第11話 『2回目のかくれんぼ、初めての衝撃』
小島と山崎を探す松川。3階へ上り、1組、2組と教室がある方と逆のルートを進んだ。クラス教室の反対側には空き教室がいくつかある。これもきっと部活の部室にできるように、空けてあるのだろう。教室を一つひとつ確認するも、SCウォッチには反応が無い。
「うーん、どこにいるんだろうなーあの二人」
そう考えているとふと、窓から見える場所にある、教室が目に入ったのだ。情報処理教室だった。パソコンが50台近くあり、スペックも充分のパソコンがたくさん置いてある。何より、パソコンが多いので机も多い。きっと、隠れるには最適なスペースだろう。
「よし、そっちも探してみようかな」
潮凪学園の校舎は少し特殊で、2階は四角状になって繋がっているのだが、3階と4階は一部繋がっていないのだ。そして、その繋がっていない部分の丁度間に、情報処理教室がある。なので、松川は一旦2階に下り、情報処理教室のある階段の前までやってきた。SCウォッチを確認する。
○半径10メートル以内に、かくれびとの反応あり! 1人
間違いない、小島か山崎のどちらかがいる。確信して、階段を上った。情報処理教室はAとBの二つあり、どちらもたくさんのパソコンが置いてある。普段1年生が使うのは、B教室だった。だが、松川は興味深いことには首を突っ込む人間なので、まずはA教室から探索をした。
「おじゃましまーす」
中に入る。当然、パソコンの電源は1台も付いていない。情報処理検定部というものがあるのだが、活動は授業後で、土曜日に活動している部活は、陸上やバレーなどのスポーツ関係の部活だけだった。そんな中、スポーツと関係の無い部活の一員である松川は、土曜日に情報処理教室に入った。
中にはたくさんの机があり、一つずつ見回るのに時間がかかった。しかし、誰の姿も無かった。つまり、隠れているのはB教室だったのだ。
「時間食っちゃったかな」
○00:09:56
「やばっ! あと10分切っちゃってるよ!」
急いでA教室を出た。そして、そのままB教室に入った。B教室も同様にパソコンがたくさん置いてある。そんな中、1台だけパソコンが付いていたのだ。おかしい、土曜日に校舎にいるのは自分たちだけなのに、パソコンが付いているわけがない。そのパソコンへ近づいて、画面を確認した。USBが刺さっており、何か設計図のような物が開かれていた。疑問に思いながらも、すぐに捜索を再開した。すると、一つだけ妙に椅子が出ている机があった。近づき、その椅子を引く。
「あー小島君みっけたー!」
「流石にバレるよな」
小島が机の下に隠れていた。すると、パソコンを使っていたのはきっと小島だろう、と予想し話を聴いてみた。
「どうして、パソコン使ってたの?」
「松川が入ってきて、興味を示してパソコンに夢中になると思った」
「私、そんなに色々なことに興味持ってるのかな?」
少し、偏見を持たれていたのだろうか。松川碧はきっと、何にでも興味を示し、食いつき、時間も構わず熱中してしまうような人だと思われていたらしい。小島を見つけたことで、SCウォッチを見せた。小島は制作者なので、分かっているだろという感じで見せた。
「ああ、見つかった報告ね」
赤外線通信をして、見つけたことを全員に知らせる。
●見つかった! 残りかくれびと…… 1人
○見つけた! 残りかくれびと…… 1人
「さっき、階段上る前に確認した時も思ったけど、SCウォッチの機能ってたくさんあるね! 赤外線まで付けちゃって、小島君すごいと思っちゃったよ!」
「かくれんぼをもっと楽しむために作っただけだ。それに、自分で作るのも楽しいからな……と松川、さっきなんて言った?」
何か小島の顔が曇っていた。何に疑問を持ったのだろう?
「さっき、階段に上る前に……」
と言いかけたところで、小島が口を挟んだ。
「このSCウォッチ、半径10メートル以内の人を感知するように作ってるけど、上下のフロアには、ほとんど反応しないように作ってるんだけどな」
「え? どういうこと?」
「つまり、2階で反応があったら、2階にしか人はいないはずなんだよ」
「あれ? じゃあ階段上る前に確認した時に反応したってことは……」
「そういうことだ、頑張って探せよ」
情報処理教室を出た。階段を下りたところの近くに山崎がいる。階段を下りて、もう一度SCウォッチを確認した。
○00:03:43
半径10メートル以内に、かくれびとの反応あり! 1人
周りを確認した。すると、一番最初に目に飛び込んできた場所は会議室だった。急いで中に入り、周りを見渡した。会議室には部室にもある長机が、たくさん置いてある。しかし、足が隠れているわけじゃないので、しゃがめば全て見渡せる。しゃがんで確認したが、山崎はいなかった。会議室にはいない。急いで外に出て、また周りを見渡した。だけど、教室は無いし、廊下があるだけだった。
「どこにいるの? 山崎君……」
疑問に思い口に出してしまう。しかし、彼の姿はどこにもない。あるのは、廊下と窓と照明と消火栓入れだけだった。
「ん? 消火栓入れ……」
消火栓入れは大きい。箱の形になっているし、人は1人くらいなら簡単に入るだろう。消火栓入れの前に立ち、扉に手をかけた。
「ここだー!」
中には山崎がいた。
「うわー! とうとう見つかっちまったかー!!」
「やっと見つけられたよー! じゃあ早速……」
とSCウォッチを確認した。
○00:00:43
「43秒しかない! 急いで操作して!!」
松川は焦っていた。SCウォッチで赤外線通信をしないと、見つかったことにはならない。つまり、最後の一人を確認できても、通信しなければ意味がないのだ。しかし、山崎は操作方法を知らなかった。
「何を操作すればいいんだ?」
その言葉を聴いた瞬間、松川は山崎の手を取って、SCウォッチを自分で操作し始めた。松川は必死だったが、山崎は少し驚き、同時に照れていた。松川が操作し終わり、赤外線通信を始めた。
●見つかった! 残りかくれびと…… 0人
○見つけた! 残りかくれびと…… 0人
と一瞬表示されたあと、すぐに画面が切り替わった。
●全員が見つかりました! かくれびと側の負けです!
○全員を見つけました! さがしびと側の勝ちです! おめでとう!
それと同時に、残り時間も表示された。
○00:00:23
残り23秒の所で、ゲームはクリアされた。今回は全員見つけられたのだ。松川は喜んだ。
「やったー! 私の勝ちだー!!」
「やったな、松川」
松川が笑顔でいっぱいになっている中、山崎は言った。
「よし、じゃあ部室に戻ろうか!」
「うん!」
部室へ戻る。部室のドアを開けると、神宮と姫路がゲームをしていた。躑躅森は鉄アレイを持っており、小島はスマホをいじっていた。西宮が最初に話しかけてきた。
「おかえりなさい、おめでとう碧さん!」
「ありがとー!」
松川が西宮に抱きついた。松川は相当嬉しかったのだろう。山崎が、そこで締めの言葉を口にした。
「今回は松川が全員見つけ出した。これからも隠れる側と探す側、両方とも頑張ってほしい。じゃあ今日はこれで解散にしよう!」
そう言ったのだが、松川に否定された。
「お腹も空いたし、みんなでご飯でも食べに行かない? 初めて全員見つけられたっていう記念も含めて」
「お、いいね! 運動した後はエネルギー補給が大切だからな」
と躑躅森が返答した。みんなも頷きながら、賛成していた。
「じゃあ、学校の近くのファミレスにでも行こっか!」
そう言い、全員部室を後にして、ファミレスでご飯を食べた。みんなの注文した料理はそれぞれ別で、誰も被っていなかった。パスタ、日替わりランチ、ピザ、ステーキにドリアなど、それぞれ普通に食事を済ました。
ファミレスを出た後、帰りに松川がこんなことを言った。
「そういえば、さくらってこの近くに住んでるんだっけ?」
「はい、学校と家が近くて便利ですよ」
西宮は地元民だったらしい。そこで山崎がふと疑問に思ったことを訊いた。
「じゃあ、学校の近くにある湖って知ってるか? あそこに城みたいな物が建ってるけど、あそこってテーマパークの予定地とかなの?」
その疑問に対する返事は、あまりにも衝撃的過ぎて全員が言葉を失ってしまった。
「ああ、あれが私の家ですよ?」