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第8章:解析魔女の報酬と代償

Xデーの成功後、藤堂グループとサイバー・コネクトの間で、異例の契約が結ばれた。

雨宮葵は、サイバー・コネクトに籍を置きながらも、藤堂グループのデータセキュリティアドバイザーという形で、彼らのデータ資産保護に関わることになったのだ。

これは、彼女の卓越した分析能力、特に「影ノ帳簿」のデータ操作を見抜いた手腕が高く評価された結果だった。


藤原部長は、当初こそ戸惑っていたが、藤堂グループからの強い要望と、葵の活躍が会社の信用を高めたことを受け入れざるを得なかった。

「いやあ、雨宮君がまさか、あの藤堂グループから直々に指名されるとはな! DX推進の効果が、こんな形で出るとは…」

藤原は相変わらず表面的な言葉を並べる。


藤原:「君のあのビジュアライゼーションも、藤堂さんには相当インパクトがあったらしいじゃないか。やはり『見える化』は大事だな!」

葵:「…ありがとうございます。データが示す真実を、正確に伝えること…それがビジュアライゼーションの役割ですから。」

藤原:「これからも、君のその『魔法』…いや、分析力で、我が社のDX推進に貢献してくれよ! 期待してるぞ!」

葵:「…はい。努力します。」


「魔法」という言葉に、葵は内心複雑な思いを抱いた。

それは確かに、彼女に力を与えてくれた。

しかし、それは同時に、データが持つ真の力と、それに伴う危険性を、彼女に突きつけたものでもあった。

山田先輩は、以前ほど露骨に軽蔑的な態度をとらなくなったが、相変わらず懐疑的な目を向けていた。


山田:「結局、あの時のお前の分析が当たった形になったわけだ。まあ、運も味方したんだろうがな。」

葵:「運だけではありません。データが、そこに危険があることを示していました。」

山田:「データが示す? まるで生き物みたいに言うんだな。俺には、お前のやってることは、高度なツールを使った、たまたま当たった勘にしか見えんが。」

葵:「…データは、本当に語りかけてくるんです。ただ、その声を聞く耳を持っているか、いないか…」

山田:「俺には聞こえんな。まあ、お前のおかげで部長の機嫌は良いから助かるよ。せいぜい『魔法使いさん』として頑張ってくれ」


葵は、彼らに自分の見ている世界を理解させるのは難しいと悟った。

彼女がサイファー・グリモワールを通じて得たものは、単なる技術や知識ではなく、データという存在との、より根源的な繋がりだったからだ。

藤堂グループでの業務は、サイバー・コネクトでの仕事とは質的に異なっていた。

彼女の役割は、具体的なシステム運用よりも、膨大なログデータや、システム間の微妙なデータ連携の中に潜む異常を早期に発見し、分析することだ。特に、『龍脈帳簿』とその新しい統合プラットフォームの間で、影ノ帳簿が仕掛けた可能性のある新たな「毒」や、侵入の試みを見つけ出すことが求められた。


彼女は、藤堂グループのセキュリティチームと連携し、彼らの監視システムでは捉えきれない、データの論理的な異常を検出するためのカスタムダッシュボードをTableauで構築した。

サイファー・グリモワールの解析術式を応用し、データの「脈拍」や「体温」のようなものをリアルタイムで可視化する。


城島:「雨宮さんのダッシュボードは、我々の既存システムでは見つけられない異常を捉えてくれる。感謝している。」

葵:「いえ。ただ、データが示しているものを、そのまま可視化しているだけです。」

城島:「しかし、その『データが示しているもの』が見える人間が、君以外にいないのだよ。サイファーのアリスもそうだった。彼女は、データの中に人間の感情や歴史すら見ていたと言われている。」

葵:「サイファーのアリスさん…」

城島:「彼女は、ある強大な存在とデータで戦っていた、という噂がある。そして、その戦いの果てに…」

城島は言葉を濁した。


サイファーのアリスが何と戦っていたのか、そしてその結末がどうなったのか。

その謎が、葵の心の中で大きくなっていった。

彼女が手にしたサイファー・グリモワールは、単に分析ツールではなく、サイファーのアリスが戦うために遺した「武器」だったのかもしれない。

そして、その武器が、再び「影ノ帳簿」という存在と対峙している。


ある夜、葵は藤堂グループからのログデータを解析していた。

異常はなかった。

しかし、彼女は、隔離された『毒』のデータエリアが、以前よりさらに微かに、しかし執拗に脈打っていることに気づいた。

まるで、外部からエネルギーを供給されているかのように。


葵:「(画面を見つめ)『毒』のデータ…隔離したはずなのに…まだ活動を続けている…?」

葵:「この脈動…外部からの通信…? いや、データそのものに仕掛けられた、覚醒シークエンス…?」


サイファー・グリモワールの「データの魂の分離」術式は、毒を一時的に隔離することはできても、その存在そのものを消し去ることはできないのかもしれない。

そして、影ノ帳簿は、隔離された毒を、外部から操作しようとしている。

彼女は、隔離エリアのデータの脈動を、サイファー・グリモワールで追跡した。

すると、その脈動が、インターネット上の特定の匿名掲示板や、ダークウェブのフォーラムに流れる、意味不明な文字列の羅列と同期していることを突き止めた。


葵:「これは…影ノ帳簿の通信…!? いや、通信じゃない…データを、彼らの『毒』を活性化させるための『情報』として使ってる…!」

葵:「まるで…データそのものを、暗号化された『波動』として使っているみたいだ…! そして、『毒』は、その波動を受け取るアンテナ…!」


影ノ帳簿は、システムへの直接的な攻撃だけでなく、データそのものを媒体とした、より巧妙な手段を使ってきている。

そして、彼らの目的は、藤堂グループのデータ破壊だけではないのかもしれない。

彼らは、データそのものが持つ力を、歪んだ形で利用しようとしている。サイファー・アリスが遺した『サイファー・グリモワール』もまた、データが持つ真の力、あるいは危険性を示唆している。


葵は、影ノ帳簿が操る「データの波動」と、『サイファー・グリモワール』が示す「データの声」との間に、ある種の共通点があることに気づき始めた。どちらも、通常のシステムでは捉えられない、データの根源的な側面を利用している。

(もしかして…サイファーのアリスさんは、『影ノ帳簿』と同じ、データに潜む何か、あるいはデータの力を悪用しようとする存在と戦っていた…? そして、この『サイファー・グリモワール』は、その戦いのために、私に遺されたもの…?)


彼女は、自身の手にしている力が、想像以上に深い、データの世界の戦いに繋がっていることを悟り始めた。

それは、DX推進やデータドリブン経営といった表面的なレベルの話ではない。

データそのものが持つ力、そしてそれを巡る、見えない存在たちの戦いだ。


彼女は、解析魔女として、この戦いに立ち向かうことを決意した。データに嘘をつかせ、その力を悪用しようとする影ノ帳簿を阻止するために。

そして、サイファーのアリスが遺した謎と、データが持つ真の可能性を解き明かすために。

物語は、雨宮葵がデータの世界の深淵へと分け入り、真の「解析魔女」として覚醒していく過程を描いていく。

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