秋の収穫祭(3)
「サーシャは変わった奴だ。ああいう人に初めて会った。最初は怖がってたが今じゃ俺の事怖がらずに対等に接してきてライバルなんて言ってくる。」
ルル様は嬉しそうに口角を上げていた。
(あ、これ本当に嬉しい時の表情だわ。)
私は何だか心の奥がズキッと痛んだ。
(小説ではルル様とサーシャは両思いだったからどんな事がキッカケでも好きになる可能性はあるものね。もしかしたらこの世界でも2人は…。)
そう考えただけでもどんどん心が沈んでいく。
「スー?どうした?」
「いえ…なんでもありませんわ。」
無理矢理笑顔を作り出した私をじーっと見つめるルル様。
「スー。何が嫌だった?正直に言え。」
見透かされている…。ルル様には隠し事ができないみたい。
「本当に何もないの。」
ルル様が他の女性に興味を持っている事に対してモヤっとしたなんて恥ずかしくて言えない。
「まぁ、いい。進もうか。」
ルル様は腑に落ちない表情をしていたが、ため息を少しついた後先に歩いて行った。
(ちょっと怒らせてしまったかしら…)
「ここで待っていろ。」
少し歩くと木の下にベンチがあり、私はそこに座ってルル様を待つことにした。
賑やかな街並み。秋の葉っぱが風に揺られてサワサワと葉音が聞こえる。
(うん。とても平和だわ。)
もう小説のストーリーから大きく変わっててこの秋の収穫祭も初めて耳にするイベントだった。私は必死にフラグを折ってきたけど、この秋を越えたらこれからは私の知らない物語が進んでいくのだろう。
私はどうすればいいのだろうか。
私はどうしたい…?
「スー。」
気づくと目の前にはルル様がいた。
「ルル様戻られたのですね。」
ルル様は手にキリアを持っていた。
「キリア…!!美味しそうだわ!」
「スーはキリアが好きだとカイルから聞いていたから。」
そういってルル様はふわふわの綿飴の様なキリアを私に差し出した。
「これ…貰ってもいいのですか?」
「スーのために買ってきたんだ。元気がなくなったからコレを食べて元気になってもらおうと思って。」
ルル様の優しさに心が温かくなる。
「ありがとうございます。ルル様って本当に優しいですね。」
「俺か?俺はスーだけにしか優しくない。」
私だけ…?思い返してみれば…ルル様が優しくしている姿見た事ない…というかやたら私にだけ優しい。まるで小さい妹を可愛がるように優しくしてくれる。だから私の事は妹として見てくれているのだと思っていた。
けど…それがルル様の愛情の伝え方だったんだと改めて思い知らされた。
さっきまでモヤモヤしていた私は何処かに飛んで消えていた。
「ふふっ 私って単純だな。」
キリアを食べながらつい笑ってしまう。
ルル様もそんな私を見て口角を少し上げて笑っていた。