第16話 『また事件、そして事件』
神宮はまず、1階から探し始めた。1階には保健室、美術室、会議室、化学室がある。中庭に出ると、購買部があり、そこでは昼食を取ることもできる。まず、部室を出たすぐにある階段を下り、階段横にある美術室の前に立った。SCウォッチに反応は無い。美術準備室。ここには画材や作品などが仕舞われている。物がたくさんあるので、ここに隠れる人もいるだろう。だが、SCウォッチには反応がない。
続いて、会議室。前を通り過ぎるも、反応なし。廊下を歩いてゆき、たどり着いた先は保健室。保健室にはベッドがある。隠れるスペースとしては十分だ。SCウォッチを確認する。
○01:23:53
半径10メートル以内に、かくれびとの反応あり! 1人
「ここに一人か」
中に入る。これまで健康的に過ごしてきた神宮にとっては、初めての保健室だった。目に飛び込んでくるのは職員用の机、身長測定機、視力検査機、体重測定機。そして、仕切りで囲われたベッド。一番怪しいのはベッドだろう。仕切りに近づき、開ける。2台あるベッドのうち、1台は誰もいなかった。反対側へ回って、もう一つの仕切りを開ける。すると、一人の女性が寝ていた。松川だった。
「見つけたぞ松川。起きろ」
声を掛けるが、返事がない。完全に熟睡している。きっと松川のことだ、ベッドに隠れようとしてそのまま寝てしまったのだろう。神宮は松川の寝顔を確認した。それはもう気持ちのよさそうな寝顔だったので、SCウォッチを勝手に操作し、見つけたことを報告した。
●見つかった! 残りかくれびと…… 4人
○見つけた! 残りかくれびと…… 4人
ベッドの近くに置き手紙をして、保健室を後にした。
『もう見つかったから、部室に戻っておけ』
続いて、1階の探索を始める。次に向かったのは化学室だ。薬品類がたくさん置いてある棚、机、準備室に繋がる扉。基本的には物理室と同じ構造を取っており、位置も丁度物理室の真下にある。SCウォッチを確認するも、誰もいないようだった。
目の前の階段を上り、2階へ移動する。階段を上った先には、物理室があり、またSCウォッチの確認をする。しかし、誰もいない。
「やっぱり、4階まで探索範囲を広くすると、そんなに簡単に見つからないか」
順に2階のチェックを始める。SCウォッチを観察しながら、9組、8組、7組、……と教室を確認する。しかし、反応は無い。途中、男子トイレを見つけ、SCウォッチを確認したが、誰も入っていなかったようだ。教室の巡回を再開する。6、5、4、3組……確認したところで、廊下は左へ曲がり、2組1組と続く。SCウォッチに反応は無い。部室まで一週してきたところで、今度は部室の前を通り、職員室まで行く。職員室の中を見ることは無かったが、廊下を左に曲がり、情報処理室のある階段の方へ移動した。
情報処理室に繋がる階段を上る。3階では唯一、この教室だけが繋がっていない特殊な構造を取っているので、先に確認を済ます。しかし、それでもSCウォッチには反応がなかった。階段を下り、また廊下を進む。生徒会会議室、13、12、11、10組。2階は全て確認したが、SCウォッチは反応しなかった。となると、次は3階の捜索だ。物理室前の階段を上り、3階へ移動する。
1階と2階を全て探索し終えた頃には、時間は30分近く過ぎていた。しかし、このペースなら全員見つけるのに時間はかからないと判断した。神宮は余裕を持って捜索をしていた。3階にはあまり上ったことは無かったが、構造的には2階と殆ど変らない。また虱潰しに確認していこう。そうして一番初めに見た教室は、軽音楽部の部室だった。
SCウォッチを確認しても、中には誰もいないようだったが、入ってみた。実は、神宮は楽器を演奏するのに少し憧れを持っていたのだ。実際、何か楽器が出来るわけでは無かったので、ただの憧れに過ぎなかったのだが、ドラムやベース、ギターにキーボードなど、色々な物を見て回った。舞台に上がると、何やら怪しげな扉が付いているのを見つけた。
「松川が前回言ってた、西宮が隠れてたスペースってこれのことかな」
扉を開けると、確かに人が1人だけ入れるスペースがあった。
「西宮は自由にこういうスペース作れちゃうから、気を付けて探索しよう」
そう心の中で思って、軽音楽部室を後にした。そしてまた探索を始める。9組、8組、7組……SCウォッチには反応が無かった。また男子トイレがある。念のためSCウォッチを確認する。
○半径10メートル以内に、かくれびとの反応あり! 1人
やっと1人見つけた。勢いよく男子トイレに入った。すると、驚いた顔をして、山崎が便器の前に立っていた。時間が凍りつく。山崎の顔はみるみるうちに青ざめていったが、神宮の顔は逆にみるみるうちに赤らめていった。
「な、な、なんで急に入ってくるんだよ!!」
言われてから、すぐに神宮は外に出た。迂闊だった。男子トイレに誰かいるのに、久しぶりに隠れている人を見つけた興奮で、状況を考えていなかったのだ。神宮は男子トイレの前で顔を手で覆っていた。 山崎が出てきた。手を洗い、ハンカチで手を拭いていた。しかし、神宮は会話もなしに、すぐにSCウォッチで通信をした。
●見つかった! 残りかくれびと…… 3人
○見つけた! 残りかくれびと…… 3人
山崎が話しかけてきた。
「ごめん……まさか入ってくるとは思わなくて……」
そう言ったが、神宮はすぐに山崎に背を向けた。背を向けつつも、神宮は言った。
「ばか」
そう言い残し、その場を去った。山崎は床に手を着くように落ち込んでいたが、気にせずに走った。
順に教室を調べる。6,5,4組。3組が校舎の角にあり、2組へ続く。3組の中を確認した時、何かに気が付いた。窓が開いていた。土曜日に『2年3組』の教室を使う生徒はまずいない。そして、窓を開けたまま帰る生徒も普通はいないし、それなら金曜日の見回りに来る先生が気づくはずだ。つまり、誰かがここに入ったということだ。しかし、SCウォッチには反応がなかったので、あまり気にかけなかった。そして2組の前に立つ。
○半径10メートル以内に、かくれびとの反応あり! 1人
2組に誰かがいる。中に入り、目に映る物は教卓、掃除用具入れ、30近くの机と椅子。教卓の下を確認。異常なし。続いて、掃除用具入れを確認。一人発見。
「意外と長かったな」
そう言ってきたのは小島だった。小島的には、すぐに見つかる予定だったらしい。こんなところに長居するのは、神宮も嫌だ。すぐに小島は出てきて、制服に着いた汚れをはらった。SCウォッチで通信をする。
●見つかった! 残りかくれびと…… 2人
○見つけた! 残りかくれびと…… 2人
小島が尋ねる。
「残り二人は誰だ?」
「西宮と姫路だ。多分二人は4階だろうな」
と言い、小島が疑問に思ったことがあったらしい。
「あれ、姫路まだ見つかってないのか。あいつ、俺が部室に戻る時はいつもいるのに今回は珍しいな」
小島が言うには、姫路は簡単に見つかるはずらしい。しかし、神宮は反論する。
「まあ、今回は探索する範囲が広いからな。4階はまだチェックしてないし」
「そうだな、あいつも今回は張り切ってたようだし」
会話をここまでに、残り時間を確認する。
○00:51:21
時間は十分にある。これなら4階もすぐに全員見つけ出せる、そう神宮は確信した。小島は部室に戻り、神宮は4階へ足を運んだ。そして、気づくことが一つあった。防火扉。2階と3階にはそれぞれ、1組の前の階段には防火扉がある。いつもは絶対に閉じられることのない防火扉が、今4階で閉じられていたのだ。
つまり、ここを出入りすることを防がれているのだ。きっと西宮か姫路、どちらかが時間を稼ぐために仕掛けたのだろう。階段側から開けようとしたが、何か引っかかっていて開けられない。仕方なく階段を下り、職員室の隣の階段を使って、4階へ到達した。まずは、4階の空き教室から調べた。
空き教室は3階と同様、きっと部活の部室用に開けてあるものだろう。2教室あるうちの一つ、そこでSCウォッチに反応があった。
○半径10メートル以内に、かくれびとの反応あり! 1人
確認と同時に、すぐに教室に入る。すると、物凄く怪しい所に、ダンボールが山積みに置いてあった。近づいて、ダンボールをどかす。すると、そこに隠れていたのは、西宮だった。
「あら、見つかってしまいましたか」
神宮は意外に思った。こういう隠れ方をしているのは姫路の方だと思っていたからだ。
「バレバレだぞ。今回はどうしてこんなに簡単な隠れ方をしてるんだ?」
理由を尋ねた。
「今回、テストでバタバタしてて、色々準備する時間がなかったので、普通に……」
「そうか。だから防火扉を閉めて、時間稼ぎをしたのか」
そう言ったが、西宮は首をかしげた。
「防火扉? 何のことですか?」
「あれ? じゃあ防火扉を閉めたのは姫路か」
よく考えたら、西宮はそんなに力持ちでは無かった。防火扉は重いし、挟まったら怪我をしそうだ。こういうことが出来るのは男子しかいない。
●見つかった! 残りかくれびと…… 1人
○見つけた! 残りかくれびと…… 1人
SCウォッチの報告を終え、西宮と階段まで一緒に歩いている時、話をした。
「あっちの、1組の前の防火扉が閉められてて、多分姫路の仕業なんだろうな」
「そうでしたか、では引き続き、頑張って探してくださいね」
そう言い、西宮は職員室側の階段を下り、神宮はそのまま廊下を歩いた。防火扉まで近づくと、ガムテープで目貼りがしてあるのが確認できた。
「そりゃ開かないわけだ」
防火扉は後回しでいいと思い、1組から探索を始めた。そして、1組の扉が少し開いているのを確認した。
「あれ? なんで開いてるんだろう」
SCウォッチを確認しても、反応は無い。中には誰もいないはずだが、一応確認をしてみた。
そして衝撃が神宮の頭に走った。そこには、姫路が倒れていたのだった。