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第18話 『今日からニンニン!』

 部室に戻る神宮と円町。部室に入ると、驚いた顔でこちらを見てきた人がいた。

 

「あれ? その子誰? ……クッキング部?」


 円町の愛くるしいエプロン姿を見て、初めに言葉を出したのは山崎だった。そして、すぐに神宮がフォローを入れる。


「円町京子。お前、同じクラスだろ」


「円町さん? あの700点の子? どうしてエプロンをしてここにいるの?」


 すると、円町の方から口を挟んできた。


「あの……今日からこの部活に入部したいんです!」


「よしわかった。じゃあ今日から学園カメレオンの一員な」


 そう山崎が答えると、物凄い勢いで誰かが部室に入ってきた。ドアが開くや否や、その人が喋った言葉。


「なんでお前はいつもそんなに疑問を持たずに行動が出来るのだ!? あと、俺を放置するなあああああ!!!」


 姫路だった。ツッコミを入れるためだけに、部室の外から走ってきたのだろう。神宮と円町はこの事態を知っていたが、それ以外のメンバーは事情を知らない。神宮が姫路を含め、全員を座らせた後、円町に今日の出来事を説明してもらった。


「今日は、本当にお騒がせしました! 最近、かくれんぼをする部活が出来たということで、学園に噂が流れてたので、興味が湧いて、調べて、土曜日に活動しているということを聴いて、朝から1組の教室で張り込んでました」


 そして、疑問に思った人物が一人、手を挙げた。


「じゃあ、どうして4階にいたんだ?」


 姫路がそう訊いた。円町が続いて、その質問に答える。


「教室で待ってたら、隣から声が聞こえ始めたので、こっそりこの部室から聞こえた声を聴いたんです。そしたら、4階まで範囲を増やすと言っていたので、誰か来るだろうと予想しつつ、4階で待機してたんです。そしたら姫路君が来てくれて……」


 ここで山崎から言葉が出る。


「そのエプロン姿は何か関係があるのか?」


 神宮は既に、このことについては知っていたので、笑いを堪えるのに必死になっていた。笑う神宮を余所に、円町が話を続ける。


「姫路君以外でも、この格好をしていたらきっと『クッキング部』だろうと予想するでしょう。で、1時間分の睡眠薬入りクッキーを差し出して、味見してくださいって言えば、その人は断れないはずです。で、思う存分遊んだんです。楽しかったですよ!」


 姫路が更に質問を投げる。しつこいほどに。


「なんでかくれんぼがしたかったんだ? それに、普通に学校で言ってくれればいいんじゃないのか?」


「私の将来の夢、忍者なんです」


 答えを聴いた姫路が、答えを疑った。


「え? 今なんて?」


「夢は忍者になることです!」


 姫路の顔が一気に暗くなった。この学校に対しての不満なのか、この生徒に対しての不満なのか。定かではなかったが、落ち込んでいる様子だった。しかし、よく考えてみれば、この学校に来ている生徒、更には1組の生徒は普通の人物の方が少ないことに気が付いた。仕方ない、と姫路が2回口に出したところで、円町の口がまた動き始めた。


「かくれんぼする部活と聞いて、忍者が黙っているはずはありません! 私も参加したい。でも、学校ではそんなキャラじゃないし……そう思うと、こうやって、強行した手段を取らざるを得なかったというか……」


 姫路は、なる程、そういうわけかと言わんばかりに頷いていたが、すぐにその説明のおかしな点を発見した。すぐに食いつく。


「学校でキャラを作ってる? あの暗くて地味な感じの円町さんは、作られた性格の円町さんだったの?」


「はい。忍者は目立つのは厳禁。学校では、なるべく目立たないように、会話する時に目を合わさず、声を極力出さず、自分からは人に話しかけないように、そういう心がけで毎日を過ごしてきたのです。が、ある日事件が起きました」


「事件?」


 山崎の問いに、すぐに答える円町。


「はい。テストの結果に応じて、全校生徒に分かるように、大々的に発表されてしまいました。一生の不覚でした。まさか、あんな風に目立ってしまうとは思ってなかった物で……」


「そういえば、円町1位だもんな。しかも全部満点だし」


「忍者は頭も良くなければ務まりません! 日々勉強を重ねている私に、満点が取れない訳がないのです!」


 円町は、その小さな胸を張って、どうだと言わんばかりの表情を取っていた。天才型に努力が重なると完璧になる。そして、その完璧は忍者を目指している。なんとも潮凪学園らしい生徒がいるもんだ。と、山崎は感心していた。 


「話は呑み込めたよ。今日から、円町京子は学園カメレオンの一員だ!」


「ありがとうございます! これから、よろしくお願いします!」


 円町に笑顔が溢れた。かくれんぼが好きな少女が、また一人参加することになった。これで部員は8人となる。今部室にいるのは、躑躅森を除いて6人。と、ここで山崎は、あることに気が付いた。


「あれ? そういえば、松川がまだ帰ってきてないけど……」


 部室に松川の姿は無かった。神宮が、ハッと思いだしたような表情を浮かべ、すぐに部室を飛び出していった。数分後、神宮が松川を連れてきた。松川は眠たそうな顔をし、髪をぼさぼさにしている。保健室で寝ていたことを忘れていた、と神宮は言っていた。「ほえ?」と松川が情けない声を出したところで、山崎が声を張る。


「今日は色々あったけど、これで解散としよう!」


 山崎がそう言うと、みんなは帰る支度をし、部室を後にしていった。

 

 帰り道、姫路と少し話をした。円町についての話だった。まずは、山崎から話し始めた。


「円町さん、意外な一面を持ってたな」


「そうだな。一面以上あったかもしれないけどな」


「忍者になりたいだの、目立たないキャラ作りをしていただの、潮凪学園にはおかしな人が集まるって、本当のことだったんだな」


「ああ、忍者志望ってことは、運動神経高いんだろうか」


 と、急に運動の話に切り替えた姫路の言葉に、少しだけ違和感を覚えた。気になったので、それについて食い込んでみる。


「運動神経? なんでそんなところ気にするんだ?」


 意外な答え、いや、これは山崎にとっての意外な答えだっただろう。物事に興味を示さない山崎が、聞き慣れない単語を聴いたせいかもしれない。


「そりゃお前、もうすぐ体育祭があるじゃん? うちのクラスとしては、つつじがトップで頑張ってくれると思うけどな」


「た、体育祭?」


「テストも終わって、6月がやってくるわけだ。体育祭くらい予想できてただろ? なんで驚いてんだよ」


「い、いやー中学まで、体育祭は9月にやってたから……」


「そっか。なら仕方ないな」


 山崎は、苦し紛れの嘘をついてしまった。中学の頃も6月に体育祭があったのだが、この時期になるまでには忘れてしまう。毎回のように6月に入ると、体育祭ムードになることを、山崎は覚えていなかったのだ。


「忍者志望ってことは、走ったり、障害物避けたり、そう言うのが得意なのかな? 実は、つつじより運動神経高かったりして……」


 姫路が妄想を膨らませ、言葉に出していた。この時の姫路は、生徒の能力その物よりも、円町という女子に興味を持っていただろう。顔がニヤついていた。


「そういうのは、家で妄想しろよ」


「あれ、今声に出てたか……」


 我に返る姫路に、山崎は問いかける。


「体育祭ってどんな競技があるんだろうな? リレーや綱引きはあるとして、潮凪学園らしい物とかあったりするのかな」


「あるよ。情報によると、一つだけそれに近いものがね」


 どこから仕入れた情報かは知らないが、一つだけ潮凪学園らしい競技があるらしい。


「それはどんな競技なんだ?」


「“部活対抗リレー”だよ」


「部活対抗?」


 部活対抗リレーとは、潮凪学園体育祭の目玉競技の一つである。潮凪学園には大量の部活が存在する。その中で、最も足の速いチームが集められた部活には、部費が“少々”出るらしい。毎年のように優勝している陸上部は、賞金を使って毎年、トレーニング施設を作ったり、機械を買ったりしているらしい。


 姫路のした説明を聴いて、山崎は対抗心を燃やした。


「よし、次の目標はその部活対抗リレーで優勝することにしよう! そして、円町の分のSCウォッチの代金を稼ごうじゃないか!」


「そうだな! 頑張れよ部長!」


 という会話をし、姫路と別れ、家に戻った。

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