悪魔の笑顔
「スー、こっちに来て。」
ルルドお兄様とホールへ向かっていく途中、木陰がたくさんある場所へと案内された。
静かで落ち着く場所だった。
「ここ素敵な場所ですわね。」
ルルドお兄様の顔を見ると少し不安そうな顔をしている。
「…ルルドお兄様、お兄様が変装していたのは身分を隠すため…ですわよね?お忍びで来ているから
ダンパーネ領は田舎だし目立たないようにしてらしたんでしょ?お父様もお母様もびっくりするだろうからってカイお兄様がきっと変装して欲しいとお願いしたのではないですか?」
ルルドお兄様は少し私に近づいた。
「そう…でもスーには言おうと思った。けどそれが出来なかった。目立つのが苦手で平和な環境を望むスーの事だから王太子だと分かったら俺の事避けるんじゃないかと思って…。今までの距離感で話しかけてこなかったり、距離を置かれると思ったら最後まで言えなかった。スーに距離を置かれる事が考えただけでも辛くて…。」
確かに、初期の段階で王太子って分かったら、こんなに仲良くなってないかもしれない。
だってあのメインキャラよ?波瀾万丈な物語に巻き込まれるより外野で穏やかにいたい。
だから…
ルルドお兄様呼びすらもしなかったかも。
なんせ物語に出てくる登場人物癖があるし。
だからきっと、ストーリーを知っているからこそ関わらないようにとルルドお兄様の良さを知らずに避けていたかもしれない。
でもよく考えたらそれも酷いわよね。
ルルドお兄様の事知ろうともせずに遠ざけてたら嫌な思いをさせて傷ついてしまうかもしれない。
ん??
いや…多分距離置いて当たり障りない上っ面の言葉ばかりかけてたらルルドお兄様の事だから偽善者めとか思ってイラついたかもしれないもしかして容赦なくやられてたかも…?
うわ…絶対そうよ。
怖…
カイお兄様の妹だからって気にもしないで。
良かった…あの時王太子だって知らなくて。
色々妄想して百面相をしていたら、クスッと笑いながらルルドお兄様がこちらに近づき私の髪を撫で下ろした。
「まぁ、もしスーが俺の事避けたりしても…俺が逃がしてあげないけどね。」
ニコッとするどころか悪魔のニヤつき方。
うわぁ…
表情怖いって…
殺気が物凄い…笑顔だけど笑顔がホラーよ…
それ監禁パターンじゃない。
執着度がカンストしてて若干引いてしまったけどルルドお兄様と数週間過ごしたあの日も今ここにいる彼も優しくて、憎めなくてなんだか可愛いと思えてしまう事もある。
コホンと咳払いをした。
「確かにあの時知ってしまったら
今の関係と少し違っていたのかもしれません。
お兄様なんて呼び方も恐れ多いですもの。ですが…ルルドお兄様はルルドお兄様です。ちょっと不穏な言葉を発言したりするありますけど…信頼している人にはとても優しい所も表情が出にくい所も全てひっくるめて可愛らしい方だと思います。それに心が不思議な色でとっても綺麗ですしね。今もこれからも王太子殿下だからといって何が変わるというわけではありません。いや…変えた方が良いのかしら…?あれ?やっぱり不敬かしら…お兄様呼びは。」
う〜んと悩んでいると一言一句聞き逃さず
聞いていたルルドは笑みを浮かべ私を抱き寄せた。