表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/43

第15話 『ゲーム好き少女』

 今日。テスト明けの土曜日。学校に集まるのは、とある部活の人間達。その部長、山崎は部室に到着する。いつも集合時間の30分前に部室に着く。準備、掃除、かくれんぼ前のちょっとした会議のネタの考え。色々な仕事を、一応部長らしいことをしている。仕事が一段落着く頃に、部活のメンバーが集まるのだった。


「おはよー! 山崎君いつも早いねー」


「おはよう」


 松川はいつも元気だ。部活のメンバー中では、一番元気がいいのではないだろうか。松川に続いて入ってきたのは、神宮だ。


「おはよう」


「ああ」


 返事は素気ない。ただ、土曜日でもこの部活に顔を出すということは、やる気がある証拠だ。そして、山崎がこの日の前日に気になっていたことを尋ねる。


「そういえば、昨日のテストの順位。月曜日は勉強してないとか言ってなかったか? あれは嘘だったのか?」


「いや、本当だ」


「じゃあなんで、あんなに点数いいんだよ?」


 山崎はこの時まで、神宮があの時演技をしていたと考えていた。松川もそれに食いついてくる。


「そうそう、私も未佳の点数の良さの秘訣が気になるよ」


「山崎、月曜日の朝、私が言ったこと、覚えてないのか?」


「え? いつも勉強しないから、今回もしないって話?」


 確かそんなことを言っていた。松川もこの台詞には驚いていた。


「いつも勉強しないの? 中学の時から?」


 そして、神宮が不満そうな顔をした。


「違う、勉強しない理由だ。私はちゃんと言ったと思っていたが、気のせいだったか?」


「勉強しない理由……中学の時も勉強して点数が伸びないとか何とか?」


「そうだよ。勉強してもしなくても、点数はほとんど変わらない。結局、高得点を取るのだから、勉強しなくてもいいだろ?」


 一般人、いや凡人には及ばない解答だった。神宮は生粋の天才タイプだ。勉強してもしなくても、どちらでも点数が変わらないというのは、普通の人が考えるような意味とは、全くの逆だった。山崎も松川も、いつの間にか一緒に話を聴いていた姫路も唖然としていた。この時、山崎の心の中では、きっとこの人には勝てないだろう。別次元の人間だ。そう思っていたことだろう。そして、神宮は別の話をし始めた。


「中学の時、天才天才と言われるのが嫌で、友達を作るのを毛嫌いしていたんだ。だから、高校では部活に、テストが始まる前に入っておこう。そうしたら、仲のいい友達がきっと作れるんじゃないかなと思って、この部活に入ったんだ」


 神宮の言葉使いが、少しだけ丁寧になっていた。きっとこの告白は、本人にとってはとても大きな告白だったのだろう。だけど、山崎の考えは違った。


「部活で友達が作れるとは、俺は思ってないけどな。部活で楽しく過ごす事でできた仲間達は、作られた友達じゃないはずだぞ」


 少しカッコいいことを言った。自分でもそう思っていた山崎だが、少し恥ずかしくなった。同時に、神宮は少し微笑んでいたような気がする。が、出た言葉は表情とは違っていた。


「寒いわ」


 キツイ言葉だった。今の自分にはダメージが大きすぎる。そんなコントのような会話を仲裁するがの如く、小島が入ってきた。みんなが「おはよう」と声を掛けて、返事を返すや否や、スマホを取りだした。


 本文:明日は陸上の大会に出場する日だった。

    みんなに伝えておいてくれ、明日は欠席する。


「躑躅森から伝言だ。あっちの部活も忙しいんだとさ」


「仕方ないな、部活を兼任している以上、こういう事態は予想していたし」


 部長としては、少し寂しい気分だったが、これも承知の上で部活に参加を承諾したのだ。山崎は携帯を取り出し、メールを打った。


 本文:俺達の分まで頑張ってこいよ!


 メールを読んでくれる時間があるかは知らないが、形だけでも応援していることを伝えた。9時になる直前、西宮が入ってきた。


「遅刻じゃないですよね?」


「ああ、丁度いい時間だよ。おはよう」


「おはようございます」


 躑躅森以外の全員が集合したところで、山崎は部員を席に座らせ、ホワイトボードの前に立ち、今日の部活の概要を話し始める。

 

「前回の部活で分かったことがある。まず、SCウォッチは上下階には反応を示さない。それと、2階と3階だけではやはり隠れる場所が少ないだろう。そこで、今回からは1階から4階まで、校舎内全ての場所を解禁しよう」


「やったー! これで楽しくなるぞー!」


 松川はこれが念願だったらしい。大きく手を上げて喜んでいた。


「じゃあ、早速今日の鬼を決めようか。このくじ引きで!」


 ロッカーから例の筒のような物、つまりおみくじマシーンを取りだした。躑躅森の分を一本抜き、くじを振る。


「今回の鬼は……神宮だ」


「私か。今回は探す側なのか……折角いい隠れ方思いついていたのに」


「残念だったな。じゃあSCウォッチの設定をしてくれ」


 みんながSCウォッチの確認を始めた。時計モードから切り替え、かくれんぼの設定をする。


 ●残り時間00:00:00 

 ○残り時間の設定をしてください。


「今回は、90分でやろう。階数も増えたし、時間も延ばさないとな」

 

 ○残り時間01:30:00

 ○かくれびと(子)の参加を待っています…… 0人


 神宮以外のみんなは、参加を始める。松川は「おー、これが子の画面か」とはしゃいでいた。


 ●さがしびと(親)に参加しています……


 全員が参加を終え、神宮の画面に表示される。


 ○かくれびと(子)の参加を待っています…… 5人


「よし、全員揃ったな。では設定完了……と」


 ●隠れ終わったら、完了ボタンを押してください。

 ○かくれびとが隠れ終わるまで、しばらくお待ちください…… 0人


「よーし、張り切って隠れちゃうよー!」


 と言い、一番に松川が部室を飛び出していった。


「今回も、驚くような隠れ方をしてみせますわ」


「俺も、今回こそ見つからないように隠れないとな……」


 西宮、姫路が続いて出ていく。小島は、腕組をしつつ、考えながら外へ出ていった。


「部長らしく、最後に一言! 頑張って探せよ!」


 と山崎は言って、出ていこうとした。


「熱いわ」


 そう言われたような気がしたが、気にかけないようにしながら、そっと部室のドアを閉めた。神宮は、自分の持ってきた物を確認した。ビー玉、ガムテープ、紙コップ。妨害には色々使えそうな物だったが、今回は使う機会がなさそうだった。部室のロッカーの4番目。ここだけは何も入ってなかったので、いつか使う時のために閉まっておこうと、物を置いた。


 神宮は部室を見渡す。テレビにゲーム機、ロッカーの中には小説、ゲームソフトなど色々な物が揃っていた。神宮が真っ先に手を伸ばしたのは、ゲームだった。神宮は、ゲームが好きだった。中学、勉強もせずにずっとゲームをして、時間を潰していた頃を思い出していた。成績は優秀、勉強はしない、そんな神宮を、中学のクラスの人は「勉強の化け物」扱いした。いじめに遭いそうな時もあった。勉強が出来過ぎて気味が悪い、クラスにいるから平均点が底上げされるから消えろ。そう言われた時、性格が変わってしまった。いじめに遭うのは、自分が弱い性格だからだ。そう考えるうちに友達と距離を作り、最終的には友達を突き放して生活を送っていた。その名残で、今でも人に冷たい態度を取ってしまいがちになっている。優しい性格に、あの頃の性格に戻りたい。そう思っても、中々できないのだった。


 だから、ゲームは自分にとっての友達のようなものだった。今でも、興味の出るゲームは大体買ってしまう。しかし、大抵買うのは一人用の物。部室にあるのは、友達と対戦できるゲームが殆どだった。パズル対戦ゲーム、格闘ゲーム、レースゲーム。神宮は、こういう類の物はあまり好きではなかったが、これを機に練習してみよう。みんなで集まって、こういうゲームができるも、この部活のおかげかもしれない。そう思い、ゲームに熱中した。


 気が付くと、結構長い間ゲームをしていたかもしれない。時計を見ると、20分近く経過していた。SCウォッチを覗きこむと、丁度画面が切り替わった。


 ○全員が隠れ終わりました。開始ボタンを押してください。

 

 アラームが同時に鳴り響く。そしてゲームを中断し、席を立つ。


「よし、全員見つけ出してやるぜー!」


 意気込みを口にして、部室を出た。この時はまだ、あんなことになろうとは、誰も思っていなかっただろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ