待ち合わせに来ないスレイ(2)
ルルドがいる靴箱の反対側から女子生徒の話し声が聞こえてきた。
「はぁ〜スッキリしたわね。これで少しはティア様のストレスも軽くなったのではなくて?」
「そうね。私達も魔法の練習になりましたわね。本当に人を風魔法で飛ばす事が出来るなんて結構上達したのではないですか?私達。」
「そうね。フフッ…あの時の彼女の表情笑っちゃいましたわ。まさか吹き飛ばされて池の真ん中まで行くと思わなかったでしょうしね。今頃びしょ濡れになって歩いて帰ってるのではなくて?王太子殿下と仲が良い所をティア様に見せつけてくるなんて本当にいい性格してるわよねスレイ・ダンパーネ。ティア様が可哀想だったわ。」
ルルドはスレイの名前を聞いた瞬間ピクッと反応した。
「ティア様はもう帰られたかし…」
「ヒィッ…!!」
「お…王太子…殿下…!」
女子生徒2人は音もなく急にルルドが目の前に立っていた事に驚く。話していた内容が聞こえてしまった事とルルドの圧に耐えきれず2人は顔を真っ青にし震えていた。ルルドは1人の女子生徒の胸ぐらを掴み体を浮かすほどに持ち上げた。
「おい、今…なんて言ったか…?スーは今何処にいる…」
「うあ…し、知りませ…」
「嘘をつくな!何処にいるんだと聞いている」
「ああああの、今は分かりませんが、さ、先程までは私達と池のある庭に…行きました。」
「池…お前ら何した…」
「うあ…痛っっ」
ルルドは胸ぐらを掴み上げていた女子生徒をそのままドサッと落とし庭まで走って行った。
「ど…どうしよう…」
女子生徒達はブルブル震えその場を動く事も出来ず真っ青な顔でルルドが走っていくのを見ていた。
ルルドは池のある庭を探した。
汗が顔に滴り落ちる。
それでも走る事を辞めずに必死になって探していた。
「チッ…この学園…庭が何個あんだよ…」
ルルドは焦り出す。
その時、一つだけ女子寮の近くに人通りが少ない庭があった事を思い出した。
庭についた時、池からバシャバシャと音が聞こえてきた気がした。よく見ると池の真ん中辺りで何か動いているように見えた。動いているところから波紋が広がっている。
「何だ…?」
ルルドは動いている物の近くに行こうと池に近寄った。
波紋の中心には人の手が動いていた。女性の手程の大きさだった事からルルドは最悪な状況を想像した。
「まさか……いや違うよな?」
その手は動きを止め、そのまま下までスーっと沈んでいった。
ルルドは心臓が早くなる。急いで池の中に入り、潜って水の中を見ると
そこには意識のないスレイがいた。
沈むようにどんどん落ちていく。
『スー!!!』
ルルドは急いでスーの手を掴もうとするが、もう少しの所でなかなか掴めない。
ルルドは氷魔法を使い、スレイの後ろにある水から凍らせこれ以上沈まないようにした。
『早く出ないと池全体が徐々に凍ってしまう…急いで出ないと』
急いでスレイの手を取り体を抱き寄せ一緒に水面まで上がっていった。
池から出た時には水が全て凍っていた。
「スー…スー!!」
ルルドはスーの頬を軽く叩くが反応がない。
「スー…駄目だ!目を開けろ!スー!」
ルルドは大きな声を出したがスレイは反応せず、真っ青な顔をしたままだった。
ルルドはスレイに人工呼吸をした。何度か繰り返した後、スーはゲホゲホと咳き込みながら水を吐く。
ルルドはホッと安心した。
「王太子殿下!!」
「兄さん!スレイちゃんいたのか!?」
「スレイ様…!?大丈夫ですか?!顔が真っ青です…意識はありますか?」
サーシャが心配そうに駆け寄る。
「これは…どういう事なんだ?兄さん。スレイちゃんは何で池で溺れてたの?」
「ティア侯爵令嬢といつも一緒にいる女子生徒に池に落とされて溺れていた。意識はさっき戻ったがかなり水を飲んでいたみたいだ。」
シリウスは怒りを隠せない様子だった。
「そいつら…まだ生きてるんだよね?」
「ああ、まだ何もしていない。聞きたい事もあるしな。それより…シリウス、あの池お前の魔法で溶かしてくれ。」
「は?嫌だよめんどくせぇ…てかあれ全部凍らせちゃったのか?力の制御出来ないなんて珍しいな兄さん。」
「……。俺はスーをカイルのところに連れていく。後は好きにやっていい。」
「あの、私も一緒に行かせてください!」
ルルドはスレイを抱き抱えて歩いて行った。
サーシャもその後をついていく。
「はぁ、この池の氷溶かすとか地味に面倒なんだけど…まぁ、後は好きにやらせてもらうからね、兄さん。」
ニヤリと笑いながらシリウスは凍った池に火魔法で溶かしていった。




