婚約者(2)
お披露目の時間が近づき会場は多くの人で賑わっていた。
(大丈夫…挨拶をしたらすぐ終わる!)
私の緊張は最大になり、手がガタガタと震えていた。
震えている私の手をルル様はそっと握ってくれた。
「スー大丈夫だよ俺がいる。挨拶したら直ぐに戻ってこよう。」
会場にはステージがあり、私達はそこに立って挨拶をする事になっている。
こんなステージに立った事は人生で一度もない。寧ろ目立たない人生が性に合いすぎてまさか自分がこんな所に立つ日が来るなんて思わなかった。
「じゃあ、俺は先に行かなきゃいけないから。俺がスーの名前を呼んだら来てくれる?」
「わ、わかりました…。」
ルル様は先にステージに上がった。
ステージ周囲にいる人たちはルル様の姿が見えた事で騒ついていた。
ステージに立ったルル様はさっきまでの優しい顔付きではなく威厳のある、どこか恐ろしさを感じてしまうような雰囲気さえ漂っている。
その空気に圧倒されている周囲の人々は恐怖を感じている表情だった。
(あぁ、これがいつものルル様なのね。)
いつも私達と一緒にいるルル様とステージにいる『王太子』としてのルル様の違いに少しドキッとしてしまった。
「今日は秋の収穫祭を楽しめているだろうか。平和と毎年の豊穣を祈り、王家代表としてここに『実りの魔法』が込められた魔法石を木に埋め込む。」
ルル様が持っているオレンジ色の魔法石をステージの横にある大木の幹に当てると、その木に溶け込むように魔力が流れ込んだ。木はキラキラと輝いて見える。
観衆はルル様に皆歓声と拍手をしていた。
(こんなイベントが毎年あったなんて知らなかったわ。とても綺麗…。)
「今日は私からも皆に知らせる。先ずこのような場を設けて貰えた事に感謝する。スレイ・ダンパーネ伯爵令嬢、こちらへ。」
私は緊張を溶かすように深呼吸をしてルル様の元へと歩いた。
「スレイ・ダンパーネ伯爵令嬢は私の婚約者になる。」
「ダンパーネ領当主の娘、スレイ・ダンパーネでございます。皆様、以後お見知り置きを。」
私は挨拶をすると観衆からは拍手と歓声が聞こえてきた。
(やっとこれで今日の大舞台が終わるのね。)
私はホッとしながらルル様の顔を見ると、ルル様は私の顔を優しい眼差しで見ていた。
「見て!王太子殿下はスレイ嬢に優しく微笑まれてるわ!」
「あんな表情見た事ない!」
「相思相愛なんて羨ましいわ。」
皆から色んな言葉が聞こえてくるが、どれも祝福してくれている言葉で少し安心した。
観衆の方へ目線を向けると沢山の人が集まっていることに改めて気づく。
後ろまで見渡していると、小さな鳥が私の所へと飛んできた。