第1話 『結成! 学園カメレオン』
「みーつけた!!」
小学校の記憶。山崎慎一はかくれんぼをしていた。
「やまざきくんがつぎ、おにだからねー!」
一人が鬼の役になり、三人が隠れる。鬼は全員を見つけだして次の鬼を決める。そんな単純なルールに小さい頃の山崎は感動していた。人を探して、見つけて、隠れて、見つかって……小さい頃なんてのはそんな遊びも楽しく、いっぱい遊んだ。
ただ、そんな遊びも高学年になると楽しくなくなる。
「慎一、まだかくれんぼなんてやりたいのかよ?」
「ゲームしようぜゲーム!」
「じゃああいつの家行こうぜー!」
小学生のころに実感した。周りは少しずつ大人になっていく。かくれんぼなんてのは小さい頃にしか遊ばないものだと思い始めたのだ。
そうしているうちに小学校を卒業、中学校へ進学。中学校卒業。時の流れは早い。
「明日から高校生活が始まる。友達できるかなー」
山崎慎一の面白おかしな高校生活が始まろうとしていた……
――潮凪学園。
変な噂が多く集まる学校ではあるが、そこに少し憧れを感じていた。そして、そこで山崎の高校生活が今日から始まろうとしていた。
「緊張するなー! 可愛い子いるかなー?」
入学式が終わり、自分の教室へ移動する。
「一年一組……と、ここか」
席は窓側一番後ろ、「ヤ」の名字の宿命だ。席に座ると早速声をかけてきた子がいた。
「名前、教えてもらってもいいかな?」
「俺の名前は山崎慎一。君は……?」
「あ、私の名前は松川碧だよ」
茶色く、綺麗な髪にカチューシャを付けていた。その子は松川碧というらしい。
「松川さんか。これからよろしく」
「よろしくね、山崎くん!」
入学式の日は自己紹介と学校の説明だけで終わった。色々な説明があったが、あまり聴いていなかった。入学初日から、ボケッとしていた山崎であったが、入学後もそれとなく時間が過ぎていった。
――五月。クラスの雰囲気も和らいできた時期のとある日。
「なあ山崎、どうしたら彼女できると思う?」
「唐突になんだよ姫路」
今、一緒に下校中のこいつは姫路諒平。最近の悩みが彼女が欲しいという、普通のモテたい系男子だ。
「だってさー。高校生と言ったら彼女の一人や二人いてもおかしくないだろー?」
「二人いたら問題だし、全高校生が彼女持ちなわけじゃないんだぞ」
「まあそうだけどさー。彼女作ってみたいじゃん? どうしたらいいか考えてくれよー」
「彼女か……考えたことなかったな」と山崎は考えていた。振りかえれば中学校も小学校も、女子を好きになったことなんて殆どなかった。
「どうした山崎? いい案でも浮かんだか?」
期待をしている姫路の眼差しが、少し気持ち悪かった。女子を求めている、という感情が滲み出ていたからだ。
「浮かれてるのはお前だ! ちょっと昔のことを振りかえってただけだ。女子を好きになったことも、彼女が欲しいということも考えたことなかったなーって」
「えぇ! 女子好きになったことないのか!? 変な奴だなお前ー!」
「お前に言われたくないな」
くだらない会話の中、山崎は昔のことを振り返っていた。何を考えてここまで来たんだろう。やりたいことも特にないし、熱中していたこともなかったな。と思い返していた。
「部活にでも入って、出会いを求めてみようかなー」
「そんな不純な理由で入れる部活なんてあるのか?」
「だったらさ、部活作らないか? 普通の部活とは違う何か、面白い部活でも考えてくれよ!」
突然の無茶ぶりが飛んできた。面白い部活なんてあったら、とっくに誰かが作ってるだろ! と、心の中で突っ込んでいたが、声には出さなかった。
「じゃあ明日までに何か、考えておくよ」
「おお! マジか! じゃあ明日、楽しみにしてるぜ! じゃあなー!」
家に帰ってから少し考えた。部活についてだ。
潮凪学園は比較的自由な部活を作れることで有名だ。漫画喫茶部、麻雀部、鉄道研究部、UFOハント部など普通の高校では許されないような部活も許可が下りる。それは校長先生が自由な方で、入学式の時に
『部活動に関しては、私が興味をひくようなものは全て許可する予定です。ぜひ一年生の皆さんも部活動を作ってください』
と言ったセリフが印象強く残っているからだ。
「なんでもいいのか……逆に悩むなー」
山崎は今まで熱中してきたものなんてなかった。小学校、中学校と部活にも入らず、スポーツにも興味がなかった。ゲームも時代の流れに合わせて、友達と遊べるようなものしか持ってなかったし、趣味も特になかったのだ。自分の部屋で何か探して、いい物があったら、それを部活の題材にでもしよう。自分の机の引き出しを開けた。小学生のころから使っている机だ。整理していないのか、物がぐちゃぐちゃにしまってある。
「整理しようかな……いらない物は捨てよう」
目的を他のことに変更したことにも気付かず、山崎は部屋の整理を始めてしまった。出てくるものは成績の悪かったテストやガラクタ、なくしたゲームなど色々なゴミが出てきた。
「これは燃えるゴミ、これは……燃えないゴミっと……」
そうして整理をしているうちに、小さな青色の筆箱が出てきた。
「うわー! 小学生の時使ってた筆箱だ。懐かしいなあ」
中には短くなった鉛筆、汚い定規、バラバラになった消しゴムなど小学生の時に使っていたそのままの筆箱が出てきた。
「これもゴミだな。……ん? この紙はなんだろうか」
筆箱の中に入ってた紙。広げてみると、汚い字でこう書いてあった。
ぼくへ
大人になったぼくは、なにをしていますか。まだかくれんぼをしていますか
「これは……」
山崎が小学生の低学年の頃に書いた、自分への手紙だった。鮮やかにその頃の記憶が蘇った。
――『やまざきくんがつぎ、おにだからねー!』
「かくれんぼ……か……」
山崎が熱中していた唯一の遊び。小学生の頃は確かに、かくれんぼに熱中していた。隠れる側のドキドキ、探す側のドキドキ。両方の面白みを知っていた。
「あの頃はハマってたな……かくれんぼ」
高校生になった自分を鏡で確認する。あの頃とは背も五十センチ近く高くなったし、制服も着るようになった。純粋にかくれんぼを楽しんでいた時代との差を確認したところで、山崎は一つ決めた。
「部活はかくれんぼでもする部活にしようか」
他の人が思いつかない、そして自分の熱中していたものを部活にしよう。山崎の高校生活が、変わった瞬間だ。
――次の日の朝。
「おーっす山崎! どう? 何かいい案浮かんだか?」
姫路が声を掛けてきた。山崎は、自信を持って答えた。
「かくれんぼをしよう」
姫路は口を開けて驚いている。当然だ。
「お前……何言ってんだ?」
この返答も仕方がない。だが山崎自身は真剣だった。小学校の頃に熱中していたものがこれしかなく、昨日手紙を見つけたことを全部話した。
「そうか……かくれんぼか……よし、せっかく山崎が考えたことだし、面白そうだからかくれんぼする部活にするか!」
案外、話の通じる奴だった。
「部活の名前とかどうする? かくれんぼ部にするか?」
と、訊かれた。
「一晩考えた部活の名前を発表しようじゃないか! 部活の名前は……『学園カメレオン』だ!!」