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二つの復讐の炎

彼は私立探偵の丹下(にしも) 善正(よしまさ)、二十歳。大阪出身で、引っ越した後の横浜市の西区で探偵をはじめ、初めての依頼を受けたときにともに捜査したのは吉岡(よしおか) (ひさ)(のり)警部だった。

もっとも、探偵とは言え始めてからまだ1年しかたっておらず、依頼は1カ月に1回ぐらいだったので、いわゆる「ただの暇人」だった。

 今は、本当に暇なので、趣味の「鉄道一周旅」を行っている。最寄り駅は横浜駅で、乗り換え可能な路線を、何歳になっても忘れないために、しっかりとメモしている。だから、いつでも計画を立てることはできる。

 そして今、ようやく彼は計画を立て終えることができた。しかし、ほっとした途端、電話が一本入った。

 出ると、吉岡警部だった。

 「はい、丹下です。」「ああ、丹下君、事件なのだがね、来てもらえるかね。」「勿論です。どのような事件で?」「すまんが、今は時間がなくてね、来ればわかる。とりあえず、相鉄線の二俣川駅まで来てくれ。何分ぐらいかかるかね?」「そうですね、横浜までだいたい5分ぐらいですから、23分ぐらいですが、それでもいいでしょうか。」「ああ、いいとも。なるべく早く来てくれ、じゃあ、頼んだよ。」

 電話が切れ、すぐに準備を始めた。あわてて乗り込んだのが、急行海老名行きだったので、7分も早く着いた。二俣川駅では、警部が待っていた。

 「おお、丹下君か。どうしたのだね。たまげたぞ。少なくとも、後5分は待つことになるかと思っていたぞ。」「見ませんでしたか?僕が乗ってきた電車は急行ですよ。横浜からここまでノンストップですからね。」笑いながら丹下は答えた。「まったく、推理と鉄道に関しては君には負けるね。」警部も笑ったが、すぐに真顔になった。「さあ、ここからは話をしている場合ではない。」「分かっております」彼も真顔だ。周りの人々は、二人ともいきなり真顔になって、とても戸惑っていた。「さて、ここだよ。ほら、パトカーが止まっている。事件は、ここの家の主の妻の秋田由香子さんでね、毒殺されたらしくてね。どうやら、意識がはっきりしているとき。まあ、起きている時だが、その時にやられたらしくてね。まあ、入ってみてくれ。」

 入ってみると、とても妙なところだった。「妙ですね。」「妙?どこが妙なのだね?とくに変なところはないだろう。」「いえ、何のためにここまで遺体を持ってきたのかと思いまして。ほら、見てください。こんなに住宅があり、駅からもそうは離れていないところで人を殺すのは至難の業ですよね。ましてや夜に起きたらしいじゃないですか、この事件は。僕だったら静かなところ、田舎や森の中などですが、そういうところで普通はやるかと思いまして。まあ、絞殺されたのであれば、声は出せないかと思うのですが、毒殺されたら普通は苦しみませんか?強力な睡眠導入剤が混入されていたわけではないのでしょう?それに、床のフローリングは汚いじゃないですか。」「汚いほうが自然だと思うが。」警部はとても当惑している。「でも、苦しんだら、もがいたりのたうちまわったりしますよ。ところが、被害者は壁に寄り掛かっている。普通は部屋のど真ん中。少なくとも、壁に寄り掛かっているということはまずあり得ない。ということは、どこかで彼女を殺した後、何らかの袋に入れて持ち帰り、ここに置いたのでしょう。そういえば警部、容疑者はどこでしょうか?話を聞きたいのですが。」「ああ、今着かれた、この方々だよ。」「探偵の丹下です。どうぞよろしく。いきなりですが、被害者が恨まれたりするようなことはありましたか?」「ないですね。申し遅れました私は被害者の夫の秋田亮平です。妻は優しくて美しかったですから、恨まれることはなかったと思います。あ、家族を紹介しておきます。私の隣から、妻の妹の有子さん、妻の姉の準子です。」彼の家族は、有子以外、皆が私に握手したが、彼女だけは、泣き崩れていて、皆が哀れな目で見ていた。「有子さん、安心してください。必ずや僕が犯人を捕まえますよ。」この一言で、少しだけ立ち直った有子が、嗚咽を漏らしながらも、お願いします。と言った。「警部、アリバイは?確認とれていますか?」「いや、確認中だがね。」「分かりました。それでは、有子さんも落ち着いたみたいなので、辛いかもしれませんが、被害者のことについてお話していただける範囲でいいので、よろしくお願いします。」証言を聞くと、さまざまなことが分かった。

 被害者は、結婚生活1年で、幸せそうだったらしい。近所での評判は良く、笑顔で挨拶をしていたこと、おとなしかったことなど、さまざまなことを聞いた。

 すると、考える間もなく、警部の携帯が鳴った。

 「はい、吉岡です。あ~東田君か。何?亮平さん以外のアリバイが証明された?わかった。」警部が電話を切ると、すぐに丹下が質問をした。「どういうことですか?アリバイについては聞いていませんよ。

 「ああ、忘れていたよ。有子さんは薬局へ行き。そのあと、スーパーにも言ったそうだ。亮平さんは有子さんと同じスーパーの本屋に、車で行ったそうだ。ちなみに、この二人は会わなかったと言っている。準子さんはコンビニで弁当を買ったと言っていた。」気になった丹下は、有子に質問した。

 「有子さん、疑っているわけではないのですが、質問していいですか?」「何なりと。」

 「なぜ薬を買われたのでしょうか。」「姉のためです。姉のための風邪薬を、飼っていたところに姉からの連絡が入って、あわててここに来ました。」有子はまた涙目になった。

 「分かりました。それでは、亮平さん、本当に本屋にいたのですか?」亮平は憤慨した顔をした。「失敬な!ちゃんといましたよ。店員がちゃんと見ていなかっただけじゃないのですか?」亮平は、まだ怒気を含んでいる顔で2人を睨んでいた。「分かりました。」

 しばらく考えていた丹下だが、またもや疑問が浮かんだ。一応、逃げられるといやなので、警部に「警部、お願いがあります。この人たちをちょっとの間、見張っておいてくれますか?」と囁いた。「まあ、いいが、何か思いついたのかね。」と囁き返した。「そうです。結果によっては、犯人が特定できるかと。」と言った途端に、走り出していった。

 彼の耳には、警部が、全く、何を考えているのだか、と聞こえたような気がした。

 10分後、息せき切って帰ってきた丹下を見て、警部が、「なんだね。とても早かったな。まさか、犯人が分かったのかね?」と、興奮していった。「ええ。では、みなさん。事件の背景を説明しますので、口をはさまずに最後まで聞いてくださいよ。では、説明します。まず、この事件には2人の人間が関わっています。ですよね、亮平さんと準子さん。まずあなた方はこの計画を立てた後、まず、メールを彼女の携帯に送った。多分、スーパーに来い、とね。そうして呼び出した後、薬局で睡眠薬でもかったのでしょう。亮平さんは車で先回り、準子さんはトイレなどにでも誘い出し、風邪薬。とでも偽っておけば、疑いもせずに服用するでしょう。それに、車の中で毒を飲ませれば、誰にもばれませんよね。証拠ならありますよ。どうぞ、入ってください。」と、丹下が玄関に声をかけると、痩せた男が一人、入ってきた。「例のビデオならありますよ。見てください。ここです。」なんと、見てみると、男と女がそれぞれ一人、のたうちまわっている女性を見つめて笑っている。「これが証拠です。」観念したように、準子が口を開いた。「はい。私たちがやりました。本当は私たち、兄妹たったのです。殺した理由は、私たちの両親をあの悪魔が殺したからです。当初の警察は、ただ単に崖からあしをすべらせた転落死ということだったのですが、母は。高所恐怖症だったため、兄はその死に疑問を持ち、調べたそうです。すると、母の体重の割に滑った足跡が深く、足の大きさが合わなかったそうです。そして、一番怪しいと踏んだのがあの女でした。酒に酔わせると、ペラペラしゃべりだしたそうです。『ああ、あの女ね。その女だったら私が崖から突き落としたわよ。なんかわけのわからないことを言い出して、向こうが怯えた瞬間に落としたわよ。わけの分からないこと?なんか、貸した金を返せとか何とか言ってきたけど、1000万円なんかどうにでもなるのに。』それで確信したそうです。だから、それぞれ、別の養子になり、今度は私が近づき、復讐の機会をうかがっていました。すると、今日、偶然機会があったので、兄に連絡して復讐を行いました。もう永久に会えない母も喜んでいると思います」亮平は、うなずいた。「では、犯行を認めるね。」二人はうなずいて、それぞれの両手を差し出した。善正は彼らに優しく語りかけた。「もう二度と会えないのではないです。あなたの心の中にはいつも、大切な人が生きています。だが、死者が生きることができるところは、あなた方の心の中だけです。もう永久に会えないなんて言ってきまったら、本当に死んでしまいますよ。しかも、息子や娘が殺人を犯してみてください。絶対に悲しむと思います。あなたのすべきことは、復讐ではないです。」そして、手錠がしまるカチリという音がして、警部に連行される直前、亮平が口を開いた。もう何年間も声を出していなかったかのようにしゃがれた声で、「あなたは、とても有能な探偵になりますよ。」一礼して、二人は出て行った。


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