第3話 『部活申請用紙とスマホ』
昼休みが終わり、授業が淡々と進んでいく。山崎はこの時、授業のことをあまり考えていなかった。考えていたのは西宮が部活に入ってくれるのかどうか。松川は比較的自由な人間で、
「放課後、部活どうするかを本人に直接言わせます!」
と言い放った。西宮は入ってくれるのかどうか。山崎は心配していたが、松川の機嫌が良いのできっと了承してくれたのだろう、と思っていた。
――そして放課後。
「それでは発表してもらいましょう!」
松川が膝立ちした状態で、西宮に向かって手をひらひらさせている。そして西宮が口を開いた。
「今まで部活動に入ったことは無いのですが、碧さんのために入ることにします」
「本当か! ありがとうな!」
山崎が喜びのあまり、西宮の手を掴んでしまった。すごく微妙な空気が、山崎・姫路・松川・小島・西宮に流れる。
「ごめん……」
山崎は少し戸惑ったが、手を離し、話を切り替えた。
「それで、部活の内容を詳しく決めたいと思うんだ。まだ日程や活動内容などをしっかりと決めてなかったからな」
「はい! 意見があります部長!」
「はい、松川君!」
コントのようにサラサラと流れていく会話に、少し面白みを感じた。
「土曜日に活動しましょう! 部活で学校に来てる人がいたとしても、校舎に入ってくる人は少ないと思います」
「じゃあ日程は決まりだ。毎週土曜日にしよう」
ここで小島が手を挙げた。
「かくれんぼと言っても、どんな感じでやるんだ?」
この質問は予想が出来ていた。これに関しては授業中に少し考えがあった。
「2階の全教室を使ってかくれんぼをしよう。流石に3階や4階は使いづらいと思うしな。あと、時間制限だ。鬼が探せる時間も決めて遊ぶことにしよう」
我ながらいいアイディアが浮かんでいた。小学生がやるようなかくれんぼはきっと休み時間の10分程度だろう。高校生がやるものはもっと範囲と時間をしっかりと決めれば、それなりに面白くなるだろう。
「部室はどうするんだ? いい場所空いているのか?」
姫路が質問をする。これについてもある程度の考えがあった。
「俺ら1組の教室の隣が空いていたはずだ。それにあそこは防音設備が何故か付いているからな。そこがいいだろう」
「防音設備? 必要なのかそれ」
姫路が更に食いついてくる。確かに、防音設備なんてのは気にするものじゃないと思う。
「隠れる側にも時間は必要だと思う。もちろん隠れる側同士の打ち合わせもするだろう。で、鬼が待機している間に話を聞かれてしまったら困るよな。そういうことだ」
「そ、そうか……」
姫路は少々戸惑いながら理解をした。そこで松川が元気よく手を挙げた。
「早速、部活の申請しようよ!」
申請用紙を取り出し、ペンを用意した。俺はペンを借り、申請に必要な事を書きすすめていった。
「部活名は既に決まっているんだ。『学園カメレオン』……と」
学園カメレオン……と、部活名の欄に書いた。文字に起こしたのは初めてだったが、中々響きがいいと思った。
「部活内容は……かくれんぼをしながら友達と遊びます……と。あとは部員の名前だな。一人ずつ書いていってくれ」
部長の欄に山崎慎一と書いた後、姫路に渡した。姫路から松川へ、松川から西宮へと渡り、西宮が小島へ渡し、全員の名前が書き終わる。
「……よし。これで担任に提出してくるわ。じゃあ部長として行ってまいります!」
「「いってらっしゃーい」」
職員室は1組の教室を出て突き当たった場所にある。意外と近いのだ。職員室に入り、スマホをいじっている自分の担任を発見した。近づいても気づかなかったので、声をかけた。
「先生!」
山崎が少し声を張る。先生が気づきスマホをポケットにしまった。
「おお、山崎か。何か用事か?」
「部活の申請をしようと思って……これ、部活の申請用紙です」
「部活の申請か! 山崎は4月からずっと部活に入っていなかったもんな。で、具体的にはどんな部活なんだ……?」
担任が、部活の申請用紙に目を通した。
そして、流石の担任でも「かくれんぼ」の文字を見て唖然とした。
「か、かくれんぼか……まあうちの学校は部活には制限は無いがな……教師になって初めての部活かもしれないなぁ……」
少し笑っていた。だが山崎は真剣に作ろうとしている。その熱意はしっかりと伝わったようで、部活の申請用紙に判子を押した。
「じゃあ校長に出しておくから、明日から活動していいぞ」
「はい! ありがとうございます!」
「それじゃ、もうこんな時間だから早く下校するようになー」
「わかりました」
職員室から出る。
「失礼しましたー」
教室に戻ると、姫路だけが残っていた。
「あれ、他の連中は?」
「先に帰ったよ。習い事があるだの、ゲームがしたいだの言ってたよ」
「あいつらも自由だなー」
「それで、部活の申請は通ったのか?」
姫路は少し不安がっていた。きっとかくれんぼをする部活に対しての不安だったのだろう。
「大丈夫、ちゃんと通ったよ。早速明日から部活やろうぜ!」
意気揚々と提案したが、何か忘れていることがあったような気がした。それは、姫路によってすぐに解決した。
「今日金曜日なんだが、土曜日は明日だぞ? 先に帰った連中に何の説明も無しで大丈夫なのか?」
そうだ。部長として部員に連絡をしていない。しかも活動が明日なのに連絡手段が無かった。姫路以外のメールアドレスも電話番号も知らなかったのだ。
「どどどどうしようか!!」
山崎は焦った。そこに突如、山崎の携帯電話にメールが入った。
「な、なんだこんな忙しい時に!」
携帯を開いた。件名は「で、どうするのか」だった。
本文:部活の申請が通ったとして、明日活動するのか?
早い返信を期待する。 小島
小島からメールが来ていた。……何故だ? メールアドレスは教えていないはずなのに、何故わかったのだろうか。
「なあ姫路、メールアドレスってのは検索したら出るのか?」
「そんなもん出るわけないだろ」
「ですよねー……怖い! なんか怖いよ!」
普段からパソコンをいじっている小島にとっては、こんなことは朝飯前だった。周りの人間の携帯電話の個人情報くらい持ち込む、なんて事は。
「まあいいや。返信しておこうっと」
本文:明日から活動するから、松川と西宮にもメールしておいて。
学校に9時集合なー
「これでよし……っと。じゃあ姫路、俺らも帰るか」
姫路はまたも驚いていた。小島のハッキング能力に対してなのか、俺の切り替えし能力に対してなのかはわからないが。
「お、おう……帰ろうか」
帰り道。いつもと少し違う道を歩いていた。学校は都市部にあるにも関わらず、自然も多かった。学校の少し離れた場所に湖があるのだが、そこを通るたびに毎回思うことがある。
「なあ姫路。あの湖の真ん中に建っている城みたいな物は、何かのテーマパークなのか?」
「いや、知らないな……」
この地域には謎が多いと思ったが、この謎はいつの日にか解かれることとなるだろう。