第2話 『物分かりの早い者たち』
「『学園カメレオン』か……カメレオンってのは、体の色が変化する爬虫類だっけ?」
「かくれんぼを代表する生き物と言えばカメレオンだと思ったからな!」
「そうか……山崎がそう言うなら、部活名はそれで決まりだな」
姫路はすぐに話を切り替えた。
「そういえば、部活の申請に必要な人数は最低でも5人だったと思うが……」
……山崎の時間が止まる。
「それに、かくれんぼするにも2人では面白くないだろう」
それはそうだ。実は何も考えていなかった山崎に不安が訪れた。
「……何も考えてなかった……人数どうしよう」
それでも姫路は冷静だった。
「じゃあまず、うちのクラスの暇そうな奴らに声かけてみるか」
「よし、誰から声をかけようか。部活に入ってる奴らは考えから外そう」
そんなことを姫路と話していると……
「ねぇねぇ。何の話で盛り上がってるの?」
前に座っている席の人に話掛けられた。松川碧。入学式の時に少し喋ったが、それ以降あまり会話をしていなかった。山崎が知っている松川は、授業が終わるとすぐにカバンを持ち、学校を出ていく。そんなイメージがあったのだ。
「青春を謳歌するための部活を立ち上げようと思ってな」
端的。
「へぇー部活かー! どんな部活を立ち上げるの?」
「かくれんぼする」
「え?」
「かくれんぼをする部活」
普通の人ならここでこう答えるかもしれない。「かくれんぼ? 意味分かんないよ」あるいはこうだ。「え……何それ怖い……」更にはこうだ。「そんな部活で大丈夫か?」だが、彼女の答えは違った。
「かくれんぼかー! 私もやってみたいからその部活入るよー」
――そう。この潮凪学園の『1組』と呼ばれる生徒達は何かおかしなところがある。入学式当日。クラスのみんなの自己紹介の時から山崎は気付いていたのだ。「趣味は筋肉のトレーニングです」「中学の時はサド子って呼ばれてました」「未来人、宇宙人、超能力者、そんな者には興味ありません」「俺のことを愛してくれる人募集中!」「今日はヘリコプターで来ました」「カタツムリの殻集めとか楽しいですよね!」このクラス。何かがおかしい……と山崎は初日に感じていた。だが、山崎もその『おかしい』集団の一人なわけである。
「山崎です。趣味も特技も興味があることもありません。人の名前とか覚えるの苦手です。よろしくお願いします」
山崎の『おかしい』所は物事に興味を持たなさすぎなところである。
「よし。じゃあ部員3人目は松川で決まりだな」
猛スピードで話が進んでいることに姫路は唖然としていた。
「松川……本当に入るのか? か、かくれんぼする部活だぞ?」
「えーだめなの? かくれんぼしてみたいじゃん! 楽しそうだよー」
「そうだぞ姫路。興味がある奴が入ってきたんだ。それでいいじゃないか」
「まあ……山崎が言うならいいんだけどさ」
「えへへ。山崎君、姫路君、よろしくー」
あと2人、部員を探そう。
「姫路、他に帰宅部の暇そうな奴っているのか?」
「そうだな……俺もクラスの奴ら全員のこと知ってるわけじゃないからな……」
山崎はともかく、姫路も知らないこととなるとどうしようもなかった。松川がそこに加わる。
「私、帰宅部の子、1人知ってる人いるよー?」
「本当か? 誰なんだ?」
「西宮さん。あの子はいつも私と一緒に帰ってるよ」
西宮さくら。お金持ちらしく入学式初日、ヘリコプターでやってきた。それ以降はヘリコプターで来ることはなかったが、リムジンに乗ってくる姿が度々目撃される。性格は物静かな感じだが、あまり喋ったことがないのでよくわからない。
「松川はともかく、西宮さんはかくれんぼするような人なのか?」
姫路が疑問に思った。『お嬢様』が『庶民』の遊びであるかくれんぼをするのか。という疑問だ。
「そんなー! ひどい偏見を持っているようだけど、私の友達だよ?」
「何の根拠もないじゃないか!」
姫路がツッコミを入れた。それはそうだ。松川の友達だからと言って、かくれんぼが好きなわけではない。
「じゃああとで説得してみるよ!」
――キーンコーンカーンコーン
丁度いいところでチャイムが鳴る。朝のSTが始まる時間だ。
ガラガラ……
「みんな、席につけー。じゃあ出席とるぞー」
――昼休み
松川が西宮と弁当を食べている。松川が一方的に話しかけているように見えるが、きっと勧誘をしているのだろう。そして姫路と山崎は弁当を食べながら部活について話を進めた。
「西宮が仮に部活に入るとして、あと一人だが誰かいるかな?」
「暇そうな奴か……」
周りを見ても見た目でわかるほど暇そうな奴なんているわけ……
「一人いた。あそこの席に座ってる奴」
姫路は出席番号の若い方を指差した。そこにはパソコンを熱心に操作している少年がいた。
「いや、忙しそうだろ」
「パソコンを使ってるのは忙しそうに見えるが、昼休みだぞ? 弁当もすぐに済ましてパソコンを触っているということは……暇なんじゃないか?」
「ひどい偏見だ!」
「いや、それでも周りの奴らよりは暇そうだろ。あいつもすぐに家に帰ってそうだし。それに当てもないんだから、話しかけてみるのがいいだろう」
俺たちは弁当を食べ終え、そいつの所へ向かった。正直、メガネをかけてパソコンに集中しているような人とはあまりお友達になったことはない。勇気を持って話しかけてみた。
「あのさ、ちょっと話、いいかな?」
「ん? 何の用?」
思っていたほど高い声に少し驚く。
「突然なんだけど、帰宅部かな?」
姫路が驚いたような顔をしている。まるで、「そんな直接的に訊くのかよ!」とツッコミを入れようとしている顔だ。
「帰宅部だけど、何か?」
姫路の予想通り、帰宅部だった。
「部活作ろうと思うんだけど、人数足りなくてさ。入らない?」
「どんな部活か説明してくれ」
「かくれんぼするんだよ」
「わかった。活動はいつから?」
姫路がこの流れに対して、割り込んでくる。
「なんでこのクラスの人たちは何も疑問を持たずに部活に入ろうとするかなあ!?」
「いや……別にいいじゃん?」
「俺が部活に誘われて、乗っただけだぞ?」
俺とメガネの少年は同意見だった。と、ここで自分を振りかえった。そういえば名前を訊いてないな……
「そういえば君、名前は?」
「小島研治だ。見ての通り、パソコンが好きだ。よろしく」
「よろしくな」
姫路はやはり山崎の言動にあきれていた。
「名前知らなかったのかよ!」
「そういうの苦手なんだよ。ごめんな小島」
「別に構わないさ」
「……まあ、これで4人集まって、あとは西宮さんだけだな」
「よし、5人集まったら申請しにいこうぜ」
こうして『学園カメレオン』が出来ていったのだ。