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第17話 『誰だ!? 私だ!』

「ひ、姫路!?」


 神宮は思わず叫んでしまった。近づいて姫路の様子を確認する。息がある。どうやら寝ているだけのようだった。しかし、こんなところで寝ているというのはおかしな話だった。4階、しかも用事のない1組の、入口で寝ているわけがない。よく見ると、姫路の頭の下に、紙が置いてあるのがわかった。


「何だ? これは……」


 拾い上げ、広げてみると、とある文章が書いてあった。


 『この男、姫路諒平のSCウォッチは奪われた

  返してほしければ見つけ出せ、仲間には知らせるな 神宮未佳、お前だけで探せ』

 

 筆で書かれた字だった。これは果し状という物なのだろうか。神宮は、内心面白がっていた。姫路の安否はともかく、こういう展開に発展するとゲーム好きの神宮としては、堪らなく楽しい状況だったのだ。


 姫路をおいて、1組を去った。2組の前に立ってみると、すぐにSCウォッチに反応があった。


 ○半径10メートル以内に、かくれびとの反応あり! 1人


「ここにいるのか犯人!」


 勢いよくドアを開ける。見た限り、誰の姿もなかった。教卓を調べ、掃除用具入れを調べた。しかし、誰もいない。確かに、SCウォッチには反応したから、この教室にいるはずだ。と、ふとSCウォッチを確認した。


 ○00:27:21


 時間だけが表示されている。つまり、中には誰もいなかった。振り返ると、自分が開けたままにしているドアが目に入った。


「私が部屋に入っている間に外へ……?」


 2組の教室を出る。すぐに3組の教室の前に移動し、SCウォッチを確認する。


 ○半径10メートル以内に、かくれびとの反応あり! 1人


 今度こそ捕まえてやる。と思い、ドアを開けた。すると、3組の窓から外に出ていく人影が確認できた。一瞬だが、確かに窓から外に出ていくのが分かった。急いで窓に近づく。ロープが窓に引っかかっていて、3階までロープが辿ってあった。


「くそっ! 逃げられたか!?」


 窓を閉め、急いで職員室側の階段まで走った。あの時、3階の3組の窓が開いていたのは、逃げるためだったのか。と自分の中で振りかえっていた。しかし、いくら悔いても意味がない。3階に着く。そして急いで近づいて確認する。3組の前に立った時、SCウォッチを確認した。しかし、表示は無い。既に何処かに逃げられてしまった。


 廊下を見渡すと、軽音楽部の部室、つまり9組側の方向に人影が見えた。まるで、わざと自分の姿を確認させるかのような、余裕さを醸し出していたかのようにも思われた。神宮は若干、馬鹿にされていることに気が付いた。


「頭にきた……」


 そう思うと、一つ頭に案が浮かんだ。一旦部室に戻ろう。今日持ってきた物を使えば、あの犯人の足どめになるかもしれない。そう考え、2階へ戻る。部室に入ると、みんなが注目してきた。


「あれ? 姫路は?」


 山崎が訊いてくる。しかし、このことを伝えてしまうと、ゲームとしては成り立たなくなる。なので、嘘をついた。


「まだ見つかってない、けど4階にいると思うから頑張って探すよ」


 そう言い、ロッカーの中に入れていたガムテープを取り出した。ビー玉も大量に持って外に出ようとした時に、もう一度声を掛けられた。


「……それ、どうするんだ?」


 咄嗟に考えた答えは、どうしても変な答えになる。しかし、それが思いついてしまったのなら、言うしかなかった。


「姫路を見つけた時に、すね毛を毟り取る」


「お前……まあいいか」


 呆れられていた。実際、そんなことをするわけがない。だが、今まで自分がしてきた言動のおかげか、変に思われていなかったそうだ。部室を出るや否や、目の前の階段の手すりと壁を繋ぐように、ガムテープを貼った。封鎖してあったら、ここから降りるときに苦労するだろうと考えたからだ。そして、ビー玉を散りばめた。飛び越えると、絶対にビー玉で転ぶ。そんなようにして、この階段を封鎖した。


 次に、物理室側の階段へ向かった。こちらから3階へ上がり、犯人を追いつめる。そして、奴が2階へ降りるときに捕まえる。こういうルートを辿れば、捕まえられると確信したからだ。


 階段を上る。そして、軽音楽部の部室の前を通り、教室が続く廊下を見渡した。すると、3組の方に、人影が見えた。手を振って挑発している。神宮はその姿を見つけた瞬間、猛ダッシュで廊下を走った。挑発している人影も、それに気付いたのか、1組のある方へ逃げた。 


「よし、これであとは階段を下れば追いつめられる」 

 

 3組まで走り切った先では、その挑発していた人間が、階段のある廊下に行こうとしていた。神宮は、また走り出す。すると、犯人は階段の方へ向かった。作戦は成功だった。神宮が階段まで辿りつくと、下りられなくなっておろおろしている人がいた。すると、見覚えのある顔だったことに気が付いた。なぜか、エプロンをしているその子は……。


「円町!? なんでこんなところに……」


「わー。見つかっちゃったか」


 その、姫路のSCウォッチを奪い、軽い身のこなしで4階から3階へ駆け下り、挑発をしながら追いつめられているのは、紛れもなく円町京子だった。神宮は頭の中が整理できなかった。


「どうしてこんなこと……」


 そう声を掛けると、SCウォッチを外して、こちらに持ってきた。背が低く、可愛らしい容姿の円町を見て、神宮は更に疑問を持った。クラスの中では、目立たない存在だった円町だが、物凄くアクティブに動いていたことについて、神宮の中では整理が出来なかったのだ。すると、円町の口から言葉が出た。


「私、忍者志望なの」


「は?」


 わけがわからなかった。色々なことが起きすぎてパニックになっているのに追撃するがの如く、わけがわからなかった。


「かくれんぼ、する部活なんだよね? 忍者にはピッタリの部活動じゃない?」


 そう、純粋な目で訴えかけられた。しかし、この学校にはおかしな人間が多いということを思いだしたら、少しホッとした。そしてまた、話をし始める。


「神宮ちゃんは、私が今までどういう風に生活してきたか覚えてる?」


「どういう風って……?」


「私のこと、影が薄い地味な子だと認識してるはずだよ?」


「ああ、まあそうだけど」


 実は、学級委員でも円町とはあまり話をしたことはなかった。話す機会が無かったのか、話そうとしていなかったのかということでは無かった。


「忍者は、気配を消す職業だからね。目を合わせず、声も聴かせないように生活しないと、みんなの記憶に残っちゃうでしょ」


「わざと、そういうキャラを演じてたってことか?」


「そういうことになるね」


 意外だった。円町が自分からこんなに話をする人間だと、神宮は思っていなかったからだ。そして何より、今までのキャラは全部、円町本人が演じてきたことだったらしい。

 

「一時は、スパイでも目指そうかなと思ってたんだけど、忍者の方がカッコいいよね」


「またわけがわからないことを……」


 呆れていたが、重要なことを思い出した。


「そういえば、なんで学校に来てるんだ? 今日は土曜日で、普通の生徒は学校に来ないはずだ」


「学園カメレオン。この部活に興味があったんです。あらかじめ調査しておいたことによると、土曜日の学校の9時から活動をする。そこまでわかったので、つい来てしまいました」


「忍者志望だから?」


「そういうことです」


 話はよく理解できなかったが、きっと部活に入りたかったのだろう。


「じゃあ、山崎に頼んで部活に入ればよかったじゃないか」


 そう提案したら、もじもじと指をいじりだした。


「あの……私、あまり男性と話すのが苦手でして……」


 その言葉に、神宮は少し可愛いと思ってしまった。同性ながらも、何故かエプロンをしている小さな女の子の発言に心踊らされた。そして、一番の疑問を投げかけた。


「どうしてエプロンなんだ?」


 一番気になっていた。忍者志望で秘密にしつつ土曜日に学校に来たことは分かった。しかし、忍者は普通エプロンをしない。


「姫路君を騙すためです。姫路君のSCウォッチを借りた理由もそのためです。この、睡眠薬入りのクッキーで……」


 と言い、ポケットから袋に入ったクッキーを取りだした。


「部員の中では一番話を聴いてくれそうで、一番騙しやすそうだったので……」


 姫路はなめられていた。姫路も姫路だ。エプロン姿の女子を見て、クッキーを渡されたら食べてしまったのだろう。その程度の人間だ。そりゃ甘く見られても仕方ない。と、立ち話を進めていたらアラームが鳴った。SCウォッチを見るとその理由がわかった。


 ○タイムオーバー! 残念でした!!


 立ち話をしていたせいで、時間切れとなってしまった。


「じゃあ部室に戻ろうか。これから紹介して、部活の一員にしてもらおう」


「はい!」


 そう言うと、神宮はガムテープを剥がし、ビー玉を回収しながら部室へ戻った。

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