テレビは学校用の机の上に置かれた。そして、西宮の鞄の中から出てきた。ゲーム機が。小島が口を開いた。
「これ、最新のゲームじゃないか……! つい最近出たばっかりで結構高いやつだぞ」
山崎も続いて声に出す。
「に、西宮? 一体なんでこんな物を……?」
「え、暇つぶしと言ったらゲームじゃないんですか?」
「いや、そりゃそうだけどさ……? 学校に置いておいて大丈夫なのか?」
「大丈夫です。さっき校長先生に電話して訊いておきましたから」
ツッコミどころはそこではなかった。
「いや、ゲームとテレビをこの部室に置いておくことについてだよ」
「それについては構いませんよ。家には自分のがありますので。これは昨日のメールの後、買ってきたばっかりの物なので置いておいても問題はないです」
またしてもツッコミどころが違った。
「いやいや、お金のことだよ! これだけ揃えるのに軽く10万円くらい使っちゃうんじゃないの……?」
「ああ、お金の心配でしたか。別に構いませんわ。私のお小遣いから出したので問題ないんですの」
「お小遣い!? 10万円ぽんと出せるほどのお小遣い!?」
一番驚いていた松川が言葉にしていた。
「さくらってそんなにお金持ちだったの……?」
松川は予想していなかった。お金持ちという話は前々から聞いていたものの、これほどまでのお金持ちだということを。
「まあこれは暇つぶしのための物ですよ。ところで山崎君。なんで暇つぶしの物が必要だったのですか?」
「そうだな。それも含めて今から話をしようかな。とりあえず、みんな席に座って」
みんなが席に着いた。
「よし、じゃあ始めに。この部活はかくれんぼをするための部活だ。ただ、かくれんぼと言っても学校が舞台なのだから規模が大きい。そこで、隠れるための時間を多めに取ろうと思っている。これは……10分くらいにしようかな。その間、鬼はこの部室で待機していてもらうことになる。で、鬼は暇だと思うから、暇つぶしの物を用意しておくように。としたんだよ」
「なるほどな」
姫路が呟いた。松川も口を開けてなるほどーと言っていたような気がした。
「鬼が探す時間も制限しようと思っている。そうだな……こっちは30分くらいがいいかな? あんまり長くても、あんまり短くてもいけないだろうし」
小島が手を挙げた。
「学校全体を30分で探すのは無理だろう」
山崎が言った時間だと、学校全体を探すのは確かに無理な話だ。
「今回は初めてということもあって、このフロア2階だけにしようと思っている。次からはかくれんぼの設定も色々変えていこうと思うから、今回だけな」
「わかった。それなら妥当な時間だ」
ホワイトボードに時間を書き出した。
「今は9時20分だから、隠れる時間は9時30分から40分の間。鬼はその間ここで待機してもらって、10時10分まで捜索の時間とする。じゃあ早速、鬼を決めようか!」
「どうやって決める? じゃんけん?」
松川がワクワクした表情で訊いてきた。山崎も当然ワクワクしている。山崎が鞄から取り出したのは5本の割り箸と、穴のあいた筒のようなものだ。
「割り箸に各自名前を書いて、この筒の中に入れる。で、よく混ぜて一本取り出す。その人を鬼にしよう」
「これなら公平ですね」
西宮が賛成してくれた。みんなに割り箸を渡し、名前を書いてもらったあと、筒の中へ入れた。
「じゃあ混ぜるぞー」
ジャラジャラジャラジャラ・・・・・・
「よし、一本引くぞー!」
みんなが注目していた。山崎は一本だけ掴み、引いた!
「名前は……!」