表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/18

【断罪……】


玉座への階段のその先に、豪奢な椅子がひとつ。

その前、階段下には、文官と軍人の数名が居並んでいた。


「詐称の容疑者を連れてまいりました!」


兵士のそんな報告に続けて、先に入室していたリックが膝をつき、深く頭を下げる。その横を、拘束されたジノが無理やり引き出される形で前へ進まされる。

目線の先には、威厳を湛えた中年の男――この地を統治する国王が、鋭い眼差しを向けていた。


「……本物と見紛うほどの、喋りと外見だったと聞いているぞ」

「はい、陛下。街で人々を集め、”勇者”として振る舞っておりました」


リックの返答を受け、文官のひとりが机上の書簡を繰りながら口を開く。


「各地の市井で、小規模ですが同様の報告が上がっております。”勇者”を装って旅の模様を語り、銀貨を得る……詐欺行為と見て間違いないかと」

「金額の被害は些少であるものの……“勇者”の名を(かた)ったことが問題だな」

「まったくだ!」


重々しく頷いた軍人の一人が、手を組んだままジノを睨み下ろす。


「この国の英雄を騙ったとなれば、本来なら即刻、投獄ものだぞ。――勇者殿」


再び呼ばれたリックの名に、玉座前の空気が張る。軍人の口調はさながら、どうしてくれようか、といったふうである。

だがリックは微塵も怯まず、少しだけ前に出て、落ち着いた口調で応じた。


「しかし、悪意は感じませんでした」

「……なんだと?」

「人を騙していたことは確かです。ただ……語っていた“旅”は、事実だった。昔の私の旅と――寸分違わず」


ざわ、と文官たちが顔を見合わせる。

軍人の一人が立ち上がりかけたのを、国王が手で制した。


「……ならば、問おう」


やや身を乗り出し、鋭く視線を落とす。


「貴様、何者だ。なぜ、”勇者”の詳細な行動を把握している」


その一言に、再び場の空気が静まり返った。

兵士によって、ぐ、とジノの肩が押さえつけられる。リックは――静かにそれを見下ろしていた。




「――別に……」


重い空気の中、ジノが口を開けたのは、その胆力があったからこそだった。人前で勇者を騙る度胸。全く違う人生の者を”演じる”度胸。


「勇者なんて目立つ野郎、いろんな奴らが見てるだろうが。あちこち聞き込みすりゃ、情報なんざボロボロ出てくる」


答えはするものの、ジノはすっかり諦めた目をしていた。まぁ、投獄されるならそれでいい。何年かは犠牲にはなるだろうが、極刑とまではならないだろう。



「……先ほど広場で言っていた”砂漠の敵”、あれは何だったかな?」

「は……?」


ジノが顔を上げれば、目線の先でリックが目をきらめかせていた。

突然何を、と思ったが、事実確認とか事情聴取とかそういう……?……いやだがしかし、今それが必要だろうか……。 ジノが、眉を吊り上げる。


「……銀砂竜だろ。砂原を泳ぐ砂竜のバカでけぇ奴……」

「そう!あの頃は仲間もいなかった!」

「あの辺の旅商人の間では有名な話だぞ。俺ァ別に、あんたについて回ってたわけじゃねぇよ」

「私が一番好きな食べ物は?」

「は、はぁ……?」


戸惑うようにジノが視線を泳がせれば、周囲の面々も同じように戸惑っていた。国王と宰相らしき文官に至っては、目を見合わせてやや首を傾げている。


「…………ほ、ホーンブルの……トマト煮……香草添え……」

「その通り!!」

「……そ、それが何なんだよ」


聞こえているのかいないのか、リックが満足そうにうんうんと頷いた。にこりと微笑んだ表情は、もはやさながら貴公子である。


「陛下!この者の沙汰、どうか私にお任せくださいませんか!」

「なに……?」


ぱっと顔を上げたリックに、国王が肩をぴくっと揺らした。


――この勇者リック、私利私欲というものがない。

かつて魔王を討伐し、”望むものをなんでも授ける”と褒賞について話をした際も、爽やかなまでの笑顔で「何もいりません」と返してよこしたほど。

金もいらない、女もいらない、城での地位も爵位もいらないと来られては、王家としても面目が立たない。いやいや、いやいやと話し合いを重ね、城下街の邸宅と報奨金、ミドルネームの”ノア”を押し付けて格を付け、なんとか体裁を保った、という経緯があった。


……そんな彼が。


「……なるほど。何ぞ、考えでもあるのか」


まるで、初めて息子から我が儘を言ってもらえたかのような錯覚を起こして、本心こそちょっと嬉しいが……国王は、極めて真面目な口調でリックにそ――


「私のものにします!」


…………、即答だった。


きっぱりと、迷いなく、まっすぐに。

そう言い切ったリックは、まるで勲章でも受け取ったかのように胸を張っていた。


――一拍、沈黙。

その場にいた全員の脳裏で、“今の言葉の意味”が、それぞれ違う形で処理されていく。


(なるほど、私刑……もしくは奴隷として身柄を……)

(……処罰ではなく、保護対象として引き取る、と……)

(罪人すら導くつもりか……さすが、勇者……!)

(これは、“奉公人扱い”か……?)

(あの口ぶりは“私兵として登用する”意図では……)


じん……と国王が目頭を熱くする。


(……リック……お前、ようやく物を欲しがるようになったんだな……)


それぞれの思惑が、各々の胸の内で感動と納得をもって落ち着いていく。

そして――ただ一人。


「……え、なに……!?」


ジノだけが、顔を引きつらせていた。




誰一人としてリックの思考にたどり着けないままに、その爽やかな笑みが再び国王のほうを向いて言った。


「もちろん、責任はすべて私が持ちます!しっかりと、……最後まで!」


(詐欺師が更生するまでか……)

(……奴隷として使い潰すおつもりか……?)

(罪人の一生でさえも背負われる……さすが勇者……)


一言を発するたびに、各々に素直な誤解が広がっていく。

力強いリックの眼差しを受けて、国王もゆっくりと頷いた。


「……よかろう。他ならぬお前の申し出とあらば、これを拒む理由もない」

「ありがとうございます、陛下!」


リックが深々と頭を下げる。ジノの両腕を押さえていた兵士が、国王の手振りを受けて、その手枷を外した。

それに代わり、ジノの腰と手首に縄が巻かれ……それがリックに引き渡される。


「連れて行くといい。……お前の“もの”としてな」


そう言い残した国王の声に、場の誰もが神妙に頷いた。

誰一人――リックの“私のもの”の意味を正確に捉えた者などいないというのに。


ジノの脳裏で、何かが崩れる音がした。



* * * * *



(………………えぇ?)


手枷は外されたものの、まだ手首と腰に残る縄を嬉しそうに持つリックに……、ジノが目を向けた。


(”私のもの”ってなんだ……?俺ァ私兵とかはなれねぇぞ……?)


城の大広間を抜けて外へと出れば、陽光に照らされた白金色の髪が、なんとも眩しく輝く。きゅっとジノが目を瞑ったのは、眩しいのが半分と現実逃避が半分だった。


「……どこ向かってんだ……です、か……」

「何故そんな口調を!」


ぼそりと呟いたジノに、リックが驚いたように振り返ってみせる。何故ってそりゃあ主と……下僕?奴隷?私兵?わからないがそのようなものになるのだろうから、主人に粗相をしたらどうなるかわかったもんじゃない。


「……そりゃ……主人だから……?」

「しゅっ……っああ、ああ……”主人”だね、そうだ!そうだが、だがそんな、君の方からそんなことを言ってもらえるとは……っ!」

「…………」


なんか温度感おかしくないか、とジノがやや眉をしかめる。歩みは城門で止まっている。門番の兵が、何事かとこちらを見ていた。


「……ん、で、どこ行くんですか」

「ああダメだ、先ほどのまでのような口調に戻してくれ!距離を感じる!」

「はぁ……?……な、なんなんだ、わかんねぇな、あんた……」


くッ……とリックが何事かを噛みしめているところに、ゴロゴロと車輪を鳴らして馬車が一台滑り込んできた。大柄な御者が、リックを見とめて会釈をし、馬を止める。


「リック様、お待たせしまし、た……?」


胸を押さえる主と、その手から伸びた縄に繋がれた……やや困惑した表情の男。どういった状況なのか、いまいち呑み込めないままに首を傾げつつ、御者が馬車の扉を開いた。


「ええと……彼も……?」

「うん!私の大事な人だからね!!」


快活な笑顔とともに宣言されたその言葉に、御者が一瞬止まった。

脳内で“リック様の大事な人”という情報が三回転半ほどスピンし、ようやく「なるほど、使用人として引き取ると……?」という無難な解釈に着地する。


「……は、はあ……?」


過不足のない会釈をしながらも、ちらりとジノの縄に目をやり――、どういうプレイだ……?と心中で深く、首を傾げた。






――【断罪……】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ