第1話 異世界なのにテンプレ守らないの、反則だろ
スキル?ない。ステータス?ない。でも──センスはある。
【ステータス画面を期待したあなたへ】
異世界転移なのに、ステータス画面がない。
それよりも驚くべきことがある――
武器も、スキルも、ましてや導いてくれる女神もいないということ。
これは異世界テンプレートじゃない。
これはただ、俺一人が生きたまま放り込まれた戦場だ。
「……はあ、マジか。めちゃくちゃだな。」
湿った土の匂いが鼻を突く。
冷たい空気が頬を撫で、木の葉の揺れる音が耳に静かに届く。
レンは体を起こした。
目の前に広がるのは、見たこともない森。
灰色の空、そして――誰もいない。
「異世界、ってことで間違いなさそうだな。」
ポケットの中には埃だけ。スマホも、時計も、何もない。
そして何より――
『ステータスなし。スキルなし。魔法もなし。』
レンは空を見上げて、にやりと笑った。
「いいじゃん。逆に面白くなってきた。」
その瞬間。
――ガサリ。
森の向こうから聞こえる見知らぬ音。
レンは反射的に息を殺す。
本能が告げる。これは――脅威だ。
灰褐色の毛並み。殺気を帯びた目。
熊ほどの巨体を持つ、狼。
「おいおい、話し合いってわけにはいかないか。」
距離12.7メートル。狼の位置はやや高地。
風はこっち向き。地面はぬかるみ、足を取られやすい。
木々、落ち葉、岩の位置――すべてインプット完了。
レンの脳はすでに計算を始めていた。
(狼の平均速度は時速56km。接近まで約0.8秒。
俺の反応速度は0.3秒。回避角度は左15度。
泥沼へ誘導可能。足を取られれば0.5秒の遅延。
その隙に、石を当てれば――制圧できる。)
「ゲームスタート。」
レンは地面の太い枝を拾い、木の方向へ走る。
狼が唸りながら追いかけてくる。
距離8メートル…6メートル…4メートル。
レンは木の陰に身を隠し、
拾った枝で木を思い切り叩いた。
バサバサッ!
積もっていた枯れ枝や落ち葉が狼の上に降り注ぐ。
狼が驚いた一瞬、レンは反対側の泥沼へと跳んだ。
誘導成功。
狼の前脚がそのまま泥に沈む。
動きが一瞬止まる。
「今だ。」
レンは足先で石を蹴り上げ、狼の脚へと命中させた。
ゴッ!
よろめく狼。
そして――ドサリ。
泥の中に崩れ落ち、狼はそのまま倒れた。
「……ふぅ。」
レンは岩に腰をかけ、息を整えながら、手で髪をかき上げた。
恐怖?そんなものはない。
むしろ、今は――スリルに満ちていた。
「本気で思うけど、俺……マジで天才かも。」
この異世界は、まだレンという存在を知らない。
だがレンは――すでに計算を終えている。
「俺の名前はレン。
戦いは、計算でするもんだ。」
件片付けた。でもさ、俺を呼んだやつ、そろそろ名乗ってくれない?