アレロパシー
歪んだ矢印で、
どうやって生きていくのか。
[ベクトルは僕に向かない]
幼なじみには、恋しちゃいけない?
一番長く隣にいる僕じゃなくて。
次に長いあの人でもなくて。
最も短いあの人なんて。
紳士なフリをした。
「あのね、」
会えばそう切り出す君は、必ず僕に相談するから。
幼なじみで、一番近い、一番素でいられる間柄で良かったから。
だけど人間欲張りで、僕は好きな人の幸せを願える程良い人じゃなかった。
「ほら、早く返せって言われるの僕なんだからアイツんとこ帰りな?」
「会ったらまた喧嘩しちゃいそうで。」
大丈夫。頭を撫でてやれば、素直に頷くんだ。
「また何かあったら来ていいから。」
これ以上ここに居ないで、歪められた顔は君には見せられない。
バイバイの声が虚しく響いて、部屋のカーテンはふんわり揺れた。
知ってる、君とアイツが上手くいってること。
君が寂しがりで、アイツとすれ違うことも。
そのたびに、僕か彼が一緒にいること。
僕だけに全て話して、泣くこと。
彼には甘えまくること。
アイツは僕らをライバルだと思ってないこと。
だから僕たちは消えようか、そう何度も相談した。
だけど君の不安定なココロはきっと、アイツだけじゃ支えられない。僕と彼が居なきゃ崩れる。
男らしくて良くも悪くもストレートなアイツ、王子様キャラで甘やかし上手な彼、紳士キャラで優しくしすぎる僕。
バランスの良い3人に囲まれるのに慣れちゃって、一人を選べない君。
この複雑な四角を幾度となく恨んでも、その事実だけは変わらないんだ。
"親友"というニスでコーティングされた僕らの関係は、端から見るよりずっと複雑で、ずっと簡単で。
脆くて、弱くて、そして若かった。
もう解放してあげようよ、君を、僕たちを。
久々に集まった4人。とりあえず友達だ、空気は汚さずに楽しんだ。
夜中に起きると、寒々しい風が入ってくるのに気付く。
ソファで寝ていた彼が居ないから、きっとベランダにいるのは彼だ。
実際行ってみれば彼なわけで、その横顔を見れば何考えているのは分かってしまうのだ。
「起こしてごめんな。」
「いや。」
僕が横に行けば、ちらっと見てまた顔を前にもどす。
「やっぱり辛いな。」
零す言葉に、やはりそうくるか、と思った。
「うん、分かってたことだけどね。」
「離れるなって酷だよなー。」
間延びした声が、本当は悲しいことを物語っていた。
僕は苦笑いを浮かべて頷く。
「いっそ2人は2人で居てくれたら、僕たちは僕たちで去れるのに。」
寝る前、酔った君が言うのだ。「みんなどこにも行かないで、置いていかないで」と。
その"みんな"が、彼氏だけでいいのか、彼氏だけでなく僕たちもなのかは分からない。
だから実際僕は(きっと彼もだろう)、このまま君を置いていってしまおうかと考えるわけだ。
「同じこと、考えたんだろ?」
「うん、そうだね。多分君と同じこと思ったよ。」
「実行しちゃおうか。」
「マジ?」
泣き出してもしらねー、と笑いながら僕は彼の差し出された手をとった。
「なにこれ、僕らが駆け落ちかよ。」
「みたいに見えるよな。」
笑ってるのか泣いてるのか、自分でも分からない。でもきっと目の前の彼と同じ顔をしているんだ、情けない顔。
「また会えるよね、アイツらに。」
「おう、そりゃあな。」
「なら行こうか。」
逃げじゃない、僕と彼と君たちを、この雁字搦めの恋愛から解放するため。そう僕は自分に言い聞かせた。
「愛していたんだ、」
「俺らは君を。」
君が寝ているはずの部屋に顔を向けて2人で呟く。
そして顔を見合わせて支度をして、ドアを開けた。
向こうの世界は徐々に白んでいく空が見えて、それが急に悲しくなって泣いた。
彼の服にしがみついて、静かに泣いた。彼も僕の肩に顔を埋めて泣いた。
それだけ本気の恋愛をしていたんだ、叶わないと知りながら何年も。
気付いていたよ、君が起きていたこと。
きっと君はひとしきり泣いたあとでアイツを起こすんだろう?
でもそれじゃ遅いんだよ。
僕らは君の引いたラインには入れない。君が許したのはアイツだけなんだから。
2人が気付いた頃には、僕らは思い出の中の"親友"。
「良い親友だった」で終わらせてよ、お願い。
「恋のベクトルはそう簡単には自分に向かないのな。」
「いっそここ2人で向かい合えば、丸く収まるんだけどね。」
なんて冗談で今は笑うしかないけれど。
やっぱり君の幸せを願ってしまう僕らは、それで自分が納得して笑えるんだから、可笑しいよね。
「これからどうしようか。」
「俺と海外で、エンジョイする気ないか?」
にやっと笑った彼に、僕も吹っ切れたような笑みを浮かべる。
「仕方ない、暇だしのってやるよ!」
(いつかきっとどつかれに行くから、そのときまで幸せに)
※BLと誤解された方も居たので書いておきますが、NLです。
BL紛いは2人のネタ発言です。
普通に"君"に全矢印が向いています。