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第21話 『部活対抗リレー!!』

 学園カメレオンチームの第一走者は、円町京子だ。円町は、トラック上に立つ時に、全神経を集中させていた。タイムを計った時以上の集中力で、スタートラインに立っていた。しかし、この小柄な女子高校生を見た人が、話しかけてきた。


「智樹と同じチームの子か? よろしく頼むよ子猫ちゃん」


 挑発的だった。陸上部の先輩で、2年生の学年色の体操服を着ていた。しかし、円町は耳を傾けようともしない。スタートラインの上に立っている円町には、聴こえていないようだった。すると、その様子を見た陸上部の先輩がまたちょっかいを掛ける。


「無視すんなよ、ちっちゃい子」


 円町の冷酷な言葉が、陸上部の先輩に刺さる。


「静かにしろ。その口元縫い合わすぞ」


 普段の円町からは考えられない言葉が飛び出した。実際、円町本人も、ここまで言うつもりは無かったのだが、集中しているのに対して腹を立ててしまったらしい。陸上部の先輩は、それ以降言葉を出さなかった。


 そして、体育祭実行委員の一人が、ピストルを空に向けた。リレー実況の声が響き渡る。


『位置に着いて!! よーい……』


 “バンッ!!”


 ピストルの音が響き渡った。それと同時に走り出したのは、陸上部と円町。普段走り慣れている陸上部と、集中していた円町は、ピストルの音とほぼ同時に走り出していた。しかし、陸上部の先輩は、一気に差を付けられた。円町は全速力で走った。それは、練習の時に見せた走りよりも、速かった。陸上部を抜かしつつ走っている円町に、大きな歓声が湧きあがった。


「うおおおおお!」「なんだあれ、はやいぞ!!」「はえええええ!!」

「陸上部が抜かされてる!!」「よく見たらあれ、女子じゃないのか!?」


 円町の走りは、今、学校一の注目を浴びていた。陸上部と1秒以上差を付けて、バトンをパスしたのは、第二走者の姫路諒平。平均より、やや秀でているという微妙な立ち位置だったが、バトンの受け取り方は完璧だった。姫路の走り出しを追い抜かすように円町がバトンをパスする。そして、姫路の助走は最高速度に達していた。


 他の2チームは、決して追いつくことのないくらい差が付けられていた。陸上部はまだ諦めていない。追い抜こうと必死に姫路に向かって走り続けた。しかし姫路は、陸上部に追い抜かされることなく、松川にパスをした。


 松川が全力で走る。学園カメレオンチームが女子を二人も入れていることに関して、観客が騒いでいたが、松川が走りだした途端、またも歓声が上がった。


 しかし、松川の少し後ろを走っているのは、陸上部の中で3番目に足が速い選手だった。松川が追い抜かれるか、そのまま逃げ切れるか、というデッドヒートを繰り広げている時、最終走者の躑躅森と、陸上部の部長が話をしていた。


「智樹、お前と俺、どちらが速いか。ここで決めてやるぞ」


「望むところです先輩、今日のために調整してきた絶好調の俺を見せつけてやりますから!」


「良い返答だ、智樹!!」


 最終走者にバトンが渡る3メートル手前で、陸上部に抜かされた。陸上部の先輩が、躑躅森よりもほんの少しだけ、速く走り始めた。松川が躑躅森にバトンを渡す。瞬間、躑躅森は本気を出した。


 大きな一歩を、大きく踏みしめるように、一歩一歩が良く見える。しかし、その一歩を振り出す速さは、人間の限界とも言えるほどの最高速度だった。まるで、恐竜の力強さとチーターのしなやかな足さばき、それらが同時に備わっているかのような躑躅森の脚が、全力で前へと進んだ。


 陸上部の先輩に追いつき、両者一歩も譲らない速さで、ゴールラインまで走った。ゴールラインのテープを切ったのは、判別がつかない程ほぼ同時だった。陸上部の先輩が、走り切った直後に声を上げた。


「どっちが速かった!? 俺か、智樹か!?」


 そこで突然、実況が入る。


『みなさんお気づきかもしれませんが、最後に走った両チームが、今回の部活対抗リレーでの最速記録となっております。しかし、どちらもタイマーは同じ記録を指しており、判別が付きません。なので、今のリレーの結果は、ビデオ判定で行います』


 会場全体がざわついた。


「え? ビデオとか回してたのか」「この学校やっぱすげーな」「どっちが勝ったか気になるよ」


 これには、躑躅森も驚いていた。初めての体育祭で、ビデオ判定があるなんて、一体どこまで本気で学校行事を回しているんだろう、という驚きだった。陸上部の部長も、躑躅森に近づいて話しかけてきた。


「3度目の体育祭だけど、ここまで白熱したリレーは初めてだったよ。ビデオ判定も、今回が初めての試みじゃないかな」


 陸上部の部長は、少しだけ諦めた表情を取っていた。躑躅森よりも早くスタートしたのに、同着でゴールラインを切った。ということは、実際に躑躅森の方が速かったということだ。それに対して、部長は諦めていたのだ。


 実況が再び入る。


『えー。ただいまの結果、ゴールテープを先に切ったのは……』


 緊張が、会場全体を包み込む。全員が静まり返った。そして、マイクを通した声が、校庭全体に響き渡った。


『学園カメレオンチームです!!』


 歓声が一気に盛り上がった。毎年優勝していた陸上部の連覇記録が、初めて破られたのだった。陸上部の部長が、躑躅森に握手を求めてきた。


「優勝おめでとう! 躑躅森智樹、学園カメレオンチーム!!」


「ありがとうございます!」


 握手はとても熱いものだった。握りしめた両者の拳に、力が入る。躑躅森が勝ち、部長が負けた。しかし、部長はこのことに関して、誇りを感じていた。この後輩が、きっと今の陸上部のトップに立つのだろう。そう考えていた部長の目には、少しだけ涙が映っていたが、躑躅森は気が付かなかった。


 躑躅森が1組の待機場所へ帰ると、歓迎を含めた声が、大いに盛り上がっていた。


「おめでとう躑躅森君!」「やっぱお前、すげー速いな!!」「今度サインくれよ!」


 走り切った躑躅森に、安心感が戻った。今日まで練習してきた成果が、やっと実ったのだった。しかし、盛り上がっていたのは、躑躅森の走りだけではなかった。


「円町さん! すっごく速かったよ!!」「あんなに速かったなんて、びっくりしちゃったよ!」

「円町って、勉強も出来てスポーツも出来て、一体何者!?」


 円町も、同様に注目されていた。しかし、円町のエネルギーは完全に消費されており、あまり返事が出来ていなかった。山崎が、円町と躑躅森に話しかける。


「お前達、すげえ速かったぞ! 感動した!!」


 山崎が人に対して本気で感動したのは、これが初めてだったかもしれない。二人の肩を叩いて、思いっきり笑っていた。


 体育祭の閉会式が終わり、着替えを済まし、自分たちの教室へと戻る。そして担任が教室に入るや否や、話を始めた。


「今回の体育祭で、一番盛り上がったのは、やっぱり部活対抗リレーだったな! 躑躅森以外にも、こんなに速く走れる奴がいるなんて、俺は思っていなかったよ」

 

 担任は円町の方を見る。


「円町は特に驚きだったな。成績も良いし、運動能力も抜群に高い」


 そう言ってほめていたが、円町は疲れ切って机に突っ伏していた。あまり人目に晒されずに生活してきた円町が、堂々と全校生徒の前で、一番目立つ形で走りぬいたことが、大きな原因だったのだろう。そして、話題を切り替える。


「今年の体育祭は大いに盛り上がった。来年にも期待してるぞ!」


 掃除を済ませるようにと全員に伝え、号令が終わると、担任が山崎呼んだ。


「山崎、部長のお前に賞金が出るから、職員室まで来てくれ」 


「はい」


 職員室まで連れて行かれると、待っていてくれと担任の机の前で言われた。そして、言われたとおりに待っていると、校長先生が現れた。山崎は校長先生から直々に、言葉をもらった。


「山崎慎一君だね。まずは優勝おめでとう」


「ありがとうございます!」


 山崎は深く頭を下げた。頭を上げ、校長先生の言葉が続く。


「部活対抗リレーでは毎年、優勝賞金を出している。部費として、何でも一つ物を買っていいことになってる。好きな物を買いたまえ。ただし、部活に関係のあるものだよ」


「わかりました」


 校長先生と初めて会話した山崎は、この人は良いおじさんだな、と心の中で思った。そして、山崎は一つ質問をした。自分が付けている腕時計を見せて、こう言った。


「この腕時計を作る資金が欲しいのですが、それでもよろしいですか?」


 校長先生が興味津々に、腕時計を見る。もちろん、山崎が付けている腕時計は『SCウォッチ』だ。


「ほほう! これは部活で作ったものなんですか! なんと素晴らしい出来なんでしょう……いいでしょう。今回の優勝賞金、その腕時計の製作費に当てると良い」


「ありがとうございます!!」


 頭を下げて、山崎は職員室を後にした。このことを、部活のメンバー、特に円町に伝えないと。と思い、教室へ急いで戻る。


 教室のドアを開けると、姫路だけが残っていた。山崎は、この事態を姫路に訊く。


「あれ? みんなは……」


「うん。すぐに帰っていったよ」


 山崎は拍子抜けした。

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