目覚め(1)
私は抱きしめてくれているヴェティス様を抱きしめ返した。
抱きしめているのに感覚が無くなっていき次第にヴェティス様の体が消えかける。完全に消える前にヴェティス様は優しく微笑みかけてくれた。
「スーヴェティス様…!」
今後会話は出来るとしてももう会えないだなんて…何だか少し寂しくなってしまう。
ヴェティス様が消えてしまった後私は眠くなり、そのまま落ちるように体が沈み、そこから記憶も途切れてしまった。
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ーーーーー王都ーーーーー
王宮の中にある一室。その部屋のベッドにスレイは寝ていた。
スレイは実家ではなく、倒れてからはずっと王宮で治療を受けていた。
サーシャやカイルがお見舞いにちょくちょく来ていたがその間にスレイは目覚める事はなかった。
政務を終わらせたルルドが部屋に入ってくる。
「スー。今日はカイルが来てくれるそうだ。」
スレイに話しかけるが反応はない。
ルルドは両手でスーの手を握る。
「スー…。このまま目が覚めないんじゃないかと思うと俺は耐えられそうにないんだ。母上は俺を庇って亡くなってしまった。スーももしそうなってしまったら…。過剰に振る舞っていたが、もう心が壊れそうだ…お願いだから早く目を覚ましてくれ…」
スレイの手を強く握りしめながらルルドの目には涙が出ていた。
スレイの手がピクッと反応する。
手が少し動いた事に気付いたルルドは希望を持ちながらスレイの顔をじっと見つめる。
「スー…?」
少し様子を伺っていたが何の反応もない。
「…気のせいか…。」
ルルドは暗い表情で席を立ち部屋から出ようとドアへと歩いていった。
「ん…。ル、ル…さま…?」
スレイの声が微かに聞こえた。けれどルルドは自分の頭の中の幻想だろうとドアノブに手をかけようとし、ピタッとその手を止める。
ルルドが後ろを裏返るとスレイは目を覚ましていてルルドを見ていた。
「スー…?スー!!」
ルルドはスレイの側に駆け寄る。
「ルル様…。」
スレイはルルドの顔を触る。
「ルル様…泣いてる…」
スレイはルルドの涙を手で拭った。
ルルドはスレイが目を覚ました事が嬉しすぎて言葉が出ず、涙だけが溢れてくる。
「スー…良かった…。本当に無茶しないでくれ。大切な人をまた俺のせいで失うのかと思った…。」
「ごめん…なさい。ルル様…ただいま。」
スレイはルルにニコッと笑う。
「おかえり…待ってたよ。」
ルルドは涙を溢しながら笑顔を返した。