ルルドの葛藤
ただ…スーの綺麗な心は俺にとって最初は不快なものだった。偽善者を沢山見てきた俺には彼女も同じ様に映った。少しでも気に入らなければカイルの妹であろうと容赦せず酷い態度をしていたかもしれない。
だがスーは違っていた。
年下なのに彼女は大人の様な貫禄が垣間見えると思えば年相応にも見える。本当に不思議な感覚だ。
本物の兄妹の様に接してくれる彼女には家族愛とは無縁な俺は次第に心地の良いものとなっていった。
慣れとは恐ろしいものだ。
普段俺の周りの人は蔑んだり怯えたりして近づこうともしない。
嫌われ者だ。
なぜ自分がこんなに嫌われているのかも分かる。
気に入らなければ殴ることもあったし、周りは敵だらけで人を信用することが出来ず冷たい態度ばかりとっていたから怖いと怯えられてても悪口を言われてもそれでも自分の身を守る為だと生きてきた。
全てどうでも良かった。
家族ともあまり話したことがないのが当たり前だった俺に本当の家族の様に彼女は接してくれた。
そばにいると穏やかな気持ちでいられた。
笑顔を見ると嬉しくなる。
彼女の選んだ言葉一つ一つが好きだった。
もっと一緒に居たいと思うようになった。
ずっと一緒に居たいとも思うようになった。
俺にもこんな感情があったのかと自分でもびっくりしている。
後少ししかこの居心地のいい場所には居られない。
ただこの穏やかな場所に慣れすぎるのも怖い自分がいる。王都に戻れば蔑んだ目で見る人、怯えた目で見る人ばかり。俺の命をまた狙って刺客もくるだろう。
はぁ…
またあの張り詰めた日々に戻るのか。
今だけは忘れてこの場所で
スーとカイルと穏やかな時間を過ごすのも悪くない。
いつの間にか俺はこの場所をとても気に入っていてこの場所を守りたいとも思うようになった。
だがまだまだ俺の力は弱い。
自分自身を守るのに精一杯だ。
だからもっともっと強くなろう。
周りの人が怖がって近づこうとしなくてもいい。
この場所があるなら、スーが笑顔で隣にいてくれるなら…。
大切なものを守れる人になるために。
重たかった足取りは次第に軽くなり、練習場へとそのまま向かい俺はカイルと必死に鍛錬した。
------数日後------
ダンパーネ領にいる日が最後となった日でも、結局俺はスーに王太子だということを言えずにそのままカイルと学園へ戻ってきてしまった。正体を明かすと今まで家族のように慕ってきてくれたスーが俺の周りの人の様に離れしまう事を想像してしまって言葉が出てこなかった。




